治る気配を見せてはくれない
葉桜でさえなくなり、桜の花びらも塵となって捨てられた頃、1年生が部活に参加して俺らと一緒に部活をするようになった。顧問からは「今年の1年生は県大会で個人戦ベスト8まで進んだ生徒もいれば団体戦で準決勝まで進んだ生徒もいる。今年は強いらしいな」とまるで我が手で育てたような口調で俺に言っていた。もちろん、それは俺も既知の事実である。まず、サーブの狙う場所や速さ、フットワークからして差は出ていた。こんなに上手なのに他校から声はかからなかったらしいく、テニスでは無名のこの公立高校に来たらしい。
そんな優秀な1年生が入部をし、一緒に練習をしていて2年生や3年生の部員は、総体のメンバーから外されることを恐れてなのか、少し前までの部活と空気が明らかに違っていた。ダラダラとしていたあの雰囲気は嘘のように消えていた。俺は少し安心し、部長としての仕事が減ることも願った。
そういえば、最近金山は部活に参加するようになり、富澤も怒鳴り声を上げず、テニス部一丸となって練習に汗を流していた。
「よし、集合」
珍しく顧問が学校から少し離れたテニスコートにジャージ姿で来ていた。テニス未経験かつラケットも握らずに見ているだけなのに、学校内でもテニスコートへ来る時もテニスシューズを履いていた。
「では、これから地区大会のメンバーを発表する。ちゃんと聞いててくれ」
来月のゴールデンウィーク中に地区大会が開催される。もうこんな時期になってしまったのか。身体がおかしくなって5ヶ月。未だ治る気配を見せてくれない。
「個人戦。金山、富澤、松原、青山、北島、春日、小野、長浜」
俺の名前はなかったが、バイトでサボっていた金山とこの学校のテニス部の中では1番上手な富澤、1年生の小野と長浜は名前が呼ばれていた。
「次、ダブルス。金山、青山ペア。桂馬、松原ペア。北島、小野ペア、春日、長浜ペア。以上」
富澤は個人戦で勝ち進むため、ダブルスから抜かしたのであろう。言い合いがなくなったにしろウチの部活の1番手と2番手の金山と富澤じゃあペアにならない。未だ口を聞かないのだから。
「次、団体戦。金山、富澤、桂馬、松原、青山、北島、小野」
おそらく、富澤をシングルス、金山と青山、北島と小野がダブルスで出るのだろう。俺と松原はダブルスのどちらかがダメな時に出るか、埋め合わせなのだろう。
「団体に関しては部長中心に話し合ってどういう組み合わせにするのか決めておけ。決まったら桂馬が職員室へオーダー表を持ってくること。では解散。ボールを回収して7時までにここを出るように」
時刻は午後6時半過ぎ。みんなで協力をすれば難なく7時には片付け終えてテニスコートから出られる。俺は部活で疲れた身体に鞭を打つように屈んで黄色いボールを拾い上げた。
「桂馬、俺は学校に戻るから後は頼んだ。学校のボールと施設から借りたボール間違えるなよ」
そう言って顧問はテニスコートを後にした。




