異世界転生して『婚約破棄』もされましたが。
魔法の灯できらめくシャンデリア。
壁面に張り巡らされた鏡に映って効果倍増、キッラキラにホールを輝かせている。
んで、今。
照明のほかにその鏡に映っているのは、好奇心に、あるいは憐憫に、あるいは嘲笑に満ちた顔、顔、顔……。
そんな大勢の顔に埋もれるようにして写る、ひときわ青ざめた、超絶美女の顔。
俺だ。
女になる薬を飲まされて大事なモノを1つ失い、その代わり触り心地の良い、ぷっるぷるんの素敵なモノを2つ手に入れ、誰がどう見ても立派な令嬢になったのである。
なぜ、青ざめているかといえば、それは……、と解説する前に。
「タケルよ、そなたとの婚約を破棄する!」
始まってしまった。
俺の前に立っているのは、この国の第2王子である。
彼は今、そこそこイケメンな顔を悲壮感にキリリと引き締めつつ、婚約破棄を宣言しているのだ……!
第2王子との出会いは偶然だった。
つまり、こういう流れである。
①薬を飲んだ。
②シゲオ・ナユタと共にマミナを助けに行った。
③荒くれ共を捕まえ、警備隊に付き出した。
④そこへ、たまたま視察にきた王子様が現れた。
そして、イケメンをブラックホール並みに引き寄せ魅了するチート能力がたちまちに発揮され、第2王子はあっという間に俺の虜になったというわけだ。
そして、第2王子の護衛隊に取り囲まれ、表向きは丁重に同行を乞われつつも、現実には逆らえないパターン。
何しろ俺は、指1本で周囲を阿鼻叫喚地獄に変えてしまえるのだ!
ガマンするしかねーじゃねーかちくしょー……
かくして俺は、王子の独断に付き合う形で彼と婚約し、表向き丁重にもてなされ、裏で『悪女』『魔女』『娼婦』『毒婦』と散々に陰口を叩かれる日々を送ることとなった。
口性悪いのは主に、女達である。
何しろ俺は相変わらず、彼女らにとっては『生理的にキモい』のだから……な。
俺を心配し、侍女としてついてきてくれたマミナでさえ、俺とは通常3歩以上の距離をとり、着替えの手伝いなどは必ず手袋着用である。
そんなでも、ありがたい。
ナユタとシゲオは、女になる薬を没収された上、『男が後宮に入ることまかりならん!』 と俺と無理やり引き離されてしまった。
今、俺のそばに居てくれるのはマミナだけだ。
手袋着用とはいえ、俺に触れてくれる女もマミナだけだ。
パーティーのために念入りに髪を結ってくれながら、マミナは心配そうに尋ねる。
「タケル……あんた、大丈夫?」
「もちろん」
キリッと答えてみせるが、マミナはなお、気がかりが消えないらしい。
「無理しないでね。つらかったら、休んでもいいんだからね」
「心配しなくていいさ……」
もしかしたら、女になったおかげで嫌悪レベルが下がったのかもしれない。
淡い期待を抱きつつ、そっと小さな肩を抱き寄せようとすると……
「ちょ、やめて!」 ずざざざっ、と飛び退かれてしまった。
「やっぱりなんか、あんた、キモいのよね!」
……わかってほしい、とはとても言えないが。
……俺がそんなに、悪いのか……っ!?
あーーーもう、イライラするぜっ!
下腹部はベ○ピみたいにシクシク痛みやがるぜ!
しかも頭まで痛いし、ついでに脳ミソにはモヤがかかったみたいで、油断すると所かまわず眠れちゃうんだぜ!
こんなにツラかったのか……、と俺は半ば、感心している。
マミナもこのツラさはよく知っているから、優しいんだな。
そう、俺はここに言明しておこう。
生理的に嫌悪されるよりも。
もっとツラいのは、生 理 前 。
すなわち、月のモノの直前である、と。
(これまで2日目だけかと思ってて正直スマンかった。)
さて、そうして、こんな最悪な体調とマミナを引き連れて、青い顔でフラフラとパーティーに出てみれば。
「わ、私とてそなたと婚約破棄したいなどとは……決して! 露ほども! 思っていないんどぁぁぁっ!」 あっという間に泣き崩れる第2王子。
先程、婚約破棄を言い渡した悲壮かつキリリとした表情はどこへやら、である。
「わかってくれ! ただ、婚約破棄して女関係をキレイサッパリして隣国へ婿に行かねばモウ勘当、って国王が言うからぁぁぁ……」
さもありなん。
そっちの方が世のため人のため俺のためだ。
婚約破棄バンザイ!
「そうか。わかった」
雄々しく、うなずいてやる。
が。
第2王子の泣き言はまだ、続くようだった。
「私はつつましく、そなたと愛に満ちた生活が送れればそれで良いと思っていたんだ! なのに、なのに……!」 ひぃぃぃぃん、と恥ずかしげもない泣き声。情けない。
「婿に行かぬなら、反逆者としてそなたを捕らえて処刑し、隣国に示しをつけねばならぬな、だなんて! それが父親の言うこと?」
「……国王には国王の事情があるのでは?」
むしろ立派な国王だ。俺はそう思う。
しかし、第2王子はイヤイヤイヤ、とかぶりを振った。
「国王はいつもそうなんだ! 兄上以外の子は、みんな政治の道具なんだ!」
そうか。たとえ王子の身分であっても、人にはそれぞれの苦しみが……!
などと、普段の俺なら、わかってやれたかもしれない。
もしかしたら、同情もしてやれたかもしれない。
だが、今の俺は、なんと言っても。
生 理 前 。
甘ちゃん王子の泣き言に、イライラは募るばかりである。
俺がこれだけツラいんだぞ?
俺への愛をほざくその口で、少しは。
労 っ て み せ ろ や 。
そんな俺の気持ちとは裏腹に、王子はジメジメと訴え続ける。
「私は、私は……兄上になりたかった!」
その時、下腹がいっそう強く、ズキンと痛み、そして。
ぷちぷちぷちっ。
俺の堪忍袋のアチコチが破れる音が、どこかで鳴り響いた。
「テメーいい加減にしろや!」 気づけば俺は、王子に詰めよりその胸ぐらを掴んでいた。
「そのク●ぜーたくな服も、毎日の豪華な食事も、このワケわからんパーティーも!」 第2王子を片手でわざとゆっくり持ち上げる。
「国民が汗水やら鼻水やらたらかして稼いだ金で賄ってるんだろうがっ!」
ずん、と投げ飛ばすと、王子は立派な大理石の壁を頭から突き抜け、はるか天空へと消えていった。
冥福を祈る。
「きゃあっ!」 「やっぱり魔女よ!」 「化けの皮が剥がれたのよ!」 「誰か! その者を捕まえるのよ!」
人を非難することと人に頼ることばかりが得意な、ク●腹立つ女共をジロリと睨む。
誰でもいいから女にモテたい、なんて、よく考えてたもんだぜ俺。
金と名声と権力が好きで一生騙し続けてくれる女なら可愛いと思えるが。
その才覚もなければ努力もしないくせに王子から愛されたいと願う女なんか、いくら俺でも願い下げだ。
「てめーらも同罪だぜ」 ビシィッ、と、彼女らに向けて人差し指を繰り出してやる。
「国を守る気概もなく! 贅沢三昧繰り返すだけでは国民に悪いとか思いませんか、ねぇ奥さんっ!?」
俺は、政治の道具にすらなれないタダのアホの第2王子を壁ドリルしてしまった身。
穏やかに暮らすことなど、もはや叶わぬ夢となったはずだ。
残された道は、ストレス解消しかないではないか……っ!
『人体植物化・コシヒカリ』
念じると、女達はたわわに実った特A米の稲穂になった。
前世以来、久々に見る、黄金の輝きに少し気分が和む。
パスタも美味いがやはり、もっちふわな米の飯は最高だからな!
よしよし、後は王宮を魔法で一面広がる田んぼにして……ついでに種籾を苗まで成長させて……田植え……あと、もう少し成長させて……水も張って……。
うんうん。いいね!
俺は、転生して以来初めての深い満足感を覚えつつ、唯一残った王宮の外門の上から、新しい水田を見下ろした。
さぁっ、と風が吹き渡れば、ざざざざぁっ、と緑の稲が次々に翻り、大きな波を作る。
「青穂波 お貴族どもが 夢の跡」
T心の俳句を呟き、門から飛び降りる俺を、3人の人影が迎えてくれた。
すらりとした剣士♂(シゲオ)、ショタっぽい黒魔道士♂(ナユタ)、少し離れて、侍女姿のマミナ。
たまに悪いことを言われたりされたりもするけれど、逆に、俺が何かをしでかしても、仲間でいてくれるんだな。
そう思うと、目頭が少し熱くなっちまった。
「さぁ行こうか」
精一杯カッコつけて、魔界へと続く森の方へと歩き出す。
なんだか魔王討伐なんか、もうどうでもいい。
そんな清々しい気持ちだが、トーナメントで賞金と賞品を貰った以上、約束は守らなければ。
「そうそう」 ふと足を止め、マミナを振り返る。
「お前は村に帰れ」
「そうさせてもらう」 マミナもうなずいた。
「私、役に立ちそうにないもの」
「じゃあ、魔法で送ってやるよ」
なにしろ道中の歩き旅は危ないからな!
俺は転移魔法を使おうと、マミナの方へ腕を伸ばした。
すると、この幼馴染みは―――
「触らないでね? あんた基本、生理的にキモいんだから」
心底イヤそうに、後ずさったのだった。
☆★☆★
こうして俺、シゲオ、ナユタの3人は、魔界の森へと再び足を踏み入れることとなった。
そしてしばらく歩いた後―――
「おや」 シゲオが呟く。
「レイ……また、斬られに」 光の早さで一閃する刃。
「来たのかい?」
「おっ、お前!」 非難の声を上げる俺。
「ひどすぎねーか!? いくら恋敵とはいえ!」
「ふっっ……本気で言っているのか?」 透徹した眼差しが俺を捉える。
トゥクン……心臓が……って、いやそうじゃなくて。
「悪魔に魂を売った者を、生かしてはおけない」
滑らかな低音声が淡々と事実を紡ぐ中、真っ二つになったレイの身体は、ガタガタと震えつつ互いの距離を縮め。
ぬるっ。
ナニかの液を出しつつ、重なり、1つの肉体へと戻って、また、ズルズルと動き出した……!
「魔界の影響で、肉体が滅びずにゾンビ♀になったようですね」
分析しつつ、レイに向かって、炎を放つナユタ。
「やめろ!」
俺はとっさに手をのばし、その炎を払う。世界最強の俺ならではこそ、できる技である。
「なぜ止めるんです?」 ナユタは怨めしそうに、また片手で炎を生み出した。
「おそらくは記憶も残っていない。コレはレイであって、レイではない……」
「だが、肉体が滅びてしまったら、魂は悪魔の餌食になるんだろ! ゾンビ♀でもいいじゃないか!」 俺はレイの前に立ちはだかり、二人を必死に説得する。
僧侶だったのに、俺のせいで、人生を狂わせた、レイ。
悪魔に魂を売ったがために、肉体が無くなれば、レイは転生もかなわず、この世のどこからもいなくなってしまうのだ……!
そんなことは、俺には耐えられない……っ!
このまま、レイを見捨てるなんて―――
「レイを滅ぼすなら、俺ごと倒せ!!!」
叫んで、レイの、ゾンビ♀の身体を、ぐぁばぁっ、と抱き締める……!
と。
レイが、身を激しくよじって、俺の腕の中から逃げ出そうとするではないか。
……? 一体、どうしたんだ?
「………………! ………………!」 いぶかる俺に、ゾンビ♀化したレイは何事かを繰り返し訴え。
その内容を理解した瞬間、俺は。
「うっるぁぁぁぁぁぁ" っ……!」
―――拳で、レイを跡形もなく粉砕してしまっていた。
―――だって、仕方ないだろ?
レイとしての記憶を失ったレイは、ゾンビ♀としての本能のままに、俺にこう言いやがったのだから。
「離してよ! アンタ、キモい! 生理的に絶対、無理!」
―――仕方、ないだろぉっ!?
「タケルさん、さすがです!」
「君は、ヤる時にはヤるオト……オンナだと知っていたよ」
ナユタとシゲオが贈ってくれる賞賛と拍手の中。
激しい喪失の痛みと心痛と生理前痛に、俺が流した涙は、ぷるっぷるんのおっぷぁいの谷間を伝い、へそ、さらにその下へと流れ込んで、消えた。
☆★☆★
魔王城までの道のりは、いや、魔王の玉座までの長い廊下も、俺たち3人にとっては楽勝だった。
「ふっっ……」 舞うように斬る、シゲオ。
「…………」 無尽蔵に炎を生み出しては投げつける、ナユタ。
「うらうらうらうらぁぁぁぁぁっ!」 生理前症候群とその他モロモロのストレスを、ヤケクソで発散させる、俺。
やがて、上級モンスター達の姿もキレイさっぱり見えなくなり。
俺たちはついに、魔王の間へ躍り出た!
そこで待っていたのは。
ぴきぃぃぃんっ、と空気が凍りそうなほど、強烈に尖ったオーラ。
どこまでも広がる闇を連想させる、絶大な魔力。
それらに身を包まれ―――
「お帰りなさいませ、ご主人様!」
さらには、メイド服に身を包んだ―――
「長い道のり、お疲れ様です!」
ソコソコ可愛くて、ソコソコおっぷぁいの大きい、性格の良さそうな娘ぉぉぉぉっ!
「も、も、もしかして……!」 俺は嬉しさのあまり、口ごもった。
「ナイフクリア景品!」
「そうでぇすっ」 魔王♀は、両手で胸の前にハートマークを作って見せながら、極上の性格良さそうなスマイルを見せた。
「アタシをナイフ以下の装備で倒せたら、景品にアタシが付きまぁすっ」
「やっったぁぁぁぁっ!」
神様、やっぱりありがとう!
俺は握り拳でガッツポーズを作る。
そして、その姿勢から素早くツーステップで間合いに踏み込み。
性格良さそうなスマイルで 「まぁ、無理でしょうけどね?」 と決め台詞を言いかけていた魔王♀を。
ぶ っ 飛 ば し た …… !
「えっ……お約束は……?」 と言いつつ天井を突き破り、宇宙の果てまで飛ばされる魔王♀。
スマンな。
魅力的な景品の前には、口上述べる間は待つルールなど吹っ飛ぶのだ。
つまり。
「キミの魅力が罪なのさっ」
そういうことだ。
たっぷり30分後に戻ってきた魔王♀を、今度は。
「奥義・深淵の炎」
ナユタの魔法が迎え撃つ!
「あ"ぁぁぁぁぁぁぁ……っ!?」
なすすべもなく悶え苦しむ、魔王♀メイド姿。
シュシュシュシュシュシュっ……!
間髪を入れずに、シゲオのナイフが魔王♀に襲いかかる……!
(いつの間に持ち替えたんだ優秀だなっ!)
「いやぁぁぁぁぁぁぁんっ! あぁぁぁぁぁぁんっ!」
ソコソコ可愛い顔に汗と涙を浮かべつつ、苦悶する魔王♀メイド姿っ!
………………
………………
………………そして。
「参りました」
ガックリと膝を崩して座り込み、両手を床についてうなだれる、魔王♀。
(しつこいようだがメイド姿!)
「わかればいいんだよ……」 俺は優しく、両腕を広げる。
ついにできるんだ!
念願の俺カノが!!
このまま行くと百合になっちゃうけど、俺が元に戻る方法さえ見つければ大丈夫!
さぁ、ともかく、魔王♀メイド姿!
カモォォォォォォンっ!
俺の腕の中へ!
………………………………。
………………………………。
………………………………。あれ?
「ねぇキミ。ナイフクリアした勇者は、俺だよ?」
シゲオの腕にすがり付いている魔王♀に、なるべく柔らかな笑顔で確認する。
「だって」 ぷくっ、と頬を膨らませる魔王♀。
「この方がイチバン好みなんだもの!」
「残念だが」 シゲオは醒めた表情で、すっ、と魔王♀を振り払った。
「私はタケル一筋なんでね?」
魔王♀は不満そうな顔をしつつ、ナユタを振り返る。
「じゃあ、あなたでいいわっ」
「すみませんが、僕もタケルさん一筋です」
おーい、魔王♀!
俺! 俺! 俺は?
強いぜ?
(♂に戻れば)イケメンだぜ?
チートなんだぜぇぇぇぇっ!?
内心で必死に呼び掛けていると、魔王♀はイヤそうにタメイキをつきつつ、ノロノロと俺の前に立った。
「アタシ、女でも別にいいんだけど……どうしても……」 若干、顔を背け気味に、口ごもっている。
「アンタだけは、生理的に、無理なのよねぇ……」
その時、ズキッとまた下腹が痛み。
俺は、ハジメテの経血と共に、滝のような涙を流したのだった。
―――俺に、希望は……。
果たして、あるのだろうか―――
読んでいただきありがとうございます!
感想・ブクマ・評価下さった方にめちゃくちゃ感謝ですー!!
(返信絶対します。お待ちくださいませm(_ _)m)
コラボ楽しかったです!
風邪流行ってますね。皆様ご自愛くださいませ~!
γ´´⌒´´ヽ
( '・ω・' )
ヽ___,ノ
γ´ ´´ `ヽ ∧,,∧
l (;・ω・ )
ヽ、__、ノU0_0