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第七話 【護衛という名目】



 あれから二日経過し、協会には上級者用の依頼書が張り出されていた。


 ゴーレム退治や冒険者の亡骸回収。

 地下洞窟の開拓や地図の作成など、上級者のやることは腐るほどある。


 その中でも一際目立つ赤い依頼書が、冒険者たちの視線を一遍に集めていた。



「モンスターハウスか」


「金貨五枚かよ~。王国の依頼にしてはしょっぺいな」


「誰がこんな依頼引き受けるんだ?」



 上等な装備を纏った上級冒険者たちが、口々と文句を言うなか、ダークパープルの髪を後ろに撫でつけた男が、顎髭を撫でて「うむ」と頷いた。


 先日オーガ討伐を果たした地下洞窟の奥だ。


 どうやらオーガは只の門番だったようで、本命はその奥だったということだろう。王国もまさかモンスターハウスが広がっているとは思わなかったということか。



「あ、やべぇ。ほら来たぜ、ボルネードだ」



 誰が言ったかは分からないが、ダークパープルの男は受付にいるボルネードの姿を見て鼻を鳴らした。


 いつもとは違う受付嬢が対応しているが、二日前に見掛けた二人組の冒険者はいないらしい。



「ふむ……行くか」



 ダークパープルの男は赤い依頼書を掲示板から剥がすと、受付へと歩んでいく。


 そんな男が探している二人組の冒険者──アルマーニとグレッダは、既に地下洞窟の入り口前にいた。


 訝しげに視線を送ってくる王国兵士に背を向け、アルマーニは欠伸を噛み殺している。



「準備は万端だがぁ、こうも暇じゃあなぁ」


「もうすぐだと思うよ。依頼書は張り出してる頃だろうし」



 髪を乱暴に掻くアルマーニの横で、グレッダは雑嚢の中身を改めて整理していた。


 昨日に特別支給された物は、上級者でもなかなか手が出せない道具ばかりであった。


 活力剤や毒の治療出来る薬草から、閃光を放つ眩虫や、魔法の巻物までその種類は多い。


 さらに、新品の鎖帷子にナイフといった装備の類も揃えてくれたようで、ある程度の強敵でも戦えるだろう。



「お、来たみてぇだぜ」



 そうこうしているうちに大勢の足音が聞こえ始め、アルマーニは口角を上げた。



「なんだ、貴様見覚えがあるな。……ああ思い出した、先日の馬鹿な二人じゃないか」



 先頭を歩いてきたボルネードは、アルマーニの姿を見つけ鼻で笑った。


 苛立ちを隠せないアルマーニだが、ボルネードのパーティーだろうか。初級や駆け出しの冒険者が数十人居り、その中にいたソルシェを見つけたアルマーニは、軽く手を振った。


 そんなアルマーニに、今度はボルネードの表情が曇り、分かりやすく舌を打つ。



「ああそうだ。あの少年は元気か? 死んでは寝覚めが悪いからな」


「あぁ? テメェがやったんだろうが」



 肩を竦めてクツクツ笑うボルネードに、アルマーニは喧嘩腰に足を踏み出そうとして踏み留まった。


 後ろでグレッダがいつでも止められるように待機していたが、今回の目的を果たすためには、ここで喧嘩などしても得などない。


 それを分かっているからこそ、アルマーニはグッと堪え鼻を鳴らす。



「残念ながら、あいつは元気になってるぜ。もう出会うこともねぇだろうがな」


「そうか、そいつは残念だ。だが、それよりも……」



 アルマーニの言葉に笑いながらも、ボルネードは強く二人を睨み付ける。


 

「俺の邪魔をしに来たのか、そこら辺の大黒虫狩りをしに来たのか。前者なら、容赦はしないが?」



 ボルネードは躊躇いなく腰の剣柄に手を掛けた。


 それを見てアルマーニはグレッダと顔を見合わせると、互いに鼻で笑い肩を竦めた。



「おいおい物騒じゃねぇか」


「僕たちはとある依頼を果たしに行くだけさ。まあ、それで貴方に迷惑が掛からないとは言い切れないけどね」



 おどけて見せる二人の言葉に、ボルネードは顔を歪めて舌を打つ。


 だが、ここにいるということは、例の依頼に参加するということだろう。

 誰に付いていくのか、それについて疑問を唱えようとしたボルネードを遮ったのは、意外な人物だった。



「お集まりのようですね」


「……貴様、受付嬢が何をしに来た」



 不意に聞こえてきた女性の声に振り返ると、そこには受付嬢がボルネードの横を通り過ぎていた。


 プレストアーマーに兜や足甲まで装備した受付嬢が、鉄門まで歩いて来ると、腰に手を当てて踵を返した。



「今回、ボルネード様の活躍により審査結果が大きく変わりますので、私直々にご同行致します」


「それはそれは、期待に応えられるよう奮励させて頂くよ」



 驚くアルマーニたちを尻目に、ボルネードは胸に手を当て一礼しながら口角を上げた。


 だが、アルマーニの表情は暗い。

 ボルネードの監査役と言っているが、アルマーニたちの監視が目的だろう。


 護衛も連れず、一人で大丈夫なのかと心配になっていると、受付嬢は話を始めた。



「目標地点までは私が先行します。他の冒険者たちはしっかり付いて来て下さい」



 受付嬢の言葉に、皆が訝しげに頷く。

 冒険者たちの仕事に受付嬢が出しゃばって来なければいけないのは、不安にしかならないことだろう。


 アルマーニは溜め息を漏らしつつ呑気に待っていると、受付嬢に力強く腕を掴まれた。



「では、頼みますよ」


「お、俺か?」


「勿論です。契約したでしょう」



 受付嬢は柔らかく微笑むと、アルマーニを無理矢理連れて兵士の前まで進んでいく。


 グレッダは驚きつつも、なるほど、と頷いて雑嚢をしっかり背負った。



「彼らは護衛です。中級ではありますが、実力は私が認めます。この依頼についての許可を」


「きょ、許可致します」



 兵士に有無も言わさぬ圧力を掛けていき、受付嬢は頷いてアルマーニにウインクをして見せる。


 女は恐ろしい、などと思いながらアルマーニはグレッダに視線を送った。

 


「護衛ねえ。精々頑張ることだな。死んでも気にするな、骨くらいは拾ってやるさ」


「それはこっちの台詞だね。骨を拾われないよう、危なくなったら逃げることをオススメするよ」



 嫌味と皮肉を交わらせるボルネードとグレッダ。それを遠くから見つめるソルシェの姿を、アルマーニは眉をひそめて見据える。



「あいつは絶対守ってやりてぇな」



 ボソリと呟いたアルマーニに、受付嬢は真顔に戻り小さく息をついた。



「可愛さには負けますが、私の護衛もよろしくお願いしますね」


「お、おうよ……」



 先程の微笑みは何処へやら。

 釘を刺す受付嬢に、アルマーニは苦笑いをして頬を掻いたのだった……。




 

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