157センチ
「ワインでいいか?」
リーが男に声を掛ける。
「・・・ああ、、、しかし、、従業員用なのにかなりなワインだな?」
「あ?、、、ああ、、クロエの命の恩人だもの。半端なものは出せないデショ?」
赤ワインと、チーズやナッツ、ドライフルーツなんかを出して、グラスに注ぐ。
「変なものは入っていないヨ、王太子殿下。」
「あ、、、ああ、、、ありがとう、栄国、次期宰相殿。」
「・・・・・」
「・・・・・」
「お前、見張ってたんだろ?タイミングいいはずだよね。」
「・・・見張っていたのは、相手のほうな。だんだん動き出すだろうから。
そういうお前も、フールに1年、イリアに1年、この春からブリアで、、、、何をこそこそ探っているんだ?この前は、ラーシに行っていただろう?
国元に帰って、愚鈍な次期皇帝を教育したほうがいいんじゃないのか?」
「こそこそなんかしてないヨ。国元に帰ったら自由なんかないから、今のうちに羽根をのばしてイル。社会勉強ってやつ?
愚鈍、、、、はひどいな。否定しないけど。おかげで、期限付きの自由だヨ。
お前こそ、、、、自分家のこと、ちゃんとしろよな。」
「はっ?」
*****
フィル、と名乗った男は、時折やってきては、うちの晩御飯を食べたり、リーと宿泊所の宴会に参加したりするようになった。胡散臭い者同士、意外と息が合うらしい。
昼間見たら、不健康そうな青白い顔をしている。
俺はクロエを助けてもらったのに、殴っちゃったから、、、、まあ、好きにさせている。クロエはせっせと4人分の晩御飯を作るようになった。怪我はさほどではなかったから。それでも、皿を洗ったりは手伝うことにしている。俺。
「フィルさんは、もっと食べたほうが良いわね。がりがりじゃないの??」
「・・・・・」
「こいつ、貧血気味なんだよね。時々、倒れそうになっているし。」
「まあまあ、、もっと食べなさい。大きくなれないわよ?」
4人の食卓はなにかとにぎやかだ。
宿泊所のダイニングから、リーが一つ椅子を持ち込んだ。
クロエは、、、俺が四六時中着いているわけにもいかないので、居ない時はリーかマッテオに着いてもらっている。っていうか、、、替わりがきくところには、この二人とカールに行ってもらっている。一緒に行けるところは、クロエを連れて行くことにしている。パオラが、ニコニコして見送ってくれる。まあ、、、、いい、、、
「あいつさ、、、、一服盛られてる。この前倒れた時、腹を触ったら、脾臓が腫れていた。なんていうの、、、毎日、少しづつ、、盛られてる。俺のブリア語で通じるか?」
「え?ああ、、、、」
「なるべくうちの飯を食うように言ってある。クロエの飯か、マキシの飯な。あと、水を大量に飲むように。」
「ああ、、、、なんだか、大変な環境にお住まいの方なんだな?」
「ああ。」
フィルとクロエが台所で皿を洗っているときに、リーが小声で言う。
これまた、、、面倒な奴になつかれたな。
「それからな、、、、いよいよフールは始まるみたいだな。」
*****
冬が近づく頃、フールの軍部が蜂起した。国王を監禁し、国土を押さえに走っている。国王派が反撃に出たので、国内は火の海らしい。
不幸にして、どちらもそれなりの装備をそろえているので、長引くだろう。
まあ、、、、武器商人は儲かるな。
国境を接するブリアも栄国も、唯一の陸路である山脈沿いの街道を閉鎖し、軍を配置した。イリアも、軍港に兵を集めた。飛び火は勘弁だ。
どちらにしろ、この時期、大雪が降るうちの国境は比較的安心。
国境を超えるとしたら、、、春だな。
せっせと高位貴族や将軍を懐柔しようと動いていたルビー商会は、王太子の指示で壊滅された。一人残らず処刑。少しでも、なびく素振りを見せた者は、領地も地位もはく奪され、処刑もしくは国外追放。かなり重い処分だった。
もちろん、先頭で動いたのは将軍、その人。うまく、騙されたふりを続けたもんだ。
ここまで、、、、あっという間に抑え込んだ王太子の力量に、正直、驚く。
前評判はあまり良くなかった。
身体が弱く、寝込んでいる、、、、弟のほうが適任じゃないのか、、、、そんな噂だったから。
「当主、、、、王太子殿下より、、、、本日王城に上がるように、通達が来ています。」
何時もの朝のように、迎えに来た馬車にクロエと乗り込み、カールから今日の予定を聞く。12月になったらさすがに寒いねえ、なんて話してたのに、、、、
「え?」
「まあ、、、、レオ、、、処刑されないわよね?」
真顔で言うな、クロエ。
「私も行くわ。死ぬときは一緒よ!」
いや、、、、処刑前提はおかしいでしょ?俺、戦争関連の仕事してないし、、、ああ、、ラーシの金属か?だろうな。金は全額前払いで、そのまま加工させているから。
軽く、丈夫に、の加工がことのほか難しかったらしく、何度かサンプルが送られてきたが、リーが突っ返していた。いまいちだったらしい。
商館に着いて着替える。
着換えはいつもより力が入っていた。髪型も念入りに整えられる。
みんな情報を共有しているので、静かだ。内心ドキドキか?
ルビー商会の処分が早かったので。
いや、、、、うちは大丈夫。多分。
「お前、本当に一緒に行くの?」
俺の着替えが終わってから、さっさと自分も着替えたクロエに聞く。
「もちろんです。レオのことは私が守りますから!」
「・・・・・」
だから、、、真顔で言うな。
薄っすら、、、、緊張のためか顔が赤いぞ。
今日の冬用のワンピースも、よく似合っていて、、、、かわいいな。少し背が伸びたか?ヒールが高いからか?
ドアをノックして入ってきたのは、リー。正装している。まあ、カールの衣装だろうけど。
「お前も行く気?」
「ああ。こんな面白そうなこと、見逃せないデショ?」
結局、3人で馬車に乗り込む。
御者台のノアが緊張している。大丈夫だよ。多分、、、、
いつもより、警備が厳重な城門を過ぎ、書状を見せて通してもらう。
案内役に応接の間に通される。
座って待つように言われ、しばしくつろぐ。まあ、、、くつろげないけど。
クロエがさっきから俺の手を握って離さない。緊張しているんだろう。
リーは調度品なんかを眺めている。相変わらずだな、、、
王太子殿下が入室してきたので、立ち上がり、頭を下げる。
「いいよ、座って。」
同行してきたのは、将軍と、宰相を兼ねている公爵殿下。
「前置きはいいね。君を呼んだのは他でもない。ラーシで君が押さえている金属についてだ。」
やっぱりね、と思いながら、顔を上げる。
え?
驚いた俺の顔を見て、王太子がにっこりと笑う。
・・・・・お前、、、、
「フールの国内情勢については、もう知っているだろう?
早くて、来年の春にはブリアに攻めてくる。」
「・・・・いや、、、内乱で終わる可能性もありますでしょう?」
「ルビー商会が、ブリアに兵器を売りたがっていたのは知っているだろう?
ノリノリで買ってくれたと、フールの元締めに情報を流しておいた。いまは混乱しているから、情報のすり合わせもできないだろうからな。」
「・・・・・」
なんて、、、めんどくさいことを、、、、
「自分達で自国を荒らして、、食糧が足りなくなる。自滅、だな。その前に必ず、またそそのかされて、ブリアに入る。」
「・・・・・」
「戦は、必要最低限に留める。まあ、一歩でもこちらの国に入ったら、宣戦布告とみなすから。すぐに終わる。そこで、、、、」
「・・・私は、武器の提供は致しません。自国民が死ぬことに変わりはないでしょう?」
「・・・そうだな。だから、死なないための装備を作れ。急いで、1万。
正規軍はフル装備だが、非正規軍は農家の次男、三男とかだ。その者たちが死なないための装備、だ。これならお前の主義に反しないだろう?どうだ?」
「・・・・・」
「・・・嫁を助けてくれたお礼に、何でもする、って約束したよね?レオ?」
「・・・・・」
こいつ、、、、、、、
「本当に、すぐに収束するのですか?その後は?」
「国内で、疲労し切っている兵士は、そんなに怖いものではない。さんざん、国内で体力を消耗してほしい。フールはうちが治める。まあ、ゆくゆくは独立させるがな。
栄国の緩衝国として、しっかり働いてもらわなければならないから。
現国王は、もう処刑されただろうから、その子供を教育する。まだ7歳くらいのはずだ。」
「・・・・・」
「協力を、《《お願いする》》レオナルド。かかった経費はもちろん、フールからの賠償金で払うよ?」
「・・・・承知いたしました。」
・・・断れる人がいるんだろうか?
ふっと笑ったフィルは、最初にあった頃より、随分と顔色が良くなった。
帰りの馬車では、ノアが俺たちの帰還を泣いて喜んでくれた。心配かけたね?
・・・しかし、春まであと4か月?1万の装備??
何を、、、
隣でおとなしくしているクロエの額に縦皺がよっている。
「・・・・スコップ、ですわね?」
「は?」
「こうです。みんな見てくださいね。」
執務室に戻って、みんなに取り囲まれているときに、クロエが、絵をかきだした。
それは、、、、まんま作業用のスコップを逆さまにしたものに、ほんの少し曲げられた金属板が取り付けられたもの。・・・・・盾、か?
「そう。盾です。今から鎧兜の用意は無理でしょう?あと4か月しかありません。
で、手っ取り早く、盾です。」
「しかし、、、なんでスコップ?」
「持ち手代わりになるから。と、、、戦争はすぐ終わると聞きました。その後は?フールの復興でしょう?・・・・ただ、、、、その前に、、、、フールの戦死者を弔わなければ、復興は始まりません。疫病も蔓延するかもですし、、、、で、スコップ。」
「はあああ、、、、なるほどね。」
「そうだなあ、そのまま農作業にも使えるし。スコップ外したら、重ねて持ち帰りやすいしな。うん。外した奴を何かに使えないかな?」
「今作っている加工鉄板の、弓矢に対する強度を確認しないとな。」
「あまり重くてもな、、、、非戦闘員は歩きだろうから、、、」
「スコップの柄に、丈夫で軽い木材を探さなくちゃな、、、、あとは、動かないように固定するのに、、、、」
みんなが、クロエの提案を受けて、改良点や問題点について話し出した。
決まり、かな。
「じゃあ、みんな、よろしく頼むよ。期限は4か月。引き渡しは、、、そうだな、進軍するときについでにラーシに寄ってもらおう。」
「そりゃいいですね。帰りも寄ってもらって下さい。金属回収して、鍬でも作ってフールに売りましょう。」
「そうだな、鍬でも、鍋でも、生活に必要なものを作ろう。」
リーはなんだか楽しそうに笑ってみている。
行動は早かった。
キャラバン隊のみんなはハウル領の師匠のところに、、、、あのあと、そのまま居座っている、、、豚の出荷の手伝いに行っていたので、帰りにそのままラーシに向かうように指示。もちろん、、、師匠にも事情を説明する手紙を送った。
事務方からも何人かラーシ領に送る。
足りない資金は、イーサンに言って持ち出させた。
作業の段取りは、隊長に任せておけばいいだろう。
王太子殿下に、詳細を報告しようかと思った頃、、、、、ふつーーーーに、フィルが晩飯に現れた。
「あら、フィルさん、お久しぶりです。今日は、ハウル領から豚肉の塊が届いたので、ポークソテーですよお。はい、レオもリーさんも席についてください。」
クロエも、ふつーーーーに晩飯を出している。
「ご近所の皆様にもおすそ分けしたんですよ。パオラさんたちにも置いてきました。宿泊所の皆さんがいないので、余ってしまうので、、、ハムとベーコンを作りますね。
今度のお休みに、レオ、手伝ってね?よろしく。」
「・・・うん。」
ポークソテーはかなり美味かった。
ハウル家のいい産業になりそうだ。
フィルが珍しく、赤ワインを持参したので、3人で飲む。
「・・・大丈夫か?このワイン?」
リーがなかなか口をつけない。
「普通に美味いよ?」
「ああ、大丈夫だよ。家から持ってきたものじゃないから。」
「・・・・・それもどうなの?」
これもまた、ハウル領から送られてきたチーズを盛り付けて運んできたクロエが、
「私ね、、、、先日、意外な場所で、フィルさんにそっくりな人に会ったんですよ?」
「・・・・・」
「・・・・・」




