表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/9

7 蛸

チヌちゃんグレちゃんに言われるまでもなく、甘太郎は、ここまで進んだ沿岸をかなり暑いと感じていました。

食欲も出ないどころか、命の危険さえ感じる水温だったからです。


アマゴの活動水温は、0度〜18度くらいです。

しかし、この初夏の沿岸海域の水温は、既に20度を超えていました

挿絵(By みてみん)


そこで、甘太郎は少しでも水温の低い方、沖合いの深場を目指して移動し始めました。


生き物や陸地の少ない海域を抜けると、前から巨大な生き物が形を変えながらやってきます


甘太郎は怖くなって、付近の水草の陰に身を潜めました。


巨大な生き物は、イワシの集団でした。

次々と形を変えながら、イワシボールと言う、巨大な集団になって、それを狙うサワラの群れから逃れようとしています。

挿絵(By みてみん)


押されてたまらず水面に出た、イワシを今度は水上から鳥が襲います。


ボイル、ナブラ、鳥山

釣り人達からそう呼ばれる、チャンスタイムです


サワラは、自分と同じ大きさの魚でも遠慮なく食べに来る魚です。けれど、ブリなどと比べると、それほど捕食のうまい魚とは言えないでしょう。

それでも、ふらふらと出て行くと、甘太郎など食べられてしまったかも知れません。


幸い、甘太郎は、変な気を起こさずにずーっと海藻の陰から、これを眺めていました。

挿絵(By みてみん)


不思議にイワシを気の毒とは思わず、早く大きくなって、自分も猟る側に参加したいと思っていたのです。


これは、紛れもなく、甘太郎のフィッシュイーターとしての血の騒ぎでした。


甘太郎は、海の底で古びた壺を見つけました。

休む事は出来ないかと中を覗くと、大きな生き物がいました。

それは、産卵でもう一ヶ月近くも何も食べずに、卵を守っているマダコでした。

奥に海藤花と呼ばれる、藤の花のような白い卵が見えます。


「なんだ、お前は!

私の卵達を狙ってきたのなら絞め殺すぞ〜

まだ私にも、お前を絡め取って絞め殺すくらいの力は残っている。」

挿絵(By みてみん)


「そうか、そのつもりでないのならば良い。

私か私は、ここでこの卵達に新鮮な水を送りながら、守っているのだよ。

まもなく、卵達も孵る。

そしたら、私の役目も終わりだ。」


「ハハハハ…

面白いことを聞くな?

なんのために生きているだと?

お前たち鮭族とて、同じではないか!

卵を産んだら朽ち果てる。

卵を産むために、ボロボロになっても川を遡るのではないのか?」


「産まれたから、生きている。

こうして、子孫を残せば本望ではないのか?

この卵達とて、私のようにまでなれるのは、ほんの一握りだ。

それでも私は一粒でも多く孵してやりたい。」


「あのイワシとて、全部が生き残れば海はイワシだらけになってしまう。

ああして食べられても、大昔から、イワシは減りもせず増えもせず。

うまくできているものだ。」


「あー、疲れた。

久しぶりなので、少し喋りすぎた。」

タコは眠ってしまいました。

挿絵(By みてみん)


死期を覚悟したタコの話しは難しくて、半分以上わかりませんでしたが、甘太郎は、自分を産んで故郷の川で朽ち果てていったであろう、会うことのなかった父母を思うのでした。

「お父さん、お母さん…」

読んでいただき、ありがとうございます。

今回は少し切ないお話でした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ