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悪役令嬢 フリージア様

魔王討伐後に婚約破棄されるフラグが立った悪役令嬢ですが、お気楽聖女の自己犠牲ムーブが純粋にムカついたので、悪意の下、やつらの出立式前に魔王討伐完了してやる事にしました

作者: tea

10/21 本編の後ろに 【side ドロテーア】 加筆しました。

10/23 更に後ろに 【side ザーラ】加筆しました。

ある午後の事です。

学園の廊下で特に親しくも無い女生徒にいきなり気安く話しかけられ、イラっとしました。


侯爵家と同等の力を有する辺境伯令嬢であり、妃教育を受けて来た私が彼女を知らないという事はつまり、彼女は貴族でも無いという事。

平民の方から、王太子の婚約者としても有名なこの私に声を掛けてくるなんて……。

無礼を通り越して頭が弱いのではないかと最早心配になるレベルです。


すぐに私の取り巻きである、緑の髪と金色がかった榛色の瞳が美しい伯爵令嬢のザーラと、少しふくよかではあるもののツンツンと跳ねたピンク色の髪が愛らしい子爵令嬢のドローテアが


「平民の分際で!」


「なんと無礼な!!」


とそれを咎めてくれましたが、その者は自分の何がいけないのか全く分かっていないのか、その非礼を詫びるどころか何やら不思議そうな顔をして去って行きました。



ヤレヤレと思ったその時です。

その者が私の婚約者であり王太子であるヴィルフリートを見つけるなり、彼の腕に纏わり付くのが見えました。

そのあまりの不敬な行動に周囲がザッと凍りつきましたが、当の王太子は鼻の下を伸ばしたまま、何やら慣れた様子で女生徒の好きにさせています。


「殿下、その者は?」


不愉快さの余り催した吐き気を精一杯こらえ、そう尋ねれば


「彼女は先日魔王討伐の為に異世界より召喚された、聖女サラだ」


ヴィルフリートは勝ち誇ったようにそう言うと、私の前でわざわざサラのその癖の強い黒髪を撫でて見せました。


嫌い合っているとは言え……。

仮にも婚約者である、馬鹿王子の平然と浮気心を匂わせるその行為に、こちらを下に見るような表情に思わず嫌悪感から鳥肌が立ちます。


「聖女? 私に遠く及ばない魔力しか持たない癖に?」


思わず率直に思った事を伸べれば、


「そうだフリージア! 貴様は先日自らの魔力の高さをひけらかしサラの事を蔑んだばかりか、取り巻きを使いサラに怪我をさせたそうじゃないか!! 嫉妬の余りか弱い少女に暴力を振るうなんて、何て心根の醜い女か! いいか? サラと僕は来月魔王討伐の旅に出る。貴様が身分を笠に着てサラに対してそのような態度を取れるのも今だけだからな! よく覚えておけよ!!」


馬鹿王子が、訳の分からない事をほざき返してきます。


取り巻きを使って怪我?


一瞬、本気で何の話か分かりませんでしたが、少し考えた後、先日の魔法の授業での模擬戦の事を言っているのであろう事に気づきました。

そう言えばこのお粗末聖女、先生が止めるのも聞かず、実力差は明らかなのに何を思ったのか


「強い方と試合が出来るなんて、私ワクワクしちゃいます!」


とか何とか言いながら、私に強引に試合を申し込んで来たんでしたっけ?


弱すぎる相手に怪我をさせないよう加減するのは骨が折れるので断ったのですが、一向に引き下がる気配がなく……。

仕方なく私よりは魔力が劣るドローテアが、それでも魔力を押さえる事に四苦八苦しながら相手をしてくれたのでした。


しかも怪我って。

髪の毛先を焦がした末に、自分ですっ転んだだけでしょうに。


ってか、か弱き少女を異世界に攫っておいて魔王討伐させようとするのは、そもそもありなんでしょうか?



そんな事を思い、脱力する私の心を知ってか知らずか


「ヴィル様、私なら平気です。魔王だって怖くありません! たとえどんなに辛くても、私、耐えて見せます。私達で、必ず世界に平和を取り戻してみせましょうね。……でも、ヴィル様と一緒に旅が出来るなんて、それもなんだか少しワクワクもしちゃいますね」


そう言ってその魔力など私に遠く及ばないお粗末聖女は、馬鹿王子に向かい無邪気そうに笑って見せます。


むーかーつーくー!!


なんですか。

『ヴィル様と一緒に旅が出来るなんて、それもなんだか少しワクワクもしちゃいますね』?!

完全に旅行気分じゃないですか!

初めてですよ、ここまで私をコケにしたおバカさん達は!


っていうか、このお粗末聖女は先月魔王の存在が確認されたのより、少し前から多くの人が凶悪化した魔物の被害に苦しんでいるのを知っているんですかね?

前回の魔王討伐時には多くの死者だって出たというのに……。



そこで、私は……。


「行きますよ、ザーラさん、ドローテアさん」


取り巻きのザーラとドローテアを引きつれ、実家の力を使って、あの馬鹿王子の婚前旅行計画を完全に叩き潰してやる為、この一か月の内に魔王をぶっ倒してやる事をその場で固く決意したのでした。





「普通こういう場合、魔王ではなく、サラとか言う生意気なあの女生徒の方を潰すのでは? フリージア様のお手を煩わせずとも、暴漢に襲わせるなり、暗殺するなりあの女を始末する方法くらい、いくらでもありますよ?」


廊下を歩きながら、王国の影の部分を統べる伯爵家の長子であるザーラが綺麗な顔で淡々と恐ろしい事を言ってきました。


あ、いや、私の為に怒ってくれるのは嬉しいですが、そういうのはちょっと……。

『純粋なる悪意の下、嫌がらせの為だけに全力で善行を施す』

が、私の人生のモットーです。







******



自分達の旅の準備を進める参考の為、ザーラに頼んで馬鹿王子達の装備やら計画やらを探ってもらったところ、驚愕の事実が発覚しました。


なんとあの馬鹿王子、聖女の他に、友人である剣士と魔法使いのみを連れて魔王討伐に向かうつもりでいるとのこと。

しかも装備は城に保管されていた、以前魔王討伐の際に使用された実用性の乏しい代わりに装飾が美しいアンティーク(お古)を使うつもりでいる様子。

あげく、食料やら寝袋やらが携帯リストに無いので、何故かと思えば移動は軍馬ではなく、王家の馬車を使い、街道沿いの街で宿を取って進むんだとか……。


あれ?

もしかして、魔王討伐っていうのは本当にただの建前で、やっぱり本当の目的は婚前(浮気)旅行に堂々と行く事でした???


辺境伯の威信にかけて、精鋭を集めた軍隊と最新の装備とを揃え、ゴリゴリの野営準備まで整えた自分が何だか馬鹿らしく思えた時です。


「さぁさぁ、お嬢様参りましょう」


我が家の家令見習いのギルベルトが、その芸術品のように整った綺麗な顔を甘くとろかせるように微笑むと、私に真っ白な手袋をしたその手を伸べました。


「参りましょうって……」


え?

貴方も一緒に来るつもりですか??


「私にはお嬢様方と違い魔力はありませんし学園にも通っておりませんでしたが、戦場育ちですからね。道中いろいろお役に立てると思いますよ」


言うなり、ギルベルトは私を軍馬の背に乗せると、まるで騎士の訓練を受けて来た者の様にヒラリと、自身も私のすぐ後ろに乗って見せました。

かつて戦争捕虜として奴隷市に出されていた彼のその見目を気に入って購入したのは私ですが……。

まさか彼が馬に乗れるとは知りませんでした。


「後ろ盾も何もない私を引き立ててくれるお嬢様に、まだ死なれては困りますからね。……いざという時にはこの命に代えてお守りします」


魔力もないくせに。

普段は気だるげにしていて、ふざけたことばかり言っていて何を考えてるのかよく分からない男のくせに。

こういう時にこういう事をサラッと急に真面目な声をして言ってしまえるのが、ギルベルトの(たち)の悪いところです。



……まぁ、準備もすっかり済みましたしね。

婚前(浮気)旅行の計画も人を害する魔王も、きっちり潰してやろうじゃありませんか。


「一か月。遅くとも必ず一か月以内に、魔王を倒してここに戻りますよ」


軍馬の上から皆に向かってそう言えば、私の悪意など露知らず、魔王討伐を願い自らの意思で従軍を希望した騎士達が


「オー!!!」


と勇ましい声を上げました。







******



魔王が誕生したとの報告があった東の果ての森までの日程を、綺麗な白馬の馬車で『あはは、うふふ』と観光がてらいろんな村や町に立ち寄りつつ向かうつもりだった馬鹿王子は『約三か月程度』と見做していたようですが……。


こちとら軍馬で直行ですからね。

七日もあれば東の森に着きました。


ちなみに馬鹿王子達が街に寄る理由は、宿に泊まり美味しい物を食べるという他に、魔王が誕生した事により強くなった魔物達を討伐して回るとともに、装備を強化していくという目的もあったようですが。

そんなの、私はガン無視です。


装備は既に末端の兵士まで最新鋭の物を与えていますし、凶悪化した魔物の被害は、悪の根源の魔王を倒してしまえば、ちょっと危険な害獣駆除のレベルまで下がるので住民たち自身でどうにか出来るようになるはずです。



前回の討伐の際には、やっぱり聖女様がのんびりしていたせいでしょう。


『魔王は溜まった悪しき魔力の濃度が濃くなって人型を取るくらい強くなっていた』


との記述が文献にありましたが、しかし今回は速攻で着いたのが功を奏し、まだそれはぼんやりしたただの瘴気の塊でした。

人の業を断罪する美しき魔王様となるはずのそれを、


「薙ぎ払え!!!」


と皆の力を以て塵芥も残らない程完膚なきまでに焼き払い、私達の魔王討伐は、ただの一人も死者を出す事なく無事完了したのでした。





一応、帰る道すがら兵士たちを各街や村に派遣して、残った魔物の討伐もしておきました。


『まだ残ってる魔物の残党の被害を防ぐ為、私、頑張って来ます! 偉大なる功績として残る訳ではありませんが、困っている方々と直接触れ合って支援出来るなんてワクワクします』


とかあのお粗末聖女に言われたら腹立たしいですからね。







******



馬鹿王子に難癖をつけられてから一か月後―


馬鹿王子とお粗末聖女の出立式で、


「既に魔王は討伐完了していますので、ヴィルフリート様が聖女様と旅に出かけられる必要は一切ございません」


と一笑に付してみせたところ、お粗末聖女との旅行を楽しみにしていたのであろう馬鹿王子から八つ当たり的に婚約破棄を申し渡されました。

婚約破棄は別に痛くも痒くも無かったのですが……。


お粗末聖女に、相変わらずワクワクしながら


「魔王を倒すなんて流石はフリージア様! ぜひ私とお手合わせを!!」


と能天気な事を言われた瞬間には、魔王と同様にうっかり塵芥も残らない程薙ぎ払ってしまいたい強力な誘惑にかられ、その衝動を抑えるのには骨が折れました。



そして、私の取り巻きであることを辞めなかったザーラとドローテアですが、彼女達もまた馬鹿王子の恨みを買ってしまったようで、馬鹿王子の取り巻き達で構成された社交界から爪はじきにされてしまいました。


しかしザーラとドローテアに巻き込んでしまった事を詫びたところ、


「いえ、結果世界は平和になりましたので。正直、出世とか高位貴族との結婚とか、別にどうでもいいので特に問題ありません」


と、なんか妙にやり切った表情で二人は颯爽と自らも社交界に背を向け王都を去って行きました。







さて、婚約破棄され嫁の貰い手が無くなった私ですが……。


仕方がないので、国の闇を統べるザーラの父であるリーグル伯爵を買収し、適当に見繕った平民の男を伯爵家の養子にしてもらい、それを婿として迎え入れ辺境伯の領地を引き継ぐ事にしました。


え?

その平民の男の名前ですか?

何でしたっけね。

確かギルベルトとか言ったかと思います。





後にギルベルトが実は誘拐され亡くなったと思われていた先王の正式な後継者であった事が発覚し(リーグル伯による陰謀論も囁かれていましたっけ?)、馬鹿王子を蹴落としこの国の王となり、ザーラとドローテアを王妃となった私の相談役として王都に呼び戻したのですが……。


まぁその話は全くの余談なのでざっくり割愛したいと思います。













◆◇◆◇◆◇◆


【side ドローテア】



フリージア様は、私がこれまで見て来た中で誰よりもお美しい方です。


その紫がかった癖の無い艶やかな長い髪も、ビスクドールの様に真っ白な肌も、そして猫のように小気味良くツンと吊り上がったその瞳も、その令嬢達の中でも頭一つ分くらい背が低く華奢で小柄な体つきも、どれをとっても完璧で。


ツンツン跳ねるピンク色の髪の毛と、小さい頃からぽっちゃりしていて今では縦にも横にも大きくなってしまった事がコンプレックスの私にとって、フリージア様はまさに理想の姿です。



そして、フリージア様はとてもお強い方です。


勿論その魔力は、長年国家の防衛を担って来た辺境伯の力を継ぐ方だけあって桁外れです。

一度、教師がフリージア様の魔力量を測定しようとして、


「彼女の総魔力量は……五十三万?!! 測定器の故障か?!!」


と、測定器をいじくりまわす姿を見た事がありました。(もちろん測定器は故障してなどいません)

歴代最強と謳われた聖女の総魔力量が十八万かそこらだったので、規格外もいいところです。



でも、私の言うフリージア様のお強さというのは、魔力量の事を言っているのではありません。

私が真に憧れるのはフリージア様のお心の強さなのです。


馬鹿王子……じゃなかった、この国の第一王子にして王太子のヴィルフリート様は短気で有名です。

それに加え王子としての自尊心やエリート意識が非常に強く、他人の指図を受けるのを極端に嫌っていらっしゃいます。


以前、意を決したフリージア様が馬鹿王子……じゃなかったヴィルフリート様の事を思い、御忠告申し上げられた際も、それを無視するばかりか五月蠅がって、わざわざ皆の前でフリージア様の事を遠ざけられた事がありました。


私だったら……。

他の貴族達の目がある中でそのような扱いを受けたら、悔しさと悲しさの余りその場で泣いてしまった事でしょう。


しかしフリージア様は、心配する私に向かい


「もともと自分のことを敬っておらず、自分勝手な人だった」


とゲンナリしながらも肩を竦めると、にっこり笑って見せて下さったのです。

そして驚く事にフリージア様はそれ以降、馬鹿王子(……面倒なので以降訂正は省略します)の機嫌を取る為自身の振る舞いを改めるどころか、徹底して馬鹿王子を避けて見せられたのでした。





『やい、豚! ピンクの子豚!!』


子爵家の娘である私にも、小さい頃より、私よりも爵位が上で一つ年上の婚約者がおりました。

しかし、相手の方は私のこの容姿がお気に召さなかったのでしょう。

大人の目の無い所では、事ある毎にそう私の事を蔑んで見せました。


しかし、その事を周囲の大人達に相談しても


「きっと彼は貴女の気を引こうと必死なのよ。いい? あまり五月蠅いことを言ったり、冷たい態度を取って彼に嫌われないようにね。将来彼に嫌われて辛い思いをするのは貴女なのだから」


そう言って、私に引き続き彼に対して従順である事のみを求めるばかりでした。


『どうして? 悪いのは彼で、悲しい思いをしているのは私なのに……』


そう思い、苦しくて苦しくて仕方なかったのですが……。

いつしか抗う事に疲れ、その疑問さえ忘れていました。





きっと。

きっと王妃教育を受けられたフリージア様は私よりもっと強く、そのように王子を立てるよう言われ続けていらっしゃったはずなのに。

フリージア様は弱虫だった私と違い、大人達の『従順であれ』との圧力に屈することなく、毅然と馬鹿王子を拒絶されたのでした。

実際、そのせいでフリージア様と馬鹿王子の関係はこじれ、大人達の言うようにフリージア様の立場は辛いものになった事に残念ながら間違いはないのですが、それでも……。


私はそれでも、俯くことなく凛と顔を上げていらっしゃるフリージア様のそのお姿に惚れ込んでしまい、勝手ながら一生フリージア様について行こうと、そう心に決めたのでした。







そんな私ですが、


「あのお粗末聖女と馬鹿王子が討伐と言う名の婚前旅行に出る前に、とっとと魔王討伐を済ませますよ」


そう言われた時は、流石に言葉を失いました。


確かに、フリージア様より遥かに弱い聖女に魔王討伐が出来るのならば、フリージア様に出来ない事は無いでしょうが……。

でもそれはあくまで、この場に魔王が現れればの話。

魔王が現れたのは王都より遠く離れた東の果ての森の奥深くと聞きます。

そんなところまで生粋の貴族令嬢であるフリージア様が向かわれるなんて。


しかも馬車でなく、軍馬を使って?

夜は近隣の街の宿を取るのではなく野営??


あり得ません!!

……普通なら。


「いいんですよ? 別に嫌なら無理してついて来なくっても」


まるで、帰り道にカフェに寄り道していかないかと誘ってくださる時の様に、フリージア様は軽くおっしゃるから。

だから私も


「もちろん、お供しますとも!!」


いつもの様に間髪を容れずそう答えました。

するとフリージア様はめずらしく嬉し気に、女である私でさえも恋してしまいそうなくらい優雅に美しく微笑んで見せて下さったのでした。







「お手をどうぞ、お嬢様」


そう言って軍馬の上から、その淡く煌めくマリンブルーの瞳を優し気に細めながら、細身ながらも筋肉質に筋張った手を伸べたのは、私より少し年下と思しきまだ若い兵士でした。

フリージア様の集められた特戦隊の兵の一人ですから、その幼げで、いっそ美しくも儚げにすら見える容姿に見合わず相当腕は立つのでしょうが……。

おデブな私を、彼が高い軍馬の背になど到底引き上げられそうにも思えなくて、自ら手綱を掴もうとした時でした。

その兵士は私が手綱に向けて伸ばした手をパッと取ると、あっさり彼と同じ目の高さまで引き上げて見せました。


そして……


「バルトルトと申します。どうぞバルとお呼び下さい」


そうまるで子犬の様に人懐っこそうにニコッと笑うと、バルはまるで背後から私を抱きすくめるように手綱を握りました。


「えっ? あの?!!」


突然の事に固まる私の気持ちを知ってか知らずか、


「お嬢様は乗馬にはあまり慣れていらっしゃらないとうかがっておりますので僭越ながら」


バルトルトはそれだけ言うと、私がそこから降りようとするよりも早く、いきなり全速力で馬を駆けさせたのでした。







「ドローテア? 大丈夫ですか??」


野営地点で馬を降りた後、倒れ込むようにしていたら、フリージア様に心配そうに声を掛けられました。


「はい……体は大丈夫です」


バルは、恐らく乗馬の名手なのでしょう。

かなりハードに飛ばしていた為、本当なら馬に慣れていない私は今頃グロッキーになっているはずなのでしょうが。

幸い、馬酔いする事も、お尻の皮が剝ける事も無く元気です。

体は……。


フリージア様にご心配おかけするのも申し訳ないと、抜けた腰を気合で入れ直し、立ち上がろうとした時でした。


「ドローテア様すみません、調子に乗って御無理させてしまってしまいましたね。冷たい水をもらって来ました」


甲斐甲斐しくも、意外と強引で人の話を聞かないところのあるバルが、私に水を飲ませてくれようと、彼の逞しい胸にもたれさせる様に私を抱き起し、挙句私の耳元で聞く人によっては妙な誤解を生みそうな、そんな事をしゃべるものですから……。

またしても腰が抜けて立てなくなってしまいました。







馬での移動も慣れた頃―


「バルは……本当は私ではなく、ザーラさんのお世話係がしたかったのではなくて?」


思わず気が緩んでバルにそんな事を言ってしまいました。


「ザーラ様の? どうしてです??」


「だって……私なんかと違ってザーラさんはほっそりした美人ですもの」


まるで、


『そんなことないと言って』


とばかりの言葉を口にしてしまい、あぁ、なんてくだらない事を口にしてしまったのだろうと激しく後悔した時でした。


「確かに!」


思いもかけず、バルが底抜けに明るい声でそう言いました。

バルの余りの裏表のない声に、逆に楽しくなって


「ちょっと! そこは、気を利かせて『ドローテア様だって僕からしたら十分華奢な女の子ですよ』くらい言ったらどうなの」


そう言いながら、笑ってバルを振り返った時です。


「確かにザーラ様はほっそりされた美人です。ドローテア様が華奢なタイプかと言われれば……同意しかねます。でもオレのタイプは、胸と尻のデカい女なんで。……オレからしたらドローテア様の方が魅力的で美味そうですよ」


初めて見せるどこか焦げ付くような視線をした悪い顔で、初めて聞くどこかザラッとした低い声でバルは。

私の耳元、唇が耳朶に微かに触れるくらい近くで、そう嗤って見せたのでした。





更に妙に意識してしまったバルとの相乗りに緊張しながら、それでも何とか東の果ての森までもう少しというところまで来た時の事です。

気づけば大量の魔物に周囲を囲まれてしまいました。


皆で必死に応戦しましたが、あまりにその数が多かった為、多くの負傷者を出してしまいました。

私を庇ったバルも命に別状はないとはいえ、酷い怪我を負っています。

早くバルに回復魔法をかけて上げたい気持ちを懸命に堪え、軽く擦過傷を負われたフリージア様の元に駆け寄り回復魔法をかけようとした時です。


「お待ちなさい、まずお若い三人になさい」


フリージア様はそう言うと、小さくバルの方に向かって私の肩を押して下さいました。


フリージア様に感謝を込めて小さく礼をした後、


「バルごめんなさい、私のせいで!!」


バルの元に駆け寄り、その深く大きな傷口に手を翳しました。



淡い光と共にバルの露わだった傷口が閉じていく様を、祈る様にして見ていた時です。


「ドローテア様……そんなに責任を感じて泣かないで下さい。オレなら平気です。約束したでしょ? 『大きくなったら僕がドーテを守ってみせる』って。だからオレ、今、約束を守れた嬉しさの方が痛みなんかよりずっと強いんですよ」


バルが思いもかけない事を言い出しました。


「約束?」


彼の言葉を小さく口の中で繰り返して。

ふと、まだ七つにも満たない時の事を思い出しました。





『やい、豚! ピンクの子豚!!』


そう、あれは初めて顔を合わせた婚約者からそう言われ、悲しくて庭の隅で泣いてた時の事です。


「泣かないで。僕は優しいドーテが世界で一番大好きだし、ドーテが世界で一番素敵だと思ってるよ。ねぇ、僕が将来アイツに代わってドーテの婚約者になって君を誰よりも幸せにするから、だからもう泣かないで」


かつて屋敷に一緒に住んでいた使用人の子どもから、そう言われた事がありました。


「そんなの無理よ。私は貴族で、あなたは貴族ではないもの。あなたとの結婚なんて認めてもらえるはずがないわ」


純粋で心優しい年下の幼馴染の言葉を、子ども故の残酷で以てそう否定すれば


「じゃあ……僕……僕、騎士になるよ! 騎士なら身分は関係ないって、死ぬ気で努力すれば平民だってなれるって聞いた。僕、騎士になってドーテを傷つけるものからドーテを守ってみせる! 約束するよ!! ねぇ、だからもう泣かないで……」


少年は、泣いている私よりも辛そうな顔をしながら、そう言って優しく慰めてくれたのでした。







魔王討伐を果たしたその日の夜の事―


「どうしてすぐに、『以前仲良かったルトです』って教えてくれなかったの?」


バルにそう言えば、


「本当は最後まで正体をバラすつもりなんて無かったんですよ。でも、貴女があそこであんなに泣くから。つい昔の癖で、どうにかして泣き止ませたくなって。つい余計な事を言ってしまいました」


「どうして? 私に幼馴染の面されて付きまとわれるのが嫌だった??」


悲しくなって俯きそう言えば、バルがゆっくり首を横に振りました。


「いいえ……。僕は、貴女の事がずっと好きで好きで……でも身分差故どうしようもなくて、それでせめて叶わない思いの代わりに昔の約束だけは成就させたくて騎士になった男です。そんな重い男と相乗りなんて……気味が悪いでしょう?」


バルの、自嘲するように瞳を逸らすその仕草はまるで、ずっと、そして今でも、私の事だけを想っていた事を赤裸々に語っているようで。


しかし……。

世間体に囚われて、婚約者のいる子爵令嬢という鎖に繋がれて、彼の気持ちを受け取る事も出来ない私は、その言葉にも出来ない彼の告白を、酷く悲しい気持ちで聞いたのでした。







翌朝―


馬に乗ろうとすれば、バルとは違う別の騎士が私に向けて手を伸べました。

驚いてバルはどうしたのかと聞くと、残った魔物の殲滅の為に近くの村々を周る隊に入る事を志願したため、ここから先は私達とは別行動になるとの事。


『お別れも、ありがとうも言えなかったな……』


そう思い、また自身の気持ちを押し殺し、全てを諦めようとした時でした。


「追うんですよドローテアさん! つかまえなさい!!」


突然フリージア様がそうおっしゃって……。

私は気付けばバルがいる隊に向かって走り出していました。


そして、


「バル!!」


息を切らせ駆け寄り思わず彼の腕の中に飛び込めば、バルは驚きつつも私の事を危なげなく受け止め、ギュッと強く強く抱きしめてくれたのでした。







王都に戻り、婚約の解消を願い出なければと思った時でした。

フリージア様と共に王太子に立てつき王都を追放になった事を理由に、婚約者から一方的にこの婚約の破棄を申し渡されました。

そして、私の実家からもまた、勘当を言い渡されました。


「つまり……私はもう子爵令嬢でも何でもなくて……だから、バルと結婚するのにもう何の障害もないと、そういうことでいいでしょうか?!」


嬉しさの余り涙を零しながらフリージア様にそう確認すれば、フリージア様はまた女神の様に優し気に微笑みながら、でも口先だけは


「ドローテア、私の我儘に巻き込んでしまってしまってすみませんでした」


と、そう謝ってみせられたのでした。







フリージア様の領地でフリージア様の采配の下ささやかとは言えない式を挙げ、同じく領地内にお屋敷をいただきそこでしばらく幸せに暮らしていたバルと私が、やはりフリージア様に呼ばれ子ども達を連れて王都に戻るのは、その少し先のお話です。













◆◇◆◇◆◇◆


【side ザーラ】



婚約を交わす為初めてお会いしたジギスバルド様は、白金色の髪と脆いガラス細工の様な繊細な線を有する、男性にしておくのが惜しまれるくらい美しい方でした。


十四歳と私よりも三つ年上で、どこか愁いを帯びた表情で静かに遠くを見つめていらしたジギスバルド様の、その透き通るような美しさを初めて間近で見た時です。

私の中をビビビとカミナリに打たれたような衝撃が走り、私は初めて恋に落ちる感触を知りました。


精一杯背伸びし大人ぶって淑女の礼の形を執れば、ジギスバルド様は私の方を向き小さくニコッと微笑んで下さいました。



婚約の手続きが滞りなく済み、父から言われた通りジギスバルド様に我が家の庭を案内していた時です。

突然、ジギスバルド様が胸を押さえて芝の上に倒れ込みました。


「ジギスバルド様?!」


動揺する私に、ジギスバルド様は荒い息を吐きながらも


「大丈夫だ」


脂汗を流しながらも無理に笑顔を作り、掠れる声でそうおっしゃいました。


「すぐに人を呼んで参ります!!」


そう言い立ち上がった時の事です。

ジギスバルド様が、ギュッと痛いくらいに強く私の腕を掴みおっしゃいました。


「……いつもの発作です……生まれつき心臓が悪くて……少しすれば収まりますから、お願いですどうかそれだけは……」


私があまりに顔を青くしていた為でしょう。

ジギスバルド様は息も整わぬまま、しかし彼の秘密を話して下さいました。


「父は、貴女のお父様に僕がこんな不良品だと言う事を伏せたままこの婚約を結びました。事実を知れば、貴方のお父様はこの婚約を破棄されるでしょう。そうなれば僕はあの家にすらいられなくなります……」


酷く苦しいのでしょう。

ジギスバルド様はその爪が深く食い込む程に強くご自身の胸を押さえながら、懸命に言葉を続けられます。


「僕は……僕は騎士にはなれませんが、その代わり将来治療師になります。そして必ずこの病を治し貴女を幸せにすると誓います。ですから……どうか……どうか」



『ほぅ。随分魔力の高い者を供につけているな』


先程父が、ジギスバルド様の従者の方を見てポツリそう呟いたのを思い出しました。

てっきり彼に箔をつける為の従者かと思っていましたが……。


きっとあの従者は発作を鎮める為にジギスバルド様につけられていたのでしょう。

せめてその従者だけでも呼べないかと焦りながら辺りを見回しましたが、残念ながらその姿を近くに見つけることは叶いませんでした。



私の力などではどうにもならないことくらい分かっていました。

でもほんの少しでもいいから、どうかジギスバルド様の苦しみが和らぐよう。

そう思い、必死になって持てる力を振り絞り拙い回復魔法を使った時です。


ジギスバルド様の胸に向かい懸命に手を翳す私のつむじの上にクスッと小さい笑い声が落ちてきました。

その場違いな笑いに、驚いて顔を上げました。

するとジギスバルド様は


「すごく怖い……顔してる」


そう言って、何を思われたのか私の目元にその白く綺麗な指で触れられたのでした。



思いがけないジギスバルド様の行為に驚いて、その後何をどう話したのかはよく覚えていませんが。

しばらくして容態が落ち着かれたジギスバルド様は、さりげなく従者と合流しおそらく治療を受けた後、何も無かった顔をして両親に挨拶をしてお帰りになりました。





その日の夜―


『すごく怖い顔してる』


ジギスバルド様のその言葉が気になって、鏡の前で精一杯魔力を込めた後、その状態の自分の顔を見て


『本当だ!!』


と愕然としました。

鏡に映る自分の顔は、決して意地悪を敢えて言われるようなタイプには見えなかったジギスバルド様がうっかりそんな失言をされるのも納得の醜さでした。







その日以来―


醜い顔を晒すのが怖くなり人前で全力を出す事が出来なくなった私の事を、同級生達は『落ちこぼれ』と遠巻きに、そして邪険に扱うようになりました。


そんな中たったお一人、周囲の目を気にせず学園で声を掛けてくださった方がいらっしゃいました。

フリージア様です。



「行きますよ、ザーラさん、ドローテアさん」


「行くって? どちらにです??」


突然のお誘いに動揺する私に


「決まっているじゃないですか。お祭りですよ」


そう言ってフリージア様はとても楽しそうに、しかしまるで何か悪だくみでもするかのようにフフフと笑って見せられたのでした。




自信を無くし、心まですっかり醜くなって下ばかり見ていた私に向かい、フリージア様は夜空を見上げながらこうおっしゃいました。


「素晴らしい!ホラ、顔を上げて見てごらんなさい! ザーラさん、ドロテーアさん、こんな美しい花火ですよ」



花火なんかよりも。

その炎に照らされるフリージア様の方が、ずっとずっとお美しくて


「……私も、フリージア様みたいに美人だったらよかったのに」


思わずボソリとそう呟いた時です。


「何を言っているんです? ザーラさんだって、十分お綺麗ですよ??」


謙遜されることなく、フリージア様は不思議そうに小首を傾げられました。



ずっと誰にもこの胸の重いつかえを言い出せずにいたのに。

その妖精と見紛うばかりのフリージア様のその可憐に美しいお姿に思わず


『魔法を使った際に、婚約者から『怖い』と言われ、以降力が出せないのだ』


と、長年悩んで来た事をお話ししました。

すると……


「じゃあ、本気なんて出さなくてもいいくらい、もっと強くなればいいじゃないですか」


フリージア様は実に事も無さげに、そんな事をおっしゃったのでした。



『本気なんか出さなくてもいいくらい、もっと強く』


言うは易く行うは難し。

でも……。



その日を機に血反吐を吐く程の努力を重ね変わった私の事を、落ちこぼれと言う者はもういません。







「あのお粗末聖女と馬鹿王子が討伐と言う名の婚前旅行に出る前に、とっとと魔王討伐を済ませますよ」


そう言われお供した先で―


思いがけず、治療師となられたジギスバルド様と再会してしまい慌てました。


あの日以降、ジギスバルド様とお会いする事は私が一方的に避けており、すっかり忘れていましたがフリージア様とジギスバルド様は遠いですがご親戚に当たられます。

なので、治療師でもある彼がここに来ている事が当然な事くらいすぐに気づいてしかるべきだったのに。

表情は鉄壁を保ちましたがフリージア様の


『魔王を倒す』


発言に内心激しく動揺していた余り、ジギスバルド様の事は完全に失念していました。



「お手をどうぞ」


その言葉と共に述べられた、相変わらず白く綺麗なジギスバルド様の手を無視して、一人馬の背に跨りました。


『じゃあ、本気なんて出さなくてもいいくらい、もっと力をつければいいじゃないですか』


フリージア様のそのお言葉を胸に、これまで私がしてきた努力を甘く見られては困ります。


乗馬くらいなんですか。

これくらい一人でこなして見せます。



そんな私の様子をご覧になったジギスバルド様は少し呆れたように肩を竦めて見せた後、別の馬を用意されたようで、一人騎乗されていました。







魔王討伐が恙なく完了しホッとしていた、王都への帰り道での事です。


ふとジギスバルド様と、彼の仲間である治療師達の姿が列に無い事に気づきました。

妙な胸騒ぎがして、馬の首を巡らせ列を抜けました。

少し引き返した後、小さく脇道に逸れると、そこで倒れたジギスバルド様を必死に治療する治療師達の姿が見えました。



ドクンと、心臓が嫌な音を立てて跳ねました。


「下がりなさい!!」


馬を飛び降り、治療師達を脇に除けさせると、すぐさまジギスバルド様の胸に手を当て魔法をかけます。

しかし繕った表情のままいくら力を使っても、ジギスバルド様の苦し気な様子は一向に改善の兆しを見せません。



『すごく怖い……顔してる』


その言葉に傷つき、苦しんだ日々が一瞬にして脳裏に蘇ります。

出来れば、あんな思い、もう二度としたくなんてありませんでしたが……

ジギスバルド様の命には代えられません。







もうダメだ、魔力が切れる。

そう思った時でした。


「すごく怖いって顔してる」


そう言って呼吸をやわらげられたジギスバルド様が、再び私の目元にその白く綺麗な指で触れられました。


ジギスバルド様はまたそんな事をおっしゃって。


『言われなくても、自分が一番よく分かってます』


そう言おうとした時です。


「怖がらせてごめん。でも大丈夫だから。僕はそう簡単に死なないよ。将来治療師になって必ずこの病を治し貴女を幸せにすると誓っただろう? だからそんな風に泣かないで……」


優しい優しい声でそんな事をおっしゃったジギスバルド様が、不意に体を起こすと私の目元、いつの間にか零れ落ちていた私の涙の上に口付けを落とされました。


「初めて会った日も、貴女はこんな不良品の僕の為に泣いてくれたね。あの日の僕はそれが嬉しくてたまらなかったのだけれど……。あぁ、でもやっぱり僕はこの旅で沢山見られた貴女の笑った顔の方が好きだな。だから……こんな男が婚約者で君には本当に申し訳ないが……でも、どうかこれからも僕の傍に……」


切なげに細められたジギスバルド様の目に、初めて恋したどこか愁いを帯びた表情が重なり、胸の奥が鈍く痛みます。


「好き? ……私の顔が怖くて醜いからお嫌いなんじゃなくて?」


思わずそう呟けば


「怖い? 醜い?? 誰が? 貴女が? まさか!」


ジギスバルド様は、意味が分からないとばかりに目を丸くされました。


「もしかして、僕の何か不用意な発言で長年貴女を傷つけてしまったのだろうか? だとしたら本当にすまない。でも、誓って言う。僕は愛しい貴女を醜いだなんて思ったことなど一度も無いよ」







王都に戻り馬鹿王子から王都よりの追放を言い渡され、父からもまた(表面上形式的に)勘当を言い渡され、行き場の無くなった(事に王家の手前なっている)私ですが……。


(父の手を煩わせずとも)フリージア様が侍女として雇い入れて下さいましたので、学園でフリージア様の取り巻きをしていた頃と生活が大きく変わる事はありませんでした。





王都を離れ、それはそれで楽しい日々を過ごしていたある日の事です。


「地位も名誉も必要ない。共に過ごせる時間はもしかしたら人より少ないかもしれないけれど、僕に残された全ての時間をかけて貴女を必ず幸せにすると誓う。だから僕と結婚して欲しい」


そう改めてプロポーズして、私に向けて伸ばして下さったジギスバルド様の手に、私はまたしても背を向けました。


治療師としても名を立てつつあるジギスバルド様なら、今となっては爵位も持参金も何もない私なんかと一緒にならなくても早々に良い縁談に恵まれるだろうと、そう思ったからです。



二階の窓のカーテンの影から、肩を落とし帰って行かれるジギスバルド様の後姿をこっそり見送っていた時でした。

フリージア様が激怒しながら部屋にやっていらして、彼をすぐに連れ戻してくるよう命令されました。


「ジギスバルドは両方必要ないと言うでしょうが、貴女が気にするなら持参金ぐらい、いくらでも私が用意しますし、爵位なら貴女のお父様が裏から手を回して何とでもします。ですから、変な意地を張るのは止めてすぐにジギスバルドを呼び戻していらっしゃい!!」


しどろもどろになりながらも、それは出来ないという私に、


「出来ないではありません! もしこのままおめおめと逃げられてしまったとしたら、……そうですね、貴女には何らかの形で責任を取っていただきますからね!! 覚悟はよろしいですね。一時間たってもここに連れてくることが出来なかったら……」


フリージア様のその怒気に思わず恐れをなし、私は震えながら屋敷を飛び出しました。



でも、どうしましょう……。

フリージア様は怖いですが。

ジギスバルド様に苦労をお掛けするのもまた、本意ではないのです。


取りあえず。

フリージア様はジギスバルド様を連れて来るようにおっしゃっただけなので……。


『ずるいと言われるかもしれませんが、兎に角ジギスバルド様をお連れするだけお連れして、そしてフリージア様が落ち着かれたタイミングを見て諦めていただくよう説得しよう!』


そんな言い訳を自分にしながら、馬車に乗り込もうとされていたジギスバルド様を呼び止め


「ジギスバルド様、大変申し訳ないのですが、もう一度お屋敷に戻っていただけませんか。フリージア様に一時間以内にあなたを連れて来るよう言われていて……」


そうお願いしました。


すると、顔を輝かせ馬車から飛び降りていらしたジギスバルド様は、初めて私を見てくれた日の様にニコッと笑って


「なるほどそれは恐ろしい思いをされましたね。猶予は一時間ですか。じゃあ、僕は一時間以内にしっかり口説き落として見せないといけませんね。ここでは何です。よろしければ、一緒に庭を散歩でもしながらお話ししませんか」


懲りずにまた、私にその綺麗な白い手を伸べて下さったのでした。








結局のところ……

まぁお察しの通り、フリージア様とジギスバルド様お二人相手に、私なんかが言い勝てるはずも無く。


初めて手を繋いで庭を散歩をした後、それ程間を置かずして私の夫となったジギスバルド様は、後に王都で自らの心臓病を完治させその時に開発した魔法で同じ症状に苦しんでいた多くの人の命を救い近代魔法医学の父と呼ばれるようになるのですが……。

それに関しては話すと長くなるので、私もフリージア様に倣いそのお話は割愛させていただきたいと思います。

後書き、めっちゃ長くてすみません( ;∀;)


【2021.11.11】

続編『復活の『M』~Mは魔王のMですよ、フリージア様。…チラッ 壁|∀・)「ワクワク」~ 』投稿しました。

作者名、もしくはタイトル上のシリーズへのリンクタイトル『悪役令嬢 フリージア様』という文字をクリックしていただければ見られるかと思いますので、もしよろしければそちらもお付き合いください。


【2021.10.29】

皆様、この度はクリ〇ンの為に、そしてお粗末聖女のでっかい独り言と馬鹿王子の暴言に応じ、心広く沢山お星さま分けて下さりありがとうございました。


おかげ様で、

『魔王討伐後に婚約破棄されるフラグが立った悪役令嬢ですが、お気楽聖女の自己犠牲ムーブが純粋にムカついたので、悪意の下、やつらの出立式前に魔王討伐完了してやる事にしました』

日間ランキングの表紙に長らく入れていただく事が出来ました(T_T)


更に、日間の表紙から落ちた後「いやー、本当にすごい体験をさせていただいたな」と思ってのんべんだらりとしていたのですが……

先日、なんと週間ランキングの表紙入りしているの見つけてしまいました。

もしかしてこれが噂に聞いていた『復活の「F」』なのでしょうか(;''∀'')


常にフリー〇様に全乗っかりですみません、応援してくださり本当にありがとうございました。



そして、大変遅くなってしまいましたが、いただいた感想に変身……じゃなかった、返信させていただきました。

他のお話含め、いただいたご感想全てに返信したつもりですが、万が一お返ししそびれていましたら、大変申し訳ないのですが何らかの方法で教えていただければ幸いです。



また、今回クリリンの分として他の話にも沢山☆をいただけたおかげで、それらが日間ランキングに再度載り、あまり日の目を見なかった話も沢山の方にまた読んでいただけてとても幸せでした。


特に、

『『あたり』認定が早すぎる ~自称『はずれ』スキル持ちなのに何故か女勇者パーティーに組み込まれた。追放されるため心に傷負う女勇者を無責任に甘やかしていたところ…?~』

など、いただいた評価は悪くないもののPV数が伸びなかったものを読んでいただけてとても嬉しかったです。


本当にありがとうございました。



【2021.10.23】


本当に沢山のブックマーク、評価ありがとうございました。


『クリ〇ンのぶん』まで押して下さった方がたくさんいらしたようで、前々作の『性格悪い私が~』が日間 異世界転生/転移ランキングに再び表紙入りしているのを見た時は、思わず我が目を疑いました。

皆さんのこのノリの良さ、本当に大好きです(*´▽`*)

お付き合い下さりありがとうございました。



ちなみにこちらのお話、今回は日間総合1位にはもうちょっとのところで手が届かなかったのですが

……

既に沢山の方にご協力いただいているのに、何度もクレクレ言うのは本当に気が引けるのですが……えっと……その……あの……

引き続き、こちらでもブックマーク、下にある評価【☆☆☆☆☆】ボタンをぽちっと押していただければ本当に単純に嬉しいです!



あ、そういえば、野菜農園でまた出番がこないかワクワクしている人が

「みんな!! 私に☆を可能なかぎり分けてください! お願い!」

って、天に両手を突き出すようにしながら、なんかでっかい独り言を言ってました。


でも、あんまり結果は芳しく無かったようで、それを見かねた馬鹿王子が

「やい、平民ども!! さっさと協力しやがれ!! たまには貴様らも力を貸せ!!」

と何やら酷く偉そうな事を言っていましたので、こちらには徐々にM字に禿げ上がっていく呪いをかけてお仕置きした上、黙らせておきました。

お騒がせしました。





沢山のご感想、活動報告へのコメントもありがとうございました。

いっぱい励ましていただきました。


皆さんのご感想、超面白くて(≧▽≦)

ぜひお時間ある方は他の方のご感想も読んでいただきたいな、なんて思ったくらいです。

特に皆さん、脳内で再生されるフリージア様のお声と、悪役令嬢のミスマッチに混乱されているとの事、何よりです( *´艸`)


個別にお返事させていただきたいと思っていますが、気長に待っていていただけると嬉しいです。





誤字報告等も本当にありがとうございます。

人物名間違えるわ、挙句の果てにタイトルまでミスするわで、本当にお恥ずかしい限りです。

タイプミスや誤変換等も教えて下さり本当に本当にありがたく活用させていただいています。







【2021.10.21】

沢山のブックマーク、評価本当にありがとうございました。


「さて、連載の続き書くか」

と思った所で、何故か私の中で突如フリー〇様と悪役令嬢が悪魔合体を果たし、気がつけばこんな事に……。



もし

「他のキャラクターのエピソードも読みたくてワクワクすっぞ」

なんて思って下さった奇特な方がいらっしゃいましたら、ブックマーク、評価【☆☆☆☆☆】押して教えていただけると嬉しいです。


本気出すと「顔が怖い」って言われるのが悩みのザーラさんの話をどこかに書きたいななんて思ってはいるのですが、今回のように加筆にするのがいいのか、別の短編で出すのがいいのか、いっそ連載にして他の人も出すか? 悩み中です。

「この形式がうざくないし、見つけやすいからいい」などありましたら、教えていただければありがたいです。



更に万が一、評価もブックマークも既に押したけど、無駄にテンション上がって

「これはクリ〇ンのぶん!」

って言いながらもっと押したくなっちゃった方がいらっしゃいましたら、他にも悪役令嬢物書いてますので、そちらも読んでいただければ幸いです。


作者名のリンク押していただければ色々見つかるかと思います。

ちなみに先日書いた

『性格悪い私が破滅直前の悪役令嬢に転生したので、起死回生はどう足掻いても無理だろうと開き直り前世で憧れていた『札束で頬を叩く』をやってみた』

が、どうやら月間ランキングの『異世界転生』の8位に入っているらしいので(親切な方に教えていただきました)、そちらも見つけやすいかと思います。



感想、いつもとても嬉しく読ませていただいています。ありがとうございます。

「モヤっとするから、もっとこの辺加筆した方がいい」などありましたら、そちらも感想にて教えていただければ、大変ありがたいです。


誤字脱字酷くてすみません。

いつも誤字報告に助けていただいています。


最後になりましたが、沢山あるお話の中から見つけて読んで下さって本当にありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 言うなり、ギルベルトは私を軍馬の背に乗せると、まるで騎士の訓練を受けて来た者の様にヒラリと、自身も私のすぐ後ろに乗って見せました。 不敬だし普通に不貞を疑われるし婚約者が居る未婚の貴…
[良い点] 凄く好きです。 読み終わって、面白くてすぐ読み返しました。 すてきな作品ありがとうございます!
[一言] 通りすがりに読んで吹きましたwww フリージア様、もしかして変身2回残してました?
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