大丈夫か?
雨に打たれて1週間後、俺らは修学旅行へ出発をした。 あの雨から身体の状態は少しおかしかった。頭がガンガンと響くような痛みがあり、たまに目眩も伴った。身体に電撃が走るような痛みを伴う神経痛もあり修学旅行を楽しめないような気もした。修学旅行の当日も朝食を食べずに集合場所である学校へ行くためにいつもより1つ早めの電車へ乗った。電車に乗ったら丁度奥田の乗った車両に乗り込んでいた。
「よお!」
「うっす」
奥田はいつも以上にテンションが高く、それに比例して声もいつもより大きかった。
「今日は修学旅行だぜぇ!?最高だろ?なあ?」
「お前うるせぇよ。馬鹿か、場を考えろ」
「修学旅行っていう一大イベントだぜ?そりゃテンション上げてもいいだろ?別に減るもんじゃねぇし」
他の高校生の視線が奥田と俺に集まっていて居心地が悪かった。それに奥田の声も頭に響いて目眩も激しくなってきた。早く電車を降りたい。その事しか頭になかった。
奥田のテンションは学校へ近付けば近付くほど上がってきて長崎へ到着した頃には空へ飛んで行ってしまうんじゃないかと思う程だった。
全員が入り口に集まりバスに乗って俺はすぐにイヤホンをして眠った。
空港へ着き、初めて空を飛ぶことに身体の状態を忘れて少し胸を踊らせた。とうの奥田は何故か顔に表情がなくなり、少し青くなっていた。正直俺よりヤバいと感じてしまった。
「奥田、大丈夫か?」
「やべぇ、酔った」
「は!?」
「しかも、俺高い所苦手なんだ」
「……」
あーあ。後先を考えずに騒ぐからだ。ただの自業自得としか思わなかった。
福岡空港へ着いてそこからバスで吉野ヶ里遺跡を見てから夜景の綺麗な稲佐山へ登った。長距離の移動で頭痛も朝より激しさを増してみんなが固まっている列から離れてしまった。
「雄太郎、大丈夫か?」
背中に手を差し伸べて押してくれたのは奥田だった。暗闇であまり顔を確認できなかったが顔色も戻っており、とてもスッキリとした顔をしていた。
「サンキューな」
「困った時はお互い様だからな」
奥田の手は大きくて温かかった。いつもはおちゃらけていて馬鹿だと思っていたやつがとても頼もしく見えた。
脇の下から冷や汗が流れてきていることが自分でも確認できた。右、左と交互に脚を出して歩いている。気温は冷えてきていて爪先に感覚がなくなっていた。それでも奥田と一緒に稲佐山を登れている。それが無性に嬉しかった。
「よくここまで来れたな」
「お前のおかげさ」
「お前の根性も凄かったぜ。そりゃモチモチと付き合えるわけだ」
「俺の彼女をモチモチって言うな」
「フー!さすが彼氏さん!」
「おちょくるな」
2人は稲佐山から見える夜景を眺めながらお互いを称えた。日中は暖かかった長崎も今はコートがなければ寒いくらいだった。
「あ、モチモチがこっち近付いてくるぞ」
「だからモチモチって言うな」
俺を見つけたようで彼女が一緒にいた友達と離れて奥田と俺の所へ来た。
「お、理沙」
「雄太郎、ちょっと話そう。奥田くん、ごめんねちょっと2人になるね」
寒空の下、人気のないベンチに2人で座った