何を呑気に
部活が終わり、玄関前で彼女を待っていた。幸いにして部活は早く終わった。顧問は俺が彼女と帰ることを知っていたのだろうか。いつも思っていたが、彼女と約束している日に限って部活が早く終わる。
これは嬉しいことであったが、次第に心の矢印はマイナスの方向を指していた。
「お待たせ」
「お疲れ様」
「待たせちゃった?」
「ううん。全然」
言うぞ。絶対言うぞ。そう心に誓って理沙と駅に向かった。
日は長くなったものの、夕方になれば凍えるほど寒かった。所々で桜の花びらが散らばり、薄いピンク色から秋の紅葉が終わって落ちた葉のように、桜の花びらもまたみすぼらしい色へと変わっていた。
「体育祭の準備始まったん?」
「うん。これから始めなきゃ6月の頭に間に合わないからね」
「大変だな、生徒会も」
「いやいや、雄太郎の方が大変でしょ。テニス部の部長様なんだから」
「そんな様を付けられるほど偉くないなら。俺なんかより2年の方が上手い人いるし」
そんな他愛のない会話を2人でしながら田んぼ道を歩いた。
「昨日も部活終わるの早かったでしょ?」
「うん。まあ」
「私も早かったんだよ」
「そうだったんか」
「だったら昨日も一緒に帰れば良かったのにね」
違うだろ。別れの話をするんじゃなかったのか?そう自分に問いた。早くその話に持ち込まないと。
「ちょっと昨日は具合が悪くてね」
半分嘘で半分本当のことを言って彼女の気を引こうとした。昨日は確かに具合が悪かった。でもそれは毎日そうであって、具合が悪かったから都合がつかないということではない。都合をつけようと思えばつけられた。ただそれだけ。
「そうなんだ」
「てか、最近そうなんだよね。なんか知らないけれど、ずっと具合が悪くて」
「ほんと?それ医者に診てもらった方がいいんじゃない?」
「俺もそれ思ったけれど、まだ良いかなって」
「私に出来ることがあったらさ、なんか言って。私、雄太郎の為なら何でもするから」
理沙は俺の方を向いてそう言った。その目には心配と覚悟の含まれた目だった。
『結局ダメだった』工藤に今日の帰りの出来事を報告した。『そうか』『まあ、またもう少し考えてだな』画面上に2つの白い吹き出しが表示された。『けれどもいつかはケジメ付けなきゃ』『あー、情けねー』2つのメッセージを打って送信した。『まだ時間はあるさ。そう焦るなよ』工藤からの返信だ。それを画面上で知らされた。「kudo」と表示されている個チャの下には「理沙」と表示されている個チャがあった。そこには『今日ありがとう。ちゃんと身体を気遣ってね』とメッセージが送られていた。
何を呑気に。
気持ちとの折り合いがつかずに俺はスマホをベッドに放り投げ、そのままベッドへ倒れ込んだ。




