3 鮎
初夏が訪れました。
甘太郎は、虫以外にも小魚も、とって食べれるほどに成長し浅瀬に出て小魚を探しています。
デーン!!
「こらぁ〜!
なに、ワイの餌場荒らしてけつかんねん!」
いきなり、体当たりをくらいました
「せっかく、ワイが海から来て上流の餌場に一番乗りしてんのに、なんじゃいワレは〜!
ここのコケは全部ワイのもんやど!」
体当たりをしてきたのは、鮎と言う魚でした。
「イタタ…乱暴だなぁ
僕は、コケなんか食べないから、キミの場所を荒らしているつもりなんかないよ〜」
「なんじゃいワレ、上流の田舎もんやんけ。
コケ食わんのけ?
ほんなら、こらえたるわ。」
「それよりキミ、さっき海から来たって言った?」
「おう!
ワイは、はるばる海からここまで上ってきたんや。
お前ら田舎もんとは、違うんやどー!」
「すっご〜い!
もっと海の事や、下流の事を教えてくれないかな?
…イヤ、教えていただけませんか?」
甘太郎は、鮎の顔色をうかがいながら、訪ねました。
「なんや、ワレ、海に興味あるんかいな?
ここからやと、えらい遠いど〜」
どうやら甘太郎は、鮎を調子付かせることに成功したようです。
「ワイはな、川の一番下流の方で産まれたんや…」
鮎君は、自分の生い立ちを語り始めました。
「川底の石に産んでもろた、卵からな。
そら、もうぎょうさんの兄弟がおったでぇ〜
産まれて間もない頃はな、めっちゃチビで、まだヨチヨチ泳ぎしか出来へんから、川の水が増えたら、ウンもスンもなしに海に流されてもた。」
「川の水に塩水が混ざりはじめて、塩っぱくなってきよったなぁ〜って思うたら、アイツらが来よってん」
「スズキってゴッツイ魚でなぁ
ゴッツイ口開けて、ワイらをいっぺんに飲み込むねん
そら兄弟10匹以上が、一口や!
そのスズキがぎょうさん来よるねん!
たまったもんやあらへんでぇ〜」
「ヒョぇぇ!」
甘太郎は、驚きの声を上げるのでした。
「ほいでもな、ワイはこの通り、産まれつきの強運の持ち主や!
そのスズキらにも食われんと、海まで流れてもたんや
そりゃ海は、ぎょうさん食い物あったでぇ〜
小さい虫が、ようけおって、チビのワイらでも毎日腹いっぱい食べられた。」
「虫にとっては、ワイらは、あのスズキと一緒やったやろな」
「けど、海はスズキの他にもワイらを食うたろって思てるヤツらもようけおって、毎日、命がけやったわ。
砂の中から飛び出してくる奴や、貝でもバリバリ食うてまうヤツかておるんやぞ。」
「ワイらは、陸からあんまりよう離れれんかったけど、ある日、ウナギのオバハンってのに会うたんや…」
「なんでも、ウナギのオバハンは、南の海の陽の光も届かんような、深いところで産まれたらしいんや。」
鮎君は、ウナギから聞いた海の話しを始めました。
「その海には、お化けみたいなヤツらばっかりおって、かなりヤバイヤツばっかりなんやそうや。
自分で光るヤツとかも、おるよってに、光りに誘われて行ったら、バクっと一口なんやそうや。
ワイやおまはんみたいなもんは、見ただけでちびるって、言うてたな。」
「もっとも、オバハンかてたいがいの見てくれや。
もし、オバハンに会うたら、ヘビやって言うたら、絶対あかんど〜
めっちゃ、怒りよるでな。」
「オバハンは、暗いとこで生まれたせいなんか、ワイらが寝る夜になってから、ニョロニョロと動きよる。」
「オバハンは、それから西の海を通ってこの川に来よってん。
また、卵を産む時は、南の海に帰りよるんやろうから、何しに来たんかは、知らんけどな。
海の大きさに比べたら、この川なんか、ミジンコみたいなもんやって言うてたわ。
それほど、海は広いらしいでぇ」
「西の南の海には、色とりどりの魚がおって、信じられへんくらい綺麗なそうやで。」
甘太郎は、鮎君の話しを聞いて、お化けみたいな魚とか、とても綺麗な海とかを想像して、ますます行ってみたくなるのでした。
鮎はこんな感じで、テリトリーを守って体当たりするから、友釣りで釣られちゃうんですよね。