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第一話 【前回の結果】



 モンスターハウスの依頼を終えてから早五日。


 結局、モンスターハウスを全て潰し、少なからず冒険者二名と受付嬢を救ったボルネードは、王国が用意した権力の椅子に座ることとなった。


 連れていた冒険者たちの死や、不自然な魔法の壁などは見逃され、ボルネードの一人勝ちとして今回の依頼は終わったのだ。



「私の力不足で、申し訳ありません」


 と、今日だけで七度目の謝罪をするのは、胸や頭に包帯を巻いた受付嬢だ。


 昼過ぎだというのに、協会の酒場では大勢の冒険者たちが酒盛りをして賑わっている。


 そんな中で、隅の方で横並びに座るアルマーニとグレッダに、受付嬢が深々と頭を下げながら報告をしていた。



「実際、殆どボルネードの姿を見ていないことは事実でして、私が至らないばかりに……」


「そんな気に病むことはねぇだろ。お前が生きていただけマシってやつだぁ」



 受付嬢に対して鬱陶しいそうに頬杖をついたアルマーニは、自らの腕に巻かれた包帯を見て舌を打つ。



「俺が悪ぃんだ。あのままどうにも出来なきゃあ赤線送りなんだからよ。ちっとは喜べ」



 溜め息混じりに麦酒を飲んだアルマーニ。


 グレッダは顔を青くさせながら、力強く受付嬢へ頷いた。



「赤線送りになれば、普通の生活は出来なくなる。僕たちが隠せば良い話だけれどね」


「赤線……」



 グレッダの言葉に、受付嬢は二の腕を掴み息を飲んだ。


 ゴブリンや蜥蜴人に犯された女性の多くは発見されず殺されてしまうが、救出されたところで再び冒険者として生きていくことは出来ない。


 むしろ、人として扱われないのだ。


 多くの魔物は自らの所有物として、内股に焼き印や刃で消えない傷を付ける。そうなれば例え孕んでいなくとも、裏協会が仕切る赤線地区へと送られてしまう。


 化け物扱いされないように、人として、女性として生きていける場所へ。



「人殺ししないための対策って言っちゃあ善意に聞こえるが、女にとっちゃあ死ぬ方が幸せなのかもな」


「そう、でもないよ……」



 アルマーニの何気ない言葉に、グレッダは逡巡してゆっくりと首を左右に振った。


 その真意を聞く前に、受付嬢が少し安堵した表情で胸に手を当てる。



「話を戻しますが、ボルネードは王国の冒険者として活動するので、こちらの協会に来ることはないでしょう」


「そりゃあいい。暫くは平穏ってことか」



 受付嬢の話に、アルマーニは笑って酒瓶を持って顔を赤らめる。



「じゃあ、平穏なうちに小銭稼ぎでもするかい?」


「おいおい、病み上がりだぜぇ? 出来て大黒虫狩りだな」


「それは遠慮しておくよ。僕ももう若くないしね」



 冗談混じりに言葉を交わす二人。


 同時に、見知った顔が三人の下へ近付いていた。



「こんにちわ」


「おぅ、ソルシェじゃねぇか。元気そうだな」



 軽く会釈をして輪に入ってきたのは、傷一つない綺麗なソルシェであった。


 グレッダから何度か見舞いに来てくれたことを聞いていたアルマーニは、先ほどの暗さとは打って変わって上機嫌だ。



「おかげさまで、ちゃんと応援も呼べました。本当にありがとうございます」


「礼をするのは俺の方だぜ? ありがとな、助かったぜぇ」



 親指を立てるアルマーニに、ソルシェは困ったように微笑んで頷いた。



「無事こうして顔合わせ出来たんだ。一緒に食事でもどうだい? 彼がご馳走してくれるよ」


「俺かよ。まぁ、モテる男は辛いもんだぜ。テメェは自分で払えよ」


「僕も今は女性として見てくれて構わないよ」


「悪ぃなぁ。残念ながら男並みの長身の女には興味ねぇんだ」



 いつも通りの皮肉の会話を済ませたところで、受付嬢とソルシェは微笑んで眉をひそめる。


 女性二人が向かいの席に座わり、グレッダは四人分の食事を配膳娘に注文して前を向く。


 アルマーニの怪我が治らないことには依頼も受けられないからか、珍しくグレッダも葡萄酒を頼んでいるようで。



「私もご一緒して良いのでしょうか?」



 受付嬢は辺りを見回し、周りの冒険者たちの視線を気にしながら肩を落とした。



「その腕じゃあ仕事どころじゃねぇだろ。それに俺の奢りだ、何か言ってきやがったら俺のせいにすりゃあいい」



 麦酒を飲みながら、アルマーニは鼻を鳴らして周りの冒険者に一瞥くれてやる。


 すると、面白いくらいに全員が視線を逸らしたのだ。まだヒソヒソと噂話に花を咲かせているが、これで受付嬢の肩の身も広がるだろう。



「さて、料理が来たみたいだよ」



 グレッダの言葉と共に、テーブルに置かれていく料理プレートと酒の数々。


 トマトスープに黒糖パンと、チーズオムレット、鮮やかなサラダに、甘ダレのソースがかけられたローストビーフ等々。


 豪華な食事が並べられていく中で、ソルシェの表情は驚きと高揚感で満たされていたが、対してアルマーニの表情は青い。真っ青だ。



「グレッダさんよぉ? こりゃあちっと大盤振る舞いし過ぎじゃねぇかな?」


「僕の分は払ってくれなくていいよ。遠慮なく、良い格好をすればいいさ」



 こそこそ話すアルマーニだが、葡萄酒を片手にグレッダは鼻で笑い顎で前を差す。


 差された前を見たアルマーニは、おあずけを食らいながらも必死に両手を合わせて待っているソルシェに、自然と笑みをこぼしてしまった。



「まぁ、しゃあねぇ。おら、どんどん食え!」


「はい! いただきます!」



 ヤケクソに酒を持って前へ突き出したアルマーニに、皆がそれぞれ飲み物を持って乾杯していく。


 黒糖パンを頬張るソルシェと、チーズオムレットに手を付ける受付嬢の美味しそうな表情に、二人の男は微笑んで見守る。



「あとで金貸してくれ」


「ああ、いいとも」



 そんな現実的な会話をしながら、二人の女性を眺めてアルマーニは酒を喉に流し込んだ。





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