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聖騎士レイダークの手記  作者: 奥雪 一寸
次元華の咲く場所へ
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第四章 次元の海を越えて(3)

 僕たちはようやく貯蔵施設に足を踏み入れた。開いたままの正面扉を抜けると、小さな部屋になっている。ラクサシャはいない。右奥から通路が続いているようだった。めぼしいものもないし、あったとしてもそれはゲルゴたちのものだ。僕たちは部屋の中は捜索せず、奥に進んだ。

「ん?」

 通路に入りかけた時、出入り口に動く影が見えた気がした。気配を探るけれど、特に誰かいる気配は感じなかった。念のため匂いを嗅いでみるけれど、棚に詰められた雑多な物品の匂いが強すぎて、それ以外の匂いは嗅ぎ取れなかった。

 実のところ、誰かいたのは本当だったけれど、僕たちはこの時見つけることができなかった。念のため部屋の中を一通り調べたけれど誰もいなかったし、まさか部屋の隅の棚の上の天井に張りついていたとは、思いもしなかった。

 誰もいないのを確認した僕たちは通路を進んだ。左右に部屋があって、中を覗きながら進む。ラクサシャはそのあたりにもいなかった。ただ、いくつかの部屋の入り口には罠が仕掛けてあった。

 僕はそれをすべて動かないようにしたけれど、貯蔵倉庫内の仕掛けは、歯車やバネといった部品が細かく、鎖帷子の指では滑っていじりにくいのには閉口した。

 通路を進むと、十字路に辿り着いた。今回の探索は、盗賊団の排除が内容なので、どのみちすべて見ていく必要がある。

 僕たちはまず左の通路を進んだ。

 その通路は、しばらく進んだ先で入口方向へ曲がっていて、通路の片方に部屋が並んでいた。通路がカーブしているので、おそらくドームの外周に沿った通路なのだろう。

 一つ目の部屋にラクサシャが二体いた。ムイムとレグゥにばかり頼るのも悪いので、僕は真っ先に部屋に飛び込んだ。

 一体の両腕の筋を断って無力化すると、背後に回って斬りつけてきたもう一体を、振り向きざまに斬り上げる。そいつが倒れる前に足場にして、筋を断った方のラクサシャの喉元を突いた。特に問題なく二体は倒れた。

「器用だな」

 と、レグゥに言われた。

「瞬時に相手を倒すプランを計算しますからね。相手にするとすごく厄介ですよ。もう勘弁願いたいです」

 ムイムが言っている対象が、僕のことだと、僕はすぐに気が付かなかった。

 ともかく、次の部屋に移る。その部屋は奥にもうひとつ部屋につながっていて、部屋の入り口に厄介な罠が仕掛けられていた。けれど、それを動かしている仕組みが部屋の中にあって、罠を踏み越えて入らないと解除できないようだった。

「うーん」

 僕は唸った。

 入口から見た限りなので確証は持てないけれど、どうも隠し部屋がありそうにも見える。

「一番いやな奴だな」

「どういうこったい?」

 レグゥに聞かれて、僕は説明した。

「入口に罠があって、奥の方左右に隠し部屋があるように見える。この手の構成は、侵入者が入ると隠し部屋の中のやつが手動で罠を動かすから、閉じ込められるんだ。そして隠し部屋からわらわら侵入者排除部隊が出てくる。こっちは敵と罠に挟まれて十分に身動きが取れなくなるから、罠を素早く止めないと、ピンチになるんだ」

「ほう。少し見てみます、ボス」

 そう言ってムイムが消える。すぐに戻って来た彼は告げた。

「当たりのようです。隠し部屋が思ったよりも広いですね。かなり数が多いです。罠が早めに止まれば問題ないとは思いますが」

「まあ、やるしかないんだな。ここの連中を残すわけにいかないし」

 僕たちは踏み込むことにした。部屋の奥まで進むと、背後で回転ブレードが動き出す。同時に、隠し扉が開いて、ラクサシャがわらわらと突入してきた。

 隠し部屋にスイッチ化レバーがあるだろうけれど、そこまでたどり着くのは不可能だろう。僕は先に見当をつけていた床を斬り裂いた。

 ムイムとレグゥが敵を引き付けている間に、仕掛けを止めなければいけない。乱暴に剣を突き立てることも考えたけれど、逆に止まらなくなる恐れもあるから、それはやめておいた。けれど、ここまでの罠と比べてもなお、仕掛けの部品が小さく、僕は難儀していた。床というのもつらい。慌てると仕掛けの中に工具を落とすおそれがあった。

 ムイム達は善戦しているけれど、やはり動けないというのは辛そうだった。かなりの苦戦を強いられているようで、多少なりとも傷を負い始めていた。

 罠の仕組み自体はそれほど難しくはない。外せばいい部品は分かるものの、如何せん細かすぎて指も滑るし工具もひっかけにくいのだ。

 まずい。なかなか仕掛けを止められないまま時間だけが過ぎていく。そんな時に、不意に、声がかかった。

「ボス、工具貸して」

 回転ブレードの中を、器用に回転を見極めながら、僕と同じくらいのサイズで、僕と同じような姿の生き物が、やって来た。

「俺やる」

 やはり誰か、はいたのだった。そしてそれは、驚いたことに、ボガア・ナガアだった。

「工具貸して。ボス戦って。俺やる」

 なんでいるのか、とひとしきり混乱してから、僕は我に返って工具を渡した。そして立ち上がって剣を抜いた。

 ボガア・ナガアと持ち場をバトンタッチしてから、回転ブレードが止まるまで、長くはかからなかった。部屋が広くつけるようになり、形勢は一気に僕たちのほうに傾いた。

 けれど、それで終わりではなかった。部屋の入り口側からも、ラクサシャがなだれ込んでくる。そちらにも隠し扉があったのだ。罠が止まった後は背後の隠し扉を開けて挟撃してくる二段構えの攻勢になっていたわけだ。僕たちはラクサシャに挟撃されての乱戦くらいなら問題なかったけれど、心配なのはボガア・ナガアだった。

 ラクサシャの数は確実に減ってきているけれど、誰かを守って戦う余裕はなかった。ラクサシャが工具をのんびり片付けているボガア・ナガアを狙ってついに襲い掛かった。

 まずい、と思った次の瞬間。

 ボガア・ナガアは僕があげた短刀を手に、襲ってきたラクサシャの足の健を無造作に裂いた。そしてぐらりと体制を崩すラクサシャに向かって飛び上がり、首筋を斬ると、その勢いでラクサシャの体を蹴って、宙返りしながら僕たちに合流した。

 着地。目線は確実に次の獲物を見ていた。あれだけ激しく跳んだあとも、短刀を構えたままだ。

「ボス、大丈夫。心配しないで」

 ボガア・ナガアは言った。

「俺たち、あのオークと殺しあって生き延びてきた」

 と、レグゥをすこしだけ見上げて。そして。

「俺たちの武器ぼろい。だからオーク倒せなかった。けど、ボス、ピカピカの剣くれた。だから」

 ボガア・ナガアが走る。ラクサシャの合間を縫って、次々と足の健を斬っていく。

「大丈夫、俺やれる」

 降ってくる双剣を足場にして跳び、首を跳ね飛ばす。ボガア・ナガアは、また言った。

「やれる」

 僕は理解した。あのボロボロの武器で、粗末な武器で、コボルドたちはレグゥたちと戦って生きてきたのだ。弱いはずがなかった。ひょっとしたら、彼の実戦経験は、僕より多いのかもしれない。そして、彼の戦闘スタイルならば、と僕は考えた。

「ボガア・ナガア!」

 僕は腰につけていた副武器の短刀を外し、彼の名を呼んで投げた。ボガア・ナガアは空中でそれを受け取ると、ラクサシャの頭の上を跳ねまわりながら、その首を斬り裂きはじめた。

「すげえな、あいつ」

 知らなかった、と言いたげに、レグゥが唸った。相変わらず、力任せにラクサシャを叩き潰しながら。

 完全に流れは僕たちの優勢に傾いていた。部屋の中の戦力は問題ないと見たムイムが、隠し部屋に転移して、一気に攻勢を掛けに行った。しばらく乱戦は続いたけれど、結果僕たちの中に脱落者は出なかった。

 戦闘が終わると、ボガア・ナガアがさっき渡した短刀を返そうとしてきた。

「よくばるはいけない」

「それは君が持っていてくれ」

 僕は彼に言った。

「君は両手に短刀を持っていてくれた方が心強い。それで戦ってくれると助かる」

「分かった」

 ボガア・ナガアは受け取ってくれた。


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