1、出生
その赤ん坊は、黒い髪に黒い瞳をしていた。
「あなた、これはどういうことですの?」
マクミラン子爵は、妻の問いかけに答えた。
「確か、母方のおばあさまが黒髪に黒い瞳の魔女だったときいています」
「これは吉凶どちらなのかしら?」
「占い師に見てもらおう」
こうして黒髪の赤ん坊は、占い師に未来を見てもらうことになった。
「どうでしょうか?」
「お待ちなさい、いまから水晶で未来を占いましょう」
呼ばれた老婆は、有名な占い師だった。かつてルーン王国が敵国に攻め入れられることも予言していた。
「これは!?」
老婆が赤子の未来を読み取ろうと魔力を込めた瞬間、水晶玉は砕けてしまった。
「この子はとてつもない魔力を持っております。このまま屋敷で育てるのは危険でしょう」
「なんてことだ!」
マクミラン子爵と妻は、涙を流した。
老婆は、哀れむように言った。
「森の奥に私が若い頃に使っていた家があります。そちらで育ててはいかがでしょうか?」
「それでは、お言葉に従います」
マクミラン子爵はベルを鳴らした。
「ケイシー来て下さい」
「はい、奥様」
メイド長のケイシーが扉を開けた。
「この赤ん坊は、この家では育てることが出来ません」
ケイシーは不思議そうな顔で赤ん坊をのぞき込んだ。
「屋敷の中で一番信頼できるケイシー、貴方にこの子を育てていただきたいのですが、よろしいでしょうか?」
「はい、奥様。でも、離ればなれは可哀想ではありませんか?」
マクミラン子爵は言った。
「私たちも、毎日様子を見に行きますから、安心してください」
「それなら責任をもって、りっぱな令嬢に育て上げて見せます」
ケイシーはマクミラン夫妻に尋ねた。
「この子の名前は?」
「エイダ。エイダ・マクミランです」
こうして、エイダは家族と離れた森の奥の小さな家で育てられることとなった。