あなたの罪は許されるでしょう【Twitter140字小説16の物語その2】
Twitterに掲載した、1話140字以内の物語が16個あります。お楽しみいただければ嬉しいです。
【No.1】
銀行口座に誤って500億振り込まれた。俺は即座に全額を仮想通貨に突っ込んだ。ロボットの体を手に入れ、偽の銀行口座、偽の戸籍、偽のパスポート、火星へのチケットを用意した。今ロケットに乗って火星へ向かっている。地上の警察ども。俺を捕まえてみろ。最早この宇宙のどこにも以前の『俺』はいない。
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【No.2】
「手品の中継があるんですよ」
「ここで」
「あのドローンで全国に流されます」
船の上で同乗者に告げられた。
確かに上空に黒い点が見える。
「手品師が拍手をした途端川が赤く染まるんです」
「へえ?どうやって?」
「簡単。下はピラニアの群れなんですよ」
私は船のへさきから突き落とされた。
(#呟怖 に応募 お題『川と船』)
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【No.3】
『やる気になる薬』を手に入れた。
怠け者の高2の息子に与えた。ゲーム機を放り出し問題集を解き始めた。
難関大学を楽々パスした。就職は『勉強の邪魔だ』とやめてしまった。寝食以外は机に向かう。何度も製薬会社に電話して「やる気を止めてくれ」と必死に訴えた。
「そんな薬はありませんねえ」
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【No.4】
「また明日ね」と言える友達がいて嬉しい。2人で出かけるマック、カラオケ、ゲーセン。転校すると聞き抱き合って泣いた。月日は流れ就職をした。会社で「また明日ね」なんて約束はしない。道でばったりと彼女に再会。「地元に戻ってきたんよ」「ほんとに!?」帰り手を振りながら言った。
「また明日ね」
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【No.5】
僕は腹話術士だ。
幼馴染が子供と一緒にショーを見に来てくれた。舞台の上から美しくなった彼女と5歳の女の子が見えた。
お母さんはね。君と同じ年の頃、僕に言った。「けっこんしようね」
人形との掛け合いに観客がどっと笑う。
「おしあわせにー」
人形が勝手にセリフを言ってさらに観客席が沸いた。
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【No.6】
人は死ぬ直前の心持ちで天国に行くか地獄に行くか決まるのだという。
私はありとあらゆる悪を行った。殺人・強盗・強姦・ゆすり。
死に際し神父を呼んだ。美しく威厳をたたえていた。告白し懺悔する。
「あなたの罪は許されるでしょう」
穏やかな気持ちで死への途につく。
普通に地獄に落ちた。
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【No.7】
「消しゴム貸してよ」
授業中。あなたはペンケースごと貸してくれる。
手紙を忍ばせて返す『アイス食べにいかない?』
アイス屋で言われる「消しゴム持ってたろ?」
私の指を鼻に持って行った。
「香りつき消しゴムの匂いだ。俺のじゃない」
そうだよ。本当に借りたかったのはペンケースの方だもの。
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【No.8】
鶏肉を2パック揚げている途中で子供が「ママ〜。1個味見していい?」と言うので「いいよ〜」と答えた。ふとテーブルを見ると唐揚げがほぼ無くなっていた。
「これ以上はダメッ。パパの分があるからっ」
慌てて取り分けたところ私の分が2個しか残らなかった。上の子がそのうち1個を「ひょいパクッ」と食べた。
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【No.9】
昨日夜、お昼ご飯用に肉じゃがを作った。ゆっくり起きて鍋を見ると『肉とじゃがいも』が全て無くなって『にんじんの煮物』になってた。「どういうことなのっ」と上の子を問い詰めたところ「肉が美味いんだよなぁ……」って。「美味いんだよなあ」じゃないよ。お昼ご飯はお昼に食べろ。にんじんも食べろ。
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【No.10】
女物しかない洗濯物に男物が混じり始めた。主人は長期出張でいない。レースの靴下が黒の無地になりピンクのTシャツがナイキの白に変わった。全てが男物になるころ娘だったはずの子供が息子になっていた。
「あれは偽りの自分だったんだ」
17年間風にひらめいていた偽りの娘。笑ってくれるなら。それで。
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【No.11】
着ぐるみショーを5歳の娘がみている。「Aさんだ!」
『中の人』は3人。動きでわかるらしい。ある日「Aさんなんかおかしい」と言った。次の回から出ない。テレビ局に電話、絶句される。「はい。一命は取り留めました」
3ヶ月後「Aさんだ!」娘が笑った。良かった。私の目にはいつもの犬が踊っている。
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【No.12】
初詣で必ず買うお守りがある。カエルの絵が刺繍されている児童用のお守りだ。ランドセルにしっかりとくくり付ける。
「かけっこがビリでもいいよその代わり毎日無事に帰ってきてね」
ガタゴト。学童品が縦にぶつかるランドセル。消えていく背中を母は今日も見送るのです。
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【No.13】
3年に1度、貴方と私は片方の眼球を交換する。貴方は西から東に星を一周し、私は南から北に一周する。再び会ったときお互いの眼球を元に戻す。眼球が貴方の見てきた景色をすっかり見せてくれる。今度は反対の眼球を取り替える。それぞれの旅に出る。私達はいつも離れていて、いつも一緒に旅をしている。
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【No.14】
僕の母さんは料理が上手い。春巻き、ロールキャベツ。焼売だって手作り。時々「今日はお母さん休み!」と叫ぶ。夕飯がマックやピザや牛丼に代わる。仕込みも後片付けも無し。マックの紙袋。ピザの箱。牛丼の器。ゴミ箱にポイ! 全然嫌じゃない。僕らははしゃぎ、母さんは満面の笑みでビールをあおる。
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【No.15】
中国人の彼氏と別れた。彼はシェフ。回鍋肉はタレが絶品。海鮮おこげは匂いがたまらない。杏仁豆腐は蕩けるよう。「貴方と別れても、料理にはサヨナラできない」と嘆くと「大丈夫。君のためならいつでも作るよ」と囁やいてきた。半年後メールをもらう。
『池袋に中華飯店開業!!』
元彼女割引はないそうだ。
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【No.16】
「花火をしましょう」
宇宙人が言った。人類は滅んでいた。地上に残るあらゆる兵器が打ち上げられた。何百億という光と衝撃と土埃で残りの生き物が絶滅した。
「人間は愚かでした」
音の絶えた地表にザザザーッザザザザーッと波だけが寄せては返す。生物が誕生する何億年も前から波は続いている。絶滅した後も。
(終)
お読みいただきありがとうございました!
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【2022年5月29日初稿】
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