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キープディスタンス。
約2メートルの距離を保ったまま、僕と紋奈さんはなぜか雑談をしている。
普段から、自分の家のようにこの家には遊びに来ているし、紋奈さんと話すこともあったが、2人で長時間の会話をするのは、少し新鮮だった。
僕はそのまま慈恩の部屋で木こりのゲームをして待っていてもよかったのだけれど、「私も暇だから喋ろー」という誘いを断る理由もなかった。
紋奈さんの提案で、敬語を使わない様に意識しながら喋っていることもあって、今日だけで少し仲良くなった感じもする。
「ユウリって、どうもりやってるー?」
「あー、あの木こりのゲームですよね。慈恩の借りてさっきやってましたけど、自分ではもってないです……持ってないよ。普段ゲームしないし」
紋奈さんは聞きながら「木こり?」と首をかしげていたが、その部分と、敬語を使わないよう意識しすぎて変な喋り方になってしまっていることには言及せずに話を続けた。
「あれって、オンライン通信で友達にあったりできるんだけど、今外出あまりしちゃいけないから、そういうので遊ぶの結構楽しいんだよね」
「へえ、オンラインて友達と一緒にできるんですね」
現在の世情的に、ウイルスの感染抑止のため、外出したりヒトに会ったりすることは自粛となっている。
普段ゲームをしない僕にとっては、ゲームの中で誰かに会うというのは、ない発想だった。
「だってオンラインだもん。どこでだって誰とだって繋がれるよ」
「僕が最後に使ってたときは、ケーブルで繋いでる時代でした」
「レトロー」
シンプルに笑われた。
「てかお姉ちゃんが色々使いこなしてるの、結構意外なんだけど。さっきもAIスピーカーでタイマーかけてたし」
「えー普通だよ。ユウリ、高校生のくせに時代遅れになるよー」
「いやいや、時代は高校生が作るものだから、高校生である限り僕は最先端だよ」
「たぶんそれできるのJKだけだからユウリは無理だよ」
「じゃあJKになる」
「えー、いいじゃんいいじゃん。私の来てた制服着てみてー」
というと紋奈さんは立ち上がり、自分の部屋に駆けていった。そこ、急にテンション上がるところなのだろうか。というか、
「ちょっと待って。いいから。冗談。冗談だから。ほんとに」
と慌てて言うも、紋奈さんは本当に制服を持って戻ってきてしまった。
シンプルなプリーツスカートのセーラー服だ。
これは紋奈さんにこそ着てもらいたいところだが、紋奈さんの目は、悪巧みを隠しきれない子どものような笑みを作っていた。
「ほらユウリ。着替えよう着替えよう。JKになれるよ」
「え、マジですか。てかそれでJKと言っていいのか」
「JKは気持ちの問題だから」
「初めて聞いたよ」
本当に引いてくれる気配がない。