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 とんでもない日になってしまったと思いながら家路に付く。

 と言っても、同じマンションの別のフロアまでだから、物思いにふけるような時間もなく帰宅してしまう。

 今日のことを思い返してみると、慈恩(じおん)紋奈(あやな)さんの家で一人で留守番し。

 帰宅した紋奈さんにセーラー服を着せられ。

 帰宅した慈恩にその姿を見つかって笑いものにされ。

 最後に女装姿のまま、少しだけ真面目な話をして、夕飯を食べて帰ってきた。

 ステイホーム――家にいよう。

 真面目な話というのは、これからしばらくはお互いの家に行かないでおこうという話だった。

 僕たちが同じマンションに住むようになってから、それこそシェアハウスでもしているような感覚で、僕と慈恩はお互いの家に行っていた。

 しかし、僕たちの高校や慈恩の塾は休校になり、紋奈さんも外に出ての仕事はなくなったらしい。

 世の中はそんな風に外出自粛のムードになっている。

 僕たちはこれまで、家族と同じような、同居人のような付き合い方をしてきていたから、会っても問題ないとどこかで思っていた。

 けれど、紋奈さんと珍しくゆっくりと話して――普段は自分と同じ年齢くらいの雰囲気だとさえ感じてしまっているけれど、「やっぱり僕たちより、大人な考え方をしているのだな」と感じた。

 端的に言うと、社会という、漠然とした言葉との向き合い方を僕たちより知っているのだと思った。それも、屁理屈や偏見を感じさせない、誠実な形の向き合い方を。

 そう感じることができるのは、紋奈さんのことを僕がある程度信頼しているからなのかもしれない。

「ウイルスにかかっても大丈夫かもしれない。ほとんどかかる可能性もないのかもしれない。でも重要なのはそんな事実じゃないの。たった1人のヒトが、たったひとつでも何かを変えるために、自分の行動を変えようって考え始めることが大切なんだよ――そうやって考える大人になるんだよ」

 紋奈さんは、優しい言葉で話してくれた。

 いくらテレビのワイドショーで繰り返されても心に響かなかった「ステイホーム」や、「キープディスタンス」という、合言葉みたいなものが、紋奈さんの言葉を通して聞いたときは、僕になにかを考えさせた。

 少し不思議だと思う。

 こういう現象が――同じ言葉なのに心の響き方が変わるこの現象が、どうして起こるのか、今の僕にはわからなかった。

 それは、もう少しいろいろな経験をすればわかるようになることなのかもしれない。

 今はまだわからない。

 だから、シンプルに、信じられるヒトの言葉を信じようと思う。

 明日からも、普段なら慈恩の家に行っていたと思う。けれどしばらくはテレビ電話を使って話でもしようということになった。

 どういうわけか、1日に1時間は紋奈さんと雑談する時間も設けられた。

 毎日、日替わりで1杯分の紅茶をうちのポストに投函してくれるらしい。

 それはそれで、新しい楽しみができた。

 実際に会わなければ、もうセーラー服を着せられる心配もない。

 はじめ、しばらくお互いの家に行かないようにしようという話になったときは、すごく退屈な時間ばかりが頭に浮かんだ。

 だから、身近に紋奈さんみたいないい大人のヒトがいてくれたことはラッキーだったのかもしれない。

 憂鬱でも、退屈でも、辛くても、寂しくても。

 どんな状況だって、その中で僕たちはできる限りの楽しいことを見つけることができるのだと、思うことができたから。

 たったひとりのヒトの言葉だけど、僕にはよく届いた。

 ひとまずの間は、紋奈さんが紹介してくれる紅茶を楽しみに、ステイホームで楽しいこと探しをしてみようと思う。


 本作のキーワードには、


「ステイホーム」


 を入れています。

 作家の方、よかったら一緒にやりませんか?


 僕に声をかけていただかなくても構いません。

 新型コロナウイルスに関連しない内容の作品でも構いません。


 物語を書いて一緒に遊びましょう。

 物語を読んで一緒に遊びましょう。


 書くことは孤独な作業ですが、同じ志を持って書いているヒトがいるだけで、僕は少し楽しい気がします。


 今の世界で起こっているパンデミックが、少しでもいい方向へ向かうことを望んで。


 それではそれでは。

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