五月雨が音を立てて地面に叩きつけた
電車に乗っていたら雨は止んでいた。降りてもこの天気が続けばいいのにと、願うことしか出来なかった。
リュックサックは折り畳み傘からはみ出して濡れてしまい、テニスシューズにも雨水は染み込んだ。グチュグチュと音を立てながらも電車に乗り、揺られること30分、やっと最寄り駅に到着。鉛のような身体の腰を上げ、出入口に立つ。一瞬意識が飛ぶかと思ったほどの立ちくらみが起こったが、何とか耐えて電車の外へ出る。身体は冷えきり、体温が失われていく感覚がしていることを自分でも感じた。「これはまずい」そう思った俺は短パンからスマホを出してお母さんに電話をかけた。
『もしもし』
「もしもし」
『どうしたの?もう駅着いた?』
「うん、今ホーム」
『遅かったね。お疲れ様』
「身体がしんどいから迎えに来てもらってもいい?」
『ん〜、いいよ。3日間頑張ったんだしそれぐらいのことはするよ』
「ありがとう」
『じゃあ、今から向かうね〜』
通話を終了する効果音がスマホから流れた。改札口へ向かうために1段1段コンクリートの階段を上る。脚が棒になり、荷物が大岩のように重く感じた。息を深く吐きながら、胃液を胃に戻そうとする。頭がボーっとしてきて意識がなくなってきているが、何とか外へ出ようと、改札をくぐろうと思い、階段を上り切る。そして、Suicaをタッチした。時間が遅くなって誰もいなくなった無駄に広い駅にピピッと電子音が響いた。残金は317円。とても微妙な数字だ。
1度無人駅構内の改札前で止まり、深呼吸をする。過呼吸気味になって眼圧がかかり、肺に大きな空気の塊を作っているような感覚が神経を通じて確認できた。
また歩き出す。長距離を走るように、「フー」「フー」とリズムを崩さないように身体の中の空気を入れ換える。そして、駅のホームから改札階までの階段より長く、大きな階段を下る。前に転ばないように、つまずかないように左右に体重を動かしながら下りたり、後ろに重心を置いたりして約50段の階段を下りきった。
今の時刻は午後6時半。階段を下りて停車場の方を見ると西日が差していた。空は黒い雲が広がっているのに、日の入り前の夕焼けが明るく照らしていて変な空模様だった。
空から1粒の雨が俺のテニスシューズに当たってアスファルト上に弾け飛んで消えた。西側から吹いてきた湿った風が全身を包んで線路の方へ流れていった。重いジャグポッドを震えている左手から離し、右手に持っていたテントの骨を地面に下ろした。
「俺って生きている意味あるのかな?」そんな気持ちが心臓の真ん中を射止めた時、五月雨が音を立てて地面に叩きつけた。
目頭が熱くなり、目の前が黒く、砂嵐が襲った。目の前の駐輪場が傾いていき、右頬に熱い衝撃が襲った。
俺は今、倒れたんだ。




