異世界転生して『美形ハーレム』も作れましたが。
ダンジョンの薄闇の中、音もなく閃く白刃。
「レイ、血止め」
落ち着いた声と共に、アースワームの巨大なミミズっぽい身体が真っ二つになる。
すかさず呪文を唱えるのは僧侶♂のレイである。
歌うような滑らかな低音ヴォイスに合わせ、しっかりと筋肉のついた腕が舞のように動き……
シュシュシュシュシュッ
アースワームの切り口から出かけていた黒い体液は、高速でその身体に戻る。
結果として、モンスターは……
2 体 に 増 え た 。
「バッッロ!」 俺は毒づきながら、ヤツらの頭を順番に小突く。
アースワームはしばらく苦しそうにうねうねしていたが、もう1発ずつ軽く蹴りを入れてやると、やっと煙になって消えていった。
「こら、シゲオ!」 剣士♂を振り返り、文句をつけてやる。
「血止めなんかしたら、増えるだけだろう! レイも言うこと聞くな!」
まっったく、コイツらは!
今に始まったことではない。
冒険中にわざわざ回り道を増やすのが仕事と言っても過言でないほどの、お邪魔虫っぷり。
アースワームも真っ青だ。
「えーだって」 レイがぷくっと頬を膨らませた。
「見せ場がないと、いつタケルに好きになってもらえるか、わからないじゃない」
「私もそう思う」 シゲオが後を引き取る。
相変わらずの落ち着いた調子ではあるが、その細長い金の眉と長い睫毛に彩られた、女性と見紛うかのごとき美貌は悲しげに雲っている。
「タケルは1人でも冒険できる実力がある……私たちはいつ捨てられるかと、気が気ではないんだ」
「だったら普通に倒せ! そもそもあんたらを拾った覚えはねぇぇぇっ!」
拾ったのではない。
勝手にくっついてきたのだ。
冒険を始めてじきに、気づかされた。
どうやら俺は、女子からは生理的に嫌悪されるが、イケてる男子を生理的に引き寄せるようである。
ク●神様の間違い、としか思えないク●設定だなク●。
「ですが……」 俺の腕に腕を絡ませ、平らな胸板を押し付けてくるのは、黒魔導師♂のナユタである。
この胸にせめて肉まん大の膨らみでもあればまだ嬉しいかもしれないが、そんな気持ちを悟られてはならない。
なぜならナユタは、俺のためなら身体改造でも平気でしそうな程、俺をリスペクトしまくっているからだ……!
「僕はタケルさんの活躍も見たいです」 俺と同じ年齢だが、12、3歳くらいにしか見えない美ショタの、熱く潤んだ眼差しが痛い。
「タケルさんの、強いのに努力を惜しまない向上心と根性! 世界最強と言っても良い能力! そしてそのイケた外見!
何をとっても、憧れずにはいられません!
タケルさんの活躍を拝見し、その後さまざまな妄想をするのが、僕のいちばんの、そして唯一の楽みです!」
ナユタの言葉に激しくうなずき、がばぁっ、と俺に襲いかかる、シゲオとレイ。
「僕の全てを捧げますっ!」 「共に認め合おう!」 「愛してるのっ!」
口々に想いの丈をぶつけつつ、俺の装備を剥ぎ取ろうとする、3人。
「や、やめろお前ら……!」
もがきつつ試みた軽い抵抗も虚しく、徐々に露になる、俺の滑らかな美肌。
くそぅぅぅぅっ!
♂の肌見せ程度では絶対にBanされないとタカ括ってやがるな神様! (おやこれはなんのネタだろう)
「タケルさん……」
ナユタが俺の上に馬乗りになり、上着を脱ぐ。
「タケル……」
シゲオの長く形の良い指が、つっと俺の肌を撫でる。
「タケちゃん……っ」
レイが、口に出しては言いたくないところを嬉しそうにホイホイする。
「くっ…………」
どうしようもない生体反応に呻き声を上げつつ、苛立ちを募らせる、俺。
もういっそのこと、コイツら全員吹き飛ばしてしまいたい。
しかし。俺は世界最強。
吹き飛ばすだけで、全員、確実に死んでしまうだろう……!
仕方がない。
『身体変化・属性・水』
仲間たちにカラダを思うさま弄られつつ、気持ちを強く持って念じると、俺のカラダはトロリと溶けだした。
「ああっ……止めて!」
いち早く気付き、悲鳴を上げる、レイ。
「無理です! タケルさんは最強の魔法使いでもあるんですよ!」
すでに9割ウォータースライム化している俺を、うっとりと眺めるナユタ。
「ふっっ」 美貌を華やかなスマイルで飾るのは、シゲオ。
「その逃亡パターンは既に想定済みさ」
優秀な剣士♂らしい、しなやかな身のこなしで、彼は。
いつの間にか手に持っていた、調理器具『いつでもサラダが出るボウル』で、ザザッと完全ウォータースライム化した俺を掬い上げた。
「ふっっっ」 完璧な形の唇が、満足気に歪む。
「取りこぼしなし、3秒ルール……さぁ、誰から食べようか?」
「そこは等分シェアがいいのでは?」
美ショタが、好物を前にした時のキラキラ目で俺を見据えている。
「あんっ! ここでわけちゃったら、小さいタケルちゃんがいっぱいできる、ってことよね?」
嬉しそうに身悶えするのは、細マッチョ・イケメン僧侶。
「では……三等分でいいね?」
シゲオは得意な料理をする時そのままの、鮮やかな手つきで俺をわけ始めた。
ま、まずい……っ!
『身体変化・還元!』
慌てて念じる!
……が、あと1歩のところで。
遅かった。
剣士♂の素早さ、恐るべし。
俺の身体は、調理器具『いつでもスープが出る小鍋』と調理器具『いつでもパスタが出る大鍋』に三等分ずつ流し込まれてしまったのだった。
拝啓。マミナへ。
俺は、今……ひとりに、なりたい。
なんとなく、心の中で手紙をしたためる。
幼馴染みを思い出しつつ流す涙は、ウォータースライム化したゆるゆるゼリー状の肉体に溶けて、消えていった。