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148センチ

それは突然来た。


俺は、久しぶりの休みに惰眠をむさぼっていた。昨日は遅くまで飲んだし。

だから、、こんなに朝早くから玄関のドアを叩きまくられるのは、、腹が立つ。

寝たふりをしていたが、今度は勝手口をたたき出した。

・・・誰?


「・・・はい?何?」


自分でもかなり不機嫌な声だと思う。

勝手口のドアを少し開けたら、小さい子がするりと入り込んだ。


「・・・お前?だれ?」


入り込んだ子供は、垣根を乗り越えてきたのか、自分のスカートをぱんぱんと払い、貴族風のきれいな礼をした。着ている服も、それなりのものだと解る。


「え、と、レオナルド様の本宅はこちらでお間違いなく?」

「・・・ああ、、、」

「ハウル侯爵家から参りました、クロエと申します。今日からよろしくお願いいたします。荷物は後程届きますが、、、入りきるかしら?」


その子はぐるりと俺の家を見回して、あちこちドアを開けたり締めたりしている。

いや、、、、部屋はここだけだし、、、後のドアは、台所とトイレと、風呂だけ。独身者にはちょうどいい広さだから、、、何やってるの?この子?

昨日、脱ぎ散らかした服や、飲み足りなくて飲んだ酒の空き瓶とか、蹴飛ばしたごみ箱のごみとか、、、俺の部屋、、、汚な!


俺は二日酔いの頭を抱えて、もう一度聞く。

「だから、、、チビ助、お前、誰??」


「はい。本日、レオナルド様に嫁いでまいりました、クロエです。クーとお呼びくださいね。」


にっこり笑うこの子供の言っていることがよく理解できずに、、、唸る、、、なに??

なんか、、、新しい詐欺?

まさか、、、俺の子供???

いや、、、、心当たりがあり過ぎて怖い、、、12歳くらい?12年くらい前、、、誰と付き合った?金髪碧眼の高貴そうな娘といたした記憶は、、、ないような、、、いや、、、、

俺、、、なんか自信ない、、、まあ、いいか、取られるものはないから、、、寝よう、、、


俺は、二度寝を決め込んだ。

起きたらいなくなっているだろう。




*****

夕方、シチューのいい匂いで起きる。


シチュー?なんで?


ガバリと起き上がった俺が見たのは、、、綺麗に片づけられた部屋と、これまた綺麗に片付いた仕事用の机に用意された、湯気を上げているシチューと、焼き直したバケット。

「食事用のテーブルはないんですのね?こちらに用意しましたので、食べましょう?

椅子は、台所にあった丸椅子を一つお借りしました。」


薄いカーテンが閉まった部屋は、夕方のようだった。

そそくさと、その子供が、ランプに火をともす。ランプも磨いたようで、なんか綺麗。


「はいはい、席にお付き下さいね。」


俺は、、、なんだかよくわからないまま、席に着いた。腹が減っていたし。

その子は、食事前の御祈りをすまして、召し上がれ、と、笑った。


シチューは美味かった。

正直、家で飯を食うときは買ってきたものを食うぐらいだから。キャラバン隊では男飯を作ってみんなで食うが、、、、。女はいろいろいるが、自宅に入れたことはない。嫁さん顔されたらたまらないから。外で酒を飲んだり、、、、やるだけ。


そっと、お代わりをよそってくれる。

腹いっぱい食った。


「で?チビ助?あんた、誰?」


チビ助は、三つ編みにした金髪を揺らして笑う。顔が真ん丸だな。そう、、、発酵が終わったパン生地?マシュマロ?みたいにふっくらしてる。

後片付けしてくれているその子に、もう一度聞く。


「はい?ですから、、、貴方のお嫁さんですよ?ふふっ

それから、、、レディに向かって、チビ助は失礼ですよ。もう13歳ですし。148センチはありますから。これから大きくなるんです。」


ん?


ああ、子供用の本にあるな、、、カエルとか、鶴とか助けて、嫁に来てくれる話、、、

そんな感じ?俺、何か助けたっけ?



「レオナルド様に、父が、借金を肩代わりしていただいて、、、、弟が、爵位を継承するときに負担になることが心配でしたが、、、、これで領地も弟の心配もなくなりました。本当にありがとうございます。父が、とてもいい方だと。家庭教師の先生も応援してくださいました。ですから、、、何も心配しておりませんよ?」


にっこり笑って、台所で皿を洗い出した。いつの間にか、エプロンとかしてるし。


あ、、、なんか、、、思い出したかも、、、



ハウル侯爵家は、北西部の山脈のふもと、ブリア国内では珍しく畜産が中心の領地。

この地で、今年の春先に、大雪崩が発生した。冬に、稀に見る大雪だったらしい。

王都に住んでいると、20センチも降ると大雪だが、多分、比較にならないほどの雪なんだろう。

この雪崩で、侯爵家が公社として運営している牧場に多大な被害が出た。作業従事者8名。春先に放牧を始めたばかりの牛、100頭。畜舎ごと。作業員の宿舎。

作業員の家族には見合うほどの慰謝料。宿舎、畜舎の再建、、、何より、、、牛は、その半数が、領民から委託されたもの。この補償。牛も、急には増えないので、隣国から、、フール国は酪農王国なので、、、子牛を買い入れたい。

急場をしのぐのに、養豚も始めたい。牛より増えるし、早く売り物になるからね。

いいところに目を付けたと思うよ。


・・・・大変な借金になる。


補償は最優先で行った。が、どうしても、フールから買い入れたい子牛や、新規事業としての養豚にかける費用が捻出できなかった。


王都にある俺の商会の応接室で、そんな話を聞かされた。

フールでの取引にコネがある俺に相談に来た侯爵は言った。


「10年をめどに返済いたします。その、、、」

「10年?立替払いしろってことでしょうかね?」

「・・・・・」

「まあ、かなりの金額になりますよ?輸送費もかかりますし。畜舎等の再建もこれからでしょう?」


秘書のカールが、そっとハウル侯爵家の財政資料を渡してくれた。

目を通すと、、、なかなか手堅い経営を行っている。まあ、たまに頼まれて、馬の買い付けをしたりしたから、調査済みだけれど。


「…10年ねえ、、、」


頭を下げる侯爵家当主を眺める。

俺のような平民に、、、まあ、俺としては、、、、、一番初めに《《使用人の家族》》に補償をしたこの人に投資してみるか、、、


「カール、契約書を。」


契約書を取り交わし、早速、フールにいる俺の商売の師匠に手紙を書く。

早ければ、子牛や子豚は、夏前には届くはず。養豚は初めてというので、指導員も2.3名付けてくれるように依頼する。


軌道に乗ったら、うちで加工所を開いてもいい。


「フールから養豚の指導員を。うちから、財務補佐を1名出しますから。ああ、給与はうちで持ちます。では、10年、頑張ってみてください。これは、、、僕の投資ですから。お忘れなく。」


ブリア国内で、養豚業が成功すれば、フールから買い付けている豚加工品、ベーコンとか、、、が、大きく国内生産にシフトする。輸送費がかからないから、今よりよほど安く市場に卸せるようになるな、、、、


「・・・何も、、、担保にいれれるようなものがないのですが、、、、」


侯爵が何か言っていたが、聞き逃してしまった。先のことを考えていたから、、、、





「ああ、、、お前、、、御令嬢なのに、なんで?掃除とか洗濯とか?料理とか?」


子どもに言うにはちょっと意地悪かな?

まあ、自分の娘、とか言って、女中でも寄こしたんだろう。まあ、、帰ってもらうから、いいけど。


「はい。家庭教師が厳しくて。母が、早くに亡くなりましたので、家のことはできるように。」

「だって、、使用人がいるだろう?」


「その使用人のやることが出来なければ、指示もできませんでしょう???」


当たり前のように、そんなことを言いだした。ぷくぷくの手は、皿を拭きながら、、、


「財務管理も、領地運営も、仕込まれました。もちろん、社交も教養も。」

「え?お前いくつだっけ?」

「13歳です!」


13、、、、全体的にぷくぷくしているので、言われた年よりは幼く見える、、、俺が17の時の子は、、、こんなに大きくなるのかあ、、、いや、違うから。


ついつい、親目線になってしまう。


「で?いつまでいる気?俺の部屋、ここしかないし、ベットだって一つしかないし。遅くなると家族が心配するから、帰りな。」

ほら、ほら、帰りたくなったでしょ?こんなおじさんと一つベットでは寝れないでしょ??


「お気になさらず。大丈夫ですよ。だって、私たち夫婦になるんですもの。」


にこりと笑う。持ってきた大きめのカバンから寝間着を取り出してさっさと着換えると、、、、

「おやすみなさい。旦那様。半分は開けておきますからね?」

俺のベットに潜り込んで寝てしまった。え???


充分寝たので、眠くはないが、、、、金髪の少女の寝返りに、びっくりする。



え???













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