「1回事故ってこいよ」
あれ?集中できない。身体の調子もいいのにどうしてこんなに身体が動かないのだろう。俺はおそらく緊張しているだろう。それは世にいう音ゲーというものをやりながら感じた。100円を無駄にしたくはなかったが実質、集中していなくて思うようなスコアが出ずにいつものような頭のボーっとした感覚が残っていた。
1度並んでいた列から外れてゲーム機の後ろにあったベンチに腰を下ろした。その瞬間にズボンのポケットが振動した。
「今からドンキ向かうね」
送り主は工藤だった。じゃあ1ゲームぐらい大丈夫か。そう思い俺はまた長い列へ並んだ。
この1ゲームは集中できた。しかもベストスコアも更新し満足気に後ろを振り返った。
「凄かったな」
ギョッ!?後ろには工藤と背の小さい彼女らしき人がいた。
「驚かすつもりはなかった。すまん」
「いやいや、問題ない」
やはりどうしても気になった。工藤の隣にいた彼女らしき人物が。
「初めまして」
と、彼女が言葉を発した。
「初めまして」
俺も咄嗟に返す。
「お前の彼女?」
「そう。ユアっていうの」
「ユア…さんね」
とても愛嬌もあってアニメのヒロインみたいな彼女だった。俺は工藤の傍まで寄って彼の背中に手を置いて彼女に聞こえないように
「お前の彼女めちゃくちゃ可愛いな」
ポロッと本音を工藤に吐いた。
「だろ?」
俺は工藤の背中を軽く叩いて工藤と彼女から少し離れた。眩しすぎるカップルで近付いたら壊れてしまいそうな気がした。
「じゃあ、俺はまたここにいるわ」
「おけ、じゃあ俺らは反対側行くわ」
工藤とユアは後ろを振り返って2人の背中が小さくなるまで俺はボーッと視点を合わせた。
その後、全く集中が出来なくて俺は電車に乗って家路を辿った。惚気話になるだろうが、思わず工藤と通話がしたくなった。
「おい」「お前の彼女可愛すぎだろ」と、めんどくさいと思われそうだがデート中であろう午後4時半に送った。今日は最近1週間からしたら暖かい日だったので降った雪が凍って大きな氷になって道路を覆っていたが、やっとアスファルトの濃い灰色がちらほらと見え始めていた。今日は身体の調子はいいのに何故か何もやる気がなく、溜まっている課題もする気がなくベッドに横になって白い天井の一点だけを見つめていた。
「めちゃくちゃ楽しかったよ」
俺が工藤にLINEを送ってから5時間後、彼と通話をした。その時に俺は彼に「今日のデート楽しかった?」と、聞いたら彼は満更でもない声でそう言っていた。
「そりゃ良かった」
「あの後フードコートに2人でいたんだけど…」
スマホが振動した。彼から画像が送られてきた。その画像には掌に彼女から描かれたらしき絵文字のような絵があった。その絵文字のような絵は笑っていた。
「うわ、惚気だ」
「すまんすまん」
その後に「エヘヘ」と、幸せで溢れた笑い声が俺の耳元に届いた。
その後も耳が痛くなるくらい惚気けた話を聞いた。
「まじでさぁ」
「ん?」
「1回事故ってこいよ」
「うわ、ひっど」
思った以上彼は甘い声を出していた。
「お前の彼女可愛すぎないか?マジで嫉妬レベル」
「最高だよ!これからも長くやっていけそうな気がする」
「俺もそう思う」
長く続くんだろうな。俺の頭の中には彼らの結婚式に参加している未来が描かれていた。
「大切にしよ」
「ああ」
「じゃあ、お疲れ」
俺はこうして通話を終了した。