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Endsieg ―エンドジーク―  作者: ハラミ
唐突な終わりに
5/5

メッセとこれから

「当面は、お金を稼いでいこうと思う。何かやりたい事とかあれば、投資するよ。今まで、本当にお疲れ様! カンパイ!」


 ジョッキを掲げて、歓声。

 今日は、終戦後初めて団員全員が集まった日。ホームの二階の大広間で宴会(えんかい)だ。平均年齢約14。勿論(もちろん)、ジョッキの中身はジュースである。


 20人ほどが集まり、料理や飲み物を飲み食いしている。一部はどんちゃん騒ぎをしているが、リカイオス団員のほとんどは大人しい性格(ゆえ)か、比較的静かに宴会は進む。


 一部の、というか、当面の方針を発表した直後から取っ組み合いを始めたスーとラウを筆頭(ひっとう)にその周りで腕相撲(うでずもう)やら仲裁(ちゅうさい)やらで、騒がしい。大人しい性格の持ち主たちは静かにそこから離れるのに対し、そのほど近い場所でにこやかにその騒ぎを眺めている、アリシアとアーサーの二人がその場で浮いている。


 …にしても、スーとラウはある意味ホントに、仲いいよなー


「金…………随分(ずいぶん)とアバウトな目標だな。目標金額とかはないのか?」


 横にはいつものようにアイザックがいる。

 出会った時からアイザックは常に共に行動し、苦楽を共にしてきた。今まで出会った人の中で、一番長い時間を共有してきたので、一番気が置けない仲だ。ウィリアムは別。


「目標金額は特にないけど、あえて言うなら、皆がやりたいことを見つけられたときに援助できるくらい、かな。ザックにも、勿論(もちろん)課金するから! 何かしたいこと見つけたら、教えろよな!」

「でも、その金って結局、団員として稼いだ金でもあるよな? それって、どうなんだ?」

「まーね。だとしても、やりたいことを見つけるにしても、あの子たちには現在進行形でやるべきことっていうのは、あった方がいいと思うし」

「なる」


 クエストやら依頼やらの報酬は団として受け取り、その後団員に分配することになっている。

 うちの団の団員は皆に訳アリか、孤児で傭兵組織(ようへいそしき)に売られたりした者たちだ。戦闘において優秀な人材であった彼らを拾って、今まで私の約束につき合わせていた。今度は彼ら自身のために、できる限りの時間を使ってほしいと思っている。やりたいことを別にい見つけてもいいし、傭兵としてのこの道を極めるのも、一つの道だろう。その決断はあくまで彼らに任せるが。


 しかし、一応《獣頭(じゅっとう)》である私・リカイオスにはノルマがあり、こなすべき仕事が一定数ある。それは私個人だけでなく、団員に振り分けなければこなすことができないのだ。勿論、地位に付随(ふずい)する義務のほかに特権もある。でも、今はそれは別の話。


「やりたいこと、な。お前は?」

「私には、まだ《ビースト》《ここ》でやるべきことがあるから。ま、強いて言えば、皆がどうなっていくのかは、見たいかな」


 ふーんと相槌を打って、騒がしい一角(いっかく)を見つめるアイザックの横顔を見るに何かを思案しているようだが、具体的に何を考えているのかを読み取るには圧倒的に情報量が少ない。基本的に、アイザックの思考を読み取るのは困難だ。


「ザックは?」

「俺含め、全員、ここから離れたがってないことくらい、わかってるんだろ?」


 苦笑で応じる。

 確かに、彼らにとってはここが最も居心地がいいのだろう。元居た場所には戻りたくない、いや戻れない子もいるから。


「最後まで、責任を持つんじゃなかったのか?」

「だからだしょ。私がいつまで団長張れるか、わからないしな」


 アイザックからの返答がなくなったのは、騒がしい輪からはぐれてこちらに向かってくる一行(いっこう)が見えたからだ。


「やっほ! 元気してた? リシィ!」

「元気してたよ、レティも元気みたいね」

(おれ)も元気してたぜ。ひっさしぶりだなっ! ザック!」

「あぁ、変わらねぇな、(ゆき)


 魔女族のレティシアと鬼族の雪路(ゆきじ)。瞳の色は、二人とも若草色だ。このメンバーは、リカイオス団発足時(ほっそくじ)のオープニングメンバーだ。


「このメンツで(そろ)うと、やっぱ違うねー。リシィが毎度二人セットで派遣(はけん)するから、うち、雪といるの飽きちゃったよ」

「アハハ、でも、私もほぼザックといたんだし。お互い様だよ~」

「俺といるのを、罰ゲームみたいに言うんじゃねぇ」

(おれ)といるのを、罰ゲームみたいに言うなよなっ!」


 和気あいあいとした雰囲気を楽しんでいると、ナナキと同い年くらい魔女族の男女と声をかけてきた。


「…………全員集まると、…………うるさい」

「ナナ兄………語彙力(ごいりょく)…」

「でも、本当にみんな無事でよかったわ! 心配してたんだから!」

美夜姉(みやねえ)、サンキュ! 私も皆(そろ)って、ほっとしてる」


 美夜ももう一人も魔女族だ。ナナキ含め彼らは、リカイオス団ではない。ホークス団だ。彼らの団長は他にいる。苗字もホークスだ。ホークス団は、魔女族率(まじょぞくりつ)が高い。


 こんな宴の夜でも、上では見張り番がいる、ホークス団の。勤勉ですなーと上を見上げてつつ、右手でガシッと飛来物(ひらいぶつ)をキャッチする。


 …………ん? 飛来物?


 右手の中身を見ると、何かが盛り付けられていたであろう皿が。匂いからして、肉料理?。何故、と飛んできた方向を確認すると、真っ青になってこちらを見つめるスーとラウ。その後ろには、なお笑顔なアリシアとアーサー。


「ニヒッ。いい度胸(どきょう)してるな。売られた喧嘩(けんか)は買うのが礼儀(れいぎ)だよね?」


 うげっと(うめ)くラウと、歓声を上げ笑顔になるスーとで、()(ぷた)つに反応が分かれる。


 コンビを組ませると、その二人は雰囲気が似て、仲がよくなる傾向(けいこう)にある。まさに、アリシアとアーサーのように。しかし、スーとラウは雰囲気が真逆(まぎゃく)だ。仲はいいと思うのだけれど。


 …やっぱり、にぎやかな、この雰囲気、好きだな


「よーし、全員集合! 腕相撲(うでずもう)するよ!」


 静かに料理を楽しんでいたメンバーも顔を見合わせて、ニヤッと挑戦的(ちょうせんてき)に笑う。


「もちろん、優勝賞品(ゆうしょうしょうひん)ありますよね? 団長?」

「んー、こういう時の賞品って、例えば何があるんだ?」

「勝者は好きに一つ命令ができるとかじゃないか?」

「んじゃ、それで!」

「……それは、面白そうだな」


 何故か他団のナナキまで乗り気で、腕をぐるぐると回しながら近づいてくる。

 机に腕をつき、()()きに試合を始める。負けたら、抜けていくというルールだ。


 勝者が私だったのは、また別の話。



 (うたげ)が終わり、簡単に大広間を片付けると、仲間たちは地下に()に戻る。実は、ここのホームの本城(ほんじょう)だ。地下に両団員の個室、風呂、食堂、など生活する上で必要なものに加え、研究室や資料庫など団の運営に関わる設備もあるのだ。


「んーー~~…………はあぁ~~」


 見張り台で思いっきり伸びをして、腕を回す。当然、アイザックもいる。少人数で見張りを続けていたホークス団の人たちは私たちの帰還(きかん)を本当に泣いて喜んでくれた。たぶん、今は部屋でぐっすりだろう。


 ここはある理由から人があまり、いや普通は近づかない場所に位置する。しかし、地下にあるとはいえ、《獣頭》二人の団のホームだ。基本、ホームの位置は知られていないが、機密情報(きみつじょうほう)(ねら)(やから)は一定数いるだろうことから、緊張感は常に持って見張りに努めるべきだ。が、多少の談笑(だんしょう)は睡魔に効く妙薬(みょうやく)である。


「…………話が戻るんだが」

「何?」

「団員が抜けていったとして、どうするんだ?」

「どうって?」

「ノルマは? 一人でこなせると思っているのか?」


 月と並んで浮かぶ神の星 《ディユテーリ》を見上げて、《ビースト》に連れてこられた時のことを思い出して、首にあるチョーカーを撫でる。


「私は…………他の人とは違う。やりようはいくらでもある」

「この先は? 女系(じょけい)も、人族もこのまま引き下がるとは思えない。戦争はいづれまた、再開する」

「わかってる。でも、リカイオス一つが消えたところで、影響が出るほど、ヤワな組織じゃない」


 アイザックの発言は正しい。戦争が起こった根本的な問題は全く解決していない。魔女族は、研究者(けんきゅうしゃ)殺害(さつがい)事件(じけん)についての謝罪はなく、人族は、変わらず魔工学(まこうがく)の技術の発展に邁進(まいしん)している。しかし、魔工学の発展は魔女族にとって非常にまずい事態だ。


 魔女族(なら)びに妖精族は、大陸一、いや世界一位の種族国家(しゅぞくこっか)であり、他の種族に対するけん制の意味も含めその座を他種族、こと劣等種たる人族に渡すわけにはいかないだろう。弱っている時を狙って、攻めようと機を狙っている国は今でさえ三種族ほど浮かぶ。故に、ほぼ負けに近い終わり方をしたまま魔女族が引くとは思えないのだ。


 …ホント、どんな取引をしたのやら


 長年苦汁(くじゅう)を飲まされた人族もきっと引く気はないのではないか、と思っている。今なお劣等種としてのレッテルを張られるきっかけなのだから。新しい国の長の《先導者》というのは、どんなやつなのかかなり興味をそそられる。


「戦争か…………いつ始まるかは、停戦、(もとい)終戦の取引の内容と周囲の動き、《先導者》とかいうやつの動き次第かな」

「《先導者》? 誰だそれ?」

「人族の新しい最高責任者だとさ。実態は知らない、私もリックから聞いただけだから」

「リチャード殿か。さすが《獣頭》第一位、耳が早いな」


 団員が抜けた後の対処法やら、考えてながら(ふち)に座る。慣れた動きで、アイザックが背中合(せなかあ)わせで同じように(ふち)に座る。背中の熱がじんわりと伝わってきて心地いい。この体勢が一番落ち着く。アイザックもそうだったら、うれしいと思う。


 …………


「ザックは…………抜ける気なの?」


 つかの間の沈黙に意識せず、体がこわばる。指先から忍び寄るような冷気に(くちびる)をかみしめる。


「まさか。約束に期限を設けた記憶はないからな」

「……そっか」


 アイザックの返答に静かに安堵のため息を吐きだす。


 …あれ? なんで今、ほっとしたんだ?


 その瞬間、ピッというルカットの音に懐から取り出して、確認する。メッセが届いていた。差出人(さしだしにん)の表示はリチャード・ドラッヘン。文面はこうだ。


【二か月後、《獣頭》全員を招集する。ナナキにはホークスから連絡いってるはずだが、一応赤いのからも伝えておけ】

【了解した。個人的に質問があるから、首都で少し時間をくれ】


 すぐに返信してルカットは懐にしまう。その時にはすでにさっきの問いは頭の奥底に追いやってしまっていた。


 首都は嫌いだ。居心地がいいところではない、私にとって。行きたくはないが、致し方あるまい。

 《獣頭》招集時には、副団長を伴うのが通例(つうれい)だ。


「ザック、二か月後、首都に行くぞ」

「了解、リシィ」


 戦争が終わったのにどういうわけか、腰にある愛刀《光芒》が急激に重みを増した気がした。


 ▼▼▼


「お邪魔しま~す! 何かこういうんいいね~!」

「邪魔しま~す。女子の部屋って、なんか緊張すんなー」


 相棒・雪路と訪ねた部屋の主は、スーとアリシアだ。きちっとした整頓(せいとん)された机と、必要最低限のものだけしかないのに散らかった印象を与える机は対照的だ。クローゼットは一つで、ベッドは二段。基本的な家具はどの部屋も一緒だが、植物の種やいくつかの観葉植物が雰囲気を変える。これらの植物関係の持ち主は、エルフ族のアリシアだ、きっと。エルフ族は植物を操る能力を持っているから。


「ようこそ、レティシアさん、雪路さん。ほぼみんな揃ってますよ」

「マジか、みんな早くね?」


 部屋に入ろうとすると、背後から激しく言い合いをする声が聞こえて廊下(ろうか)に視線を移すとスーとラウがお茶とカップを持ってくるのが見えた。


「ホントに仲いいよねー、あの二人」

「聞こえてたら、絡まれんぞ」

「「聞こえてますっ」」


 …仲、いいよなー


 部屋の全員の心の声がそろった瞬間であった。


 ま、それは置いといて集まった理由を言おう。ずばり、それは、…………深い意味はない。ただの二次会だ。メンツとしては、見張り番のアイリス、アイザック、他三名とアルフレッドと、もう寝た(ほか)の子ども組の四名を除いた六名である。

 セットで名前を挙げるなら、アリシアとアーサー、スーとラウ、うち・レティシアと雪路だ。


 アリシアが()れるカモミールティーのいい香りがふわっと室内に広がり、スーとラウの雰囲気も心持ち落ち着く。のに、雪路が爆弾一個投下(ばくだんいっことうか)


「戦場で、吊り橋効果とかなかったのか?」

「「あるわけないですよね、誰がこいつなんかと。頭大丈夫ですか?」」

「えっ、ひどっ」


 スーとラウの口戦が始まろうとする雰囲気の中、静かにアリシアが口を開く。


「団長の話に関することですが」


 団長という単語に、スーとラウの動きがピタッと止まってアリシアに注目する。

 豆知識として、二人の共通点を()げよう。それは団長であるアイリスの熱狂的(ねっきょうてき)なファンであること。()を越して好きなのだ、アイリスが。しばしばある口戦(こうせん)の原因は、同担拒否(どうたんきょひ)とかいうやつだろうか。


「あれは、遠回しに団から抜けろと命じられているのでしょうか」


 続いたアリシアの言葉に、その場の全員の顔に影が落ちる。一見冷静に見えるアリシアも、ポットに添えた手の指先が白くなるほど緊張している。

 だが、うちは顔を上げて首を横に振った。


「それはないね。アイリスの性格上、そういうことは遠回しには言わないよ」

「あの言葉の意味は、自分の生き方は自分で決めろってことだろ」


 雪路の言葉にうちも同意する。そして苦笑。


 …うちは、とっくにここで生きるって決めてるのにな


「それなら、答えはもう出てます。あたしは団長のそばで、いつか副団長のような右腕になって、将来は完全同化(かんぜんどうか)を目指します!」

「…………? 完全、同化?」

「はい! いつか本物の御手(みて)となり、御御足(おみあし)になり、お役に立って見せます!」


 ふんすっと、得意げな顔で(こぶし)を握るスーを何とも言えない顔で見つめるしかできない。スーは見ている分には可憐(かれん)可愛(かわい)らしい少女だが、うん、なんというか、どこか変わっていると思う。


「気持ちわりーワ。それに、団長はオレの団長だ。オメーには渡さねーよ」

「はあ? あたしの団長だから。金輪際(こんりんざい)、あたしの団長に〝オレの〟とかつけさせないし」

「オレ、お前の先輩なんだけど!?」

「関係ないから」


 未然に防がれたはずの二人の口撃(こうげき)を見物しながら、確かにラウの方が先にリカイオス団に入団したな、とはるか彼方(かなた)に思えるたった二年前のことを思い出す。リカイオス団は発足(ほっそく)から二年ほどしかたってない、出来立(できた)てほやほやな団なのだ。今の団員もほぼ全員が二年ほどの付き合いだ。


 ちなみに、入団した順番は、うちと雪路、ラウ、アルフレッド、スー、アリシア、アーサー。他の団員は()かして数えると、だが。


「そっか、良かったです。迷惑に思われていたのかと」


 元気な声に混ざって、ぽつっと聞こえたのは、アリシアの言葉だった。その言葉と同じく心底ほっとして涙がにじんだ顔で、ティーポットを抱きしめている。ほら言ったでしょう、とアーサーがその肩を撫でてなだめている。


 その仲睦(なかむつ)まじい様子に、スーとラウも微笑(ほほえ)ましく見守っている。


 出来立てほやほやでも、うちの団は仲が良いし、団長のアイリスを中心にいいまとまりができていると思う。

 うちは、うちらは皆、この団が好きだ。ここに、自分の居場所に、(すが)りつかないと、きっと流されてしまうから。

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