ありがとう
具合悪いには変わりなかったが、自分の身の回りで変わったことがあった。
それは部活の引退だ。個人戦では富澤はベスト16まで勝ち進んだが、県で3位だった人と対戦し、敗退。俺の出ていた団体戦も1回勝ち進んで敗退。うちの高校は上位大会へ進むことができず、俺ら3年生は引退となった。俺らの部活は特殊で、伝統的に夏休み前に1、2年生で話し合って部長、副部長を決める。その後に元部長と元副部長が引き継ぎをしているため、負けたらそのまま終わりという冷めている部活だった。
逆に今の俺にはそれが良かった。今の状況で人前に出て話したくなかった。
俺ら3年生が会場を後にする前に「先輩」と話しかけられて振り返ると、その声の主は、同じペアだった松原だ。
「お、どうした松原」
「今までありがとうございました」
「いやいや、お礼を言われるほどのことなんかしてないよ」
「いや、部長として俺ら引っ張ってたじゃないですか!俺ら2年がグダグダしてばっかでごめんなさい」
「松原が1番真面目だったよ、本当に松原がいてくれて良かった。俺一人ではどうもならなかったからな。ただ、」
「せんぷぁい、ありがうございやした!」
春日も俺に声をかけてきた。
「コイツコイツ、1番言うこと聞かねぇやつ」
「せんぷぁい、酷いこと言わないでくださいよ」
「いや、酷いこと言ってないわ。お前の態度の方が何倍も酷かったわ」
「またまた〜。実は松原みたいに褒めたいんすよね?」
「どの口が言ってるんだ」
この瞬間、俺はテニス部の部長として部活をやり通して良かったなと感じた。
ダラダラしていたり、言うことを聞かなかったりしたが、良い後輩に恵まれていたんだな。ありがとう。
「AO入試頑張ってください」
「おいおい、もう小耳に挟んでいたのか」
「富澤せんぷぁいから聞いたんで」
富澤も後輩と話している途中だった。アイツもストイックな性格だったが、誰にでも優しいから後輩に慕われていたのは間違いない。部内で1番強かったし。
家に帰ってきたら、本当に終わったんだ。これで独裁者から解放されたんだ。と、清々しい気分でいた。
でも、それは表面だけ言われているだけであって、実際はそんな事がないのかもしれない。俺は部長をしただけであって、特に良い成績を残したとかムードメーカーとして部活を盛り上げたとかしていない。ただただ部長という責任を全うしただけなのだ。
自分の理想でもあった部長を全うし、最後に慕われたい。たったそれだけのために雑務をやらされたのかな。それとも、生徒会の彼女とテニス部の部長という絵にでも描いたようなカップルになりたかっただけなのかもな。
馬鹿らしくなった。
出来ない自分を隠して、出来る自分を演出しようとして仕舞いには身体もおかしくなる。そんなアホみたいなことをしていたのかと思うと、見せかけだけ必死に作ろうとしていた自分が嫌になった。
でも、これでAO入試で話せる内容は出来た。それだけが救いだ。
外は明るくなっていたが眠気はそれに反比例して襲ってきた。もう朝だ。学校へ行かなきゃなのに。




