物事は上手く進んでいる
あちらがどう思っているか知らないが、俺はあの件で彼女と別れた。もう俺には恋人という聞こえのいい存在はいなかった。恋人がいない人にとっては嫌味にしか聞こえないことかもしれないが、俺には重荷だった。
別れた次の日に俺は担任と面談があった。ここで新しいスタートを切るんだ。そんな気持ちで面談をした。
「桂馬くんはテニス部の部長もしているけれど、今はどんな感じ?」
「うーん、ずっと具合が悪いですが物事は上手く進んでいる気がします」
彼女と別れられたのが俺の中では「物事は上手く進んでいる」と変換された。
「ずっと具合が悪いのですね」
先生はルーズリーフにメモを取った。このように生徒全員の事情を全て書き込んでいるのだろうか。それだったら担任は勤勉家だ。
もともと先生になりたくて勉強をしていたらしいが、現役生の頃に志望校合格が叶わず、合格していた私立を蹴って浪人したそうだ。猛勉強の末、志望校の1つ上のレベルの大学へ進学し、高校の先生になったそうだ。「浪人して僕のサボり癖は改心されました。それほど僕にとって浪人は人生で1番苦しい時期で1番充実していた時期でもありました」高校2年生の授業の最後に話してくれた。
「あまりに体調が悪いようなことが長いなら病院へ行くことをオススメします。自分の身体のことを気遣っていてくださいね」
「はい」
「では、本題に入りますが、高校卒業後の進路について考えていますか?」
「正直全然考えてなくて。ただ、医療機器に関わる仕事はしたいと考えているのでそういう専門学校か大学へ行けたらと思っています」
「なるほど。そうですか」
先生は手元に置いてあったクリアファイルから1枚のプリントを取り出した。
「これとかどうですか?桂馬君の条件に合っているかと」
それは地元にある、臨床工学技士になれる医療系の専門学校だ。
「桂馬君の成績でいくと、AO入試でも受かると思います。部長もしていたし」
とても魅力的に思った。自分でも大学か専門学校かで迷ってたが、やっと本当に行きたい学校を見つけられた。
「じゃあ、今日両親と相談して」
「相談してですね」
「自分の中では1番行きたいと思った学校なのでその事も含めて話してみます」
「分かりました。AO入試の締切はもう少しなので、受ける体で学校で揃えられる資料は揃えておきます。なので桂馬君は証明写真と印鑑を持ってきてください」
ぼんやりとしか考えてなかった進路に道路標識が建てられたような感覚がした。それに従っていこう。桂馬は胸を張って職員室の扉を引いた。
「お母さん、俺専門学校のAO入試受けたい」
そう言って担任から貰ったプリントを見せた。
「臨床工学技士の専門学校なのね。雄太郎としてはどうなの?」
「今まで大学か専門学校かで悩んでいたけれど、この学校が1番行きたいって思った学校だった」
「ふーん。そうなのね〜」
お母さんは腕組をしてプリント読んでいた。それも真剣な眼差しで。
「お母さんはいいと思うよ。雄太郎が行きたいなら受ければいいさ」
「じゃあ、締切がそろそろだから先生に返事出すね。OKだって」
「待って。お父さんにも聞かなきゃだから待ってて」
お母さんはスマホをズボンのポケットから取り出し、お父さんに電話をかけた。




