マイセルフアゲイン
日に日に身体は思うように動かせなくなってきた。歩くだけで頭を鈍器で殴られたような痛みが走り、息切れもしてきた。耳鳴りも激しくなってきており、集中して話を聞かなければ聞こえないほどだった。
そんなボロボロな身体で体育祭を迎えた。俺は奥田とやっているフリをしようと約束し、当日の今日、実行。俺らは棒倒しに出たが、棒の上にある旗を取ってやろうという気持ちはなく、やっているフリでその場を耐え忍んだ。
俺はその後、部活対抗リレーまで出番はなく、奥田は既に出番が終わっていたので2人で日陰のある場所に座って喋った。
「なあ」
「あ?」
「お前ってよく頑張ったよな」
「お、おう」
「普通あんなパワハラ顧問やってらんやねーよ」
「俺も引退してからヤバさを知ったわ」
「それまでなんも感じなかったんか?」
「うん、これが普通なのかな?って思ってた」
「完全に洗脳されてたんだな」
「どうやらそのようらしくてね」
「なんてこった」
体育祭は白熱している。そんな声も2人の中ではBGMとしか思っていない。
「壊れる前に誰かに頼れよ」
「さすがに誰かに頼るわ。俺もそんな馬鹿じゃないし」
「そうだといいけどな」
部活対抗リレーに出場する人の招集が始まったアナウンスが流れた。それは生徒会の元カノの声だった。
「すまん。俺出番が来たわ」
「おう、無理すんなよ」
俺ら奥田の言葉に右手を挙げて応えた。「心配すんな」と。
男子テニス部からは3年生3人と2年生7人で出ることになった。どうやら肩車をして走るらしい。俺は9走目に走ることになり、アンカーの肩に乗ってゴールするそうだ。
さっきまで日陰にいてそこまで身体のしんどさはなかったが、炎天下に晒されると酷いもんだ。身体が鉛のようにおもたくなった。9走目まで時間はあるから地べたに座り込んで出番を待っていた。
案の定、陸上部、野球部が先頭でドリブルをしながら走ってきたサッカー部とバスケ部は少し離れてバトン替わりであるボールをパスした。その後も色んな部活が個性を出したリレーでバトンを繋いでいった。男子テニス部は最下位。女子はボールをラケットの上でリズム良く弾ませて、渡す時にはボールを高く上げてそれを次の走者がうまくラケットに収めて走り出す。俺らもそうすれば良かったのではないか?そう思いながらもそろそろ8走の高岩が近付いてきた。そして、バトンが渡された。といっても、8走だった高岩である。
「先輩!お願いします!」
後ろから2番目の女子テニス部とは大きく差が開いていた。マイペースで高岩を落とさないように走ろう。高岩を背中で背負い、足取りがままならないまま出発し、落とさないように、転ばないように慎重に歩いた。途中、視界が視界がおかしくなったものの、気を失わないように懸命に自分自身を持ち直した。
トラックの外側やテニス部から「頑張れ!」という言葉が飛び交った。一瞬よろけたが、持ち直してもう1度歩いた。今まで感じたことのなかった声援が背中を後押してくれた。
あと10m、あと5m。アンカーにバトンを繋ぐため、高岩を肩に乗せながら走る。グラウンド全体が一体となって俺に声援を送った。あの冷めていた奥田でさえ身を乗り出して「頑張れ!」と言ってくれた。
もう倒れてもいい。そう思いながら白線に爪先を1cmでも先に伸ばした。そして、ついにバトンはアンカーの富澤に渡った。俺は高岩を降ろした後、グラウンドに倒れ込んだ。歯に砂がくっついて膝小僧が擦りむけて、右の頬骨に強い衝撃が走った。
グラウンドからは拍手が湧き起こった。それは誰に対しても拍手なんだろうか。目の前が砂嵐となった俺には理解が出来なかった。
走り終えた。もう死んでもいいや。この身体で一生を終えるならいっそ死んだ方がマシだ。
そう思っても耳鳴りの中で聞こえてくる声は「マイセルフアゲイン」と囁いていた。自分自身もう一度?まっぴらごめんだ。
俺は担架に乗せられて保健室のベッドへと向かうのであった。
読者の皆様へ
マイセルフアゲインをご愛読ありがとうございました。
これで第1章『崩壊』が終了しました。もって、9月まで改稿以外は更新しないということになります。
この作品は自分一人で書いてるわけではなく、桂馬雄太郎のモデルとなった親友との合作です。
精神病を患ってしまった親友と患ったことのない俺は、この作品に同じ思いを込めました。「精神病の辛さを知って欲しいこと」と「周りはどう手を差し伸べればいいのか」ということです。
2章では伝えたいことが沢山あります。メッセージをたっぷり含んだ作品にしようと考えています。が、俺らに時間をください。一旦マイセルフアゲインから離れさせてください。また戻ってきて書きますので待っててください。『なつやすみ』を読んで待っててください。(ちゃっかり宣伝)
では、その日まで!バイバイ!




