その通り
結局、お父さんも大賛成で俺はAO入試を受けることにした。その事を工藤に報告すると、『同じ大学目指そうって言ってたじゃん?それが叶わなくて残念だけど、お前が決めた道だし間違ってないはずだな』と、LINEが送られてきた。『その通り』『まだ部活も思ってないし忙しいに変わりはないけど、AOの準備するわ』そう送ってスマホを置いた。
工藤は理系であるが、数Ⅲで苦しんでいるらしく、俺らが前に目指すと言っていた地元の工業大学すら危うかったようだ。彼曰く、「数Ⅲだけは別物。俺には合わない」と。彼も彼なりに大変なことはあるらしい。
俺は再びスマホを取り出し、ゲームを始めた。
その最中に理沙からダラダラと続いているLINEが来た。俺はそれを無視をしてゲームをした。
時はGWに入り、俺らテニス部も地区大会が始まった。何故か毎年GWは30℃近くまで気温が上がり、身体が堪えるほどだ。でも、今年は格段に身体が辛かった。
午後には28℃まで気温が上昇し、頭がボーっとし、手足の痺れも激しくなってきた。熱中症になったかと思い、学校のテントで寝転び休むことにした。
「おい桂馬何寝てんだよ」
つっかかってきたのは金山だった。
「ちょっと具合悪い。少し休ませて」
「は?お前部長だろ?これから試合のやついるのに応援まとめなくて良いのかよ?部長の仕事放棄するなよ」
「やめとけ。俺が指示するから桂馬は休んでろ」
俺らの間に入ってきたのは富澤だった。
「具合が良くなったらでいいから来いよ。それまで俺がお前の仕事やるから」
富澤は俺を庇い、普段俺がやっている「部長」という役割を引き受けてくれた。申し訳ない気持ちもあったが、助かった気持ちでもあった。
ブルーシートの上に寝ながらゆっくり息を吸う。染み込んだみんなの靴下の臭いと熱気が俺の肺を満たした。
暑かったが次第に意識は遠のいて、ついには目も閉じて意識が飛んだ。
こんなつもりではなかったが、突然来た睡魔には耐えられなかった。どこかの学校の応援の声もなくなっていく。大会の熱気も消えていった。
昼寝から起きると、みんなが応援を終えてテントに戻ってきていた。
「どうだ?具合は良くなったか?」
声をかけてくれたのは富澤だった。
「何とかな」
「それなら良かった」
「すまんな、俺がしなきゃいけない仕事を任せてしまって」
「いやいいさ。気にすんな」
そう言って富澤はどこかへ歩いて行った。
スマホに手を伸ばし、LINEの通知を見ると、工藤が0.1秒差、順位があと2人の差で県総体出場が叶わなかったらしい。
彼は短距離の選手ではなくて中距離の選手だ。だから0.1秒差で勝負が決まることはほとんどない種目だ。それでも彼は0.1秒で泣いた。あれだけ一生懸命だったのに彼は勝負の世界で負けてしまった。
とても残念に思えたが、それ以上思うことは何もなかった。単純に残念、お疲れ様ぐらいしか思えなかった。
それと同時に「俺も早く引退できないかな」と、起こりもしない理想を思っていた。




