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世の中には色々なヒトがいるのだと思う。
自分では、常識的にできないこと、技術的にできないこと、発想がなくてできないこと、不安でできないこと、そんな多種多様のできないことであっても、他人であれば簡単にできてしまうことがある。
カーペットに転がって、友達の慈恩から勝手に借りたゲームをプレイしながら、そんなことを考える。
いろいろなヒトがいる。そのことをできるだけ理解して生きようと思っている。だから最近は、突然友達が奇想天外な行動を取ったとしても、すぐさま否定するようなことはしないように心懸けていた。しかしその心懸けのせいで、ついさっき直面した奇想天外な行動に対して、肯定も否定もできなくて、とりあえず場の空気に流されるままになってしまった。
「これって、普通なのかな」
誰もいない家の中で独り言つ。
誰かに自分の存在をアピールする駄々っ子をまねて、膝から下を大きくバタ足のように動かしてみる。
携帯ゲーム機の画面の中では、どこかの島を斧を持ったキャラクターが歩いている。慈恩は「どうもり」と言っていたが、ゲームをほとんどしたことのない僕には、何をするゲームなのかわからなかった。とりあえず、手に持っている斧で木を切り倒すことができるし、木を切り倒すと薪のようなものが出てくるので、主人公は木こりなのだと思う。
というか、他に想像できない。
仕方がないので、島にある全ての木を切り倒して、慈恩のゲームを進めるために薪を集めておいてあげることにした。
単純作業の連続で面白くないし、彼も少しは喜ぶのではないだろうか。
そうして時間を潰していると、玄関のドアが開かれる音が聞こえた。
僕がいる部屋は玄関からすぐ右側にある。
でかけていた慈恩が戻ってきたらしい。思っていたよりずっと早かった。ゲームの画面を見たまま、「おかえりー、早かったねー」と玄関に聞こえるように声をかけると、すぐに部屋の引き戸が開いた。
「ただいまー」
「って、お姉ちゃんじゃん」
声を聞いて驚いて振り向く。ゲームの中では、驚いた僕とリンクするように、木を切り倒そうとした木こりが、斧を空振りさせていた。