【短編】うしろのしょうめん
「「かーごーめーかーごーめー かーごのなーかのとーりーはー いーつーいーつーでーやーる」」
園庭から懐かしい童歌が聞こえ、耳を傾ける。
今の子どもたちでも知ってるんだ。
(そういえば、ああいう遊びってどうやって覚えてくるんだろう)
私が子どもの時だと確か、近所の友達がやっててそれに入れてもらって覚えたような。
だめだ。30年も前のことだから、まったく思い出せない。
缶蹴りやドロケイなんかもやったなぁ。
あー、懐かしい。
小さい時は難しく考えなくて、ただ毎日が楽しかったなぁ。休み時間の15分で運動場まで行って遊んで教室に戻るとか、よくできてたよね。時空が歪んでたんじゃないかと思う。
……別に今が楽しくないとか、不満が溜まっているとかじゃないんだけど。
簡単な事務作業を終え時計を見ると、帰りの会の時間が近づいていた。
そろそろ、園庭で遊んでいる園児たちに声をかけなければ。
「おーい、もう帰りの会が始まるから、遊ぶのおしまーい。一輪車やボールはお片付けしてくださーい」
園庭のあちらこちらから、元気な声が返ってくる。
「せんせーい!さいごにかごめかごめしよー!」
「もー、一回だけね」
「やったー!」
まあ、みんなが遊び道具を片付ける間には終わるでしょ。
「せんせい、なかにはいって!めーあけないでよ!」
「はーい、わかりました」
屈むの少しキツイな……。
「「かーごーめーかーごーめー かーごのなーかのとーりーはー いーつーいーつーでーやーる よーあーけーのばーんにー つーるとかーめがすーべったー」」「「「うしろのしょうめんだーれ?」」」
ぞわりとして後ろをバッと振り向いた。
後ろには園児がポカンとした顔で私を見ていた。
気になっていたことを尋ねる。
「ねえ?誰がこの遊び覚えてきたの?」
「だれだっけー?」「しゅんくんでしょ?」「ちがうよ!ゆみちゃんでしょ!」「ゆみじゃないよー」「わかんない!」「あっ!たけしくんでしょ!」「おれじゃない!」
「ぼ、ぼくです」
おずおずと恥ずかしそうに手を挙げた子に視線が集まる。
私が勢いよく振り向いたせいで、戸惑っていた子だ。
「そうだったのー?」「もー!はやくいってよー!」「たのしかったねー!」「ほら!おれじゃなかった!」
このままだと、ずっとおしゃべりが続きそうだ。
周りを見渡すと、他の園児たちは遊び道具を片付け、お部屋に戻っていた。
急いで、声をかける。
「そ、そうなのね……。さあ!帰りの会が始まっちゃうわよ!お部屋に戻ろう」
「「はーい!」」
そういえば、あんな子うちの園にいたかな?
少しの違和感を覚え、部屋に戻っていく子どもたちの後を追う。