2、成長
「ケイシー、湖まで遊びに行ってきます」
「気をつけていくんですよ、エイダ様」
15才になったエイダは、より強い魔力を身につけていた。
母親と父親は、昼に少し会話をしに来てくれるけれど、一人でいる時間の方が圧倒的に多かった。
「湖には動物のみんなが集まるから、楽しいわ。ねえ、今日はどんな話をしてくれるの?」
エイダは無意識だったが、魔力で動物たちの言葉が分かった。小鳥がさえずると、エイダは驚いて聞き直した。
「え? 怪我をした人間が湖の脇の木にもたれかかっているの?」
エイダが小鳥の後について歩いて行くと、木陰に人が座っているのが見えた。
「まあ、酷い怪我。治して差し上げようかしら? でも、ケイシーに人に見つからないよう厳しく言われているし……」
エイダは、こっそりと人影に近づいた。
「誰だ!?」
座った成年に剣を向けられた。青年は栗毛色の髪に茶色の目をしていた。
「私、事情があって名乗ることは出来ませんの。でも、怪我は治して差し上げられますわ」
「なんだって?」
エイダは青年に近づいて、怪我をしている太ももに手をかざし目をつむった。
「ヒール」
エイダの手が光ると同時に、怪我が消えた。
「魔法!? お前、魔女なのか!?」
青年は驚いて立ち上がった。
「痛くない!? たかがヒールでこの力とは一体!?」
エイダは青年の声が大きく響いたので、おびえて立ち去ろうとした。
「待ってくれ、貴方の名前は? 私の名前はハワード・フォスターだ」
エイダは立ち止まって、振り返った。
「きちんと礼をしたいんだ」
ハワードはエイダに近づこうとした。
「名乗れません。できれば、もう森の友達を傷つけないでくださいませ」
エイダはそれだけ言うと、ハワードから走って逃げていってしまった。
「黒髪の魔女……たしか昔、聞いたことがある。おとぎ話だとばかり思っていたが実在したのか?」
ハワードは破れたズボンと、傷一つ無い肌を見てため息をついた。
「美しい人だった……」
ハワードはエイダが走り去った方をじっと見つめていた。