ココアとパンケーキ
スニーカーを購入し、無事にバレンタインのお返しができた。その後、服を見たり映画も見た。そして、映画館の近くにあったカフェでココアとパンケーキを2つずつ頼んだ。その間、俺はLINEを開いて返信をした。
未読のLINEは342件。LINEニュースやその他宣伝をする目的のアカウントのLINEはもちろん、テニス部のグループLINEや家族でさえ未読無視をしていた。申し訳ない気持ちもあったが、ひとことでまとめれば面倒だった。
「ねえ」
「ん?」
「映画見てた時寝てたでしょ?」
「うーん、少しだけね」
「も〜、あそこで伏線張ってたんだよ?だから十六夜ちゃんが……」
理沙は映画の結末について話していた。『現代版かぐや姫』とまで謳われていたその作品は特に面白みもないよくある結末で幕を閉じた。
その話を理沙は推測も立てながら1からしてくれた。
「だからね、最初の場面で十六夜ちゃんがあの発言したのは、」
「お待たせしました。ココアとパンケーキです」
このまま長々と聞くのかと思っていたが、店員が間に入ってココアとパンケーキを持ってきたおかげで理沙の映画の素晴らしさを訴える演説は終了した。俺はシャッター音を切って彼女の首から下とココアとパンケーキが写る角度で写真を収めた。その時、理沙は照れ笑いとチークの添えてある頬を赤らめた。その写真を2日前に『元カノとよりを戻すことって出来ると思う?』と返信の来た工藤に送った。彼は入試休みに部活の後輩と遊んでいるらしい。「別れたし嫌な噂は聞いている。でも気落ちはしないようにしなきゃ」と、2日前に通話をしたら工藤はそう俺に話していた。彼はブレブレで矛盾したことを言っているし、客観的に見れば気を紛らわせているだけに過ぎないが、それが工藤という男のやり方なんだろう。不器用なところも彼の良さであり、悪いところでもあるが、周りの人は彼のその性格を理解してくれて自然と人の輪ができていた。彼には人を惹きつける何かがあるのであろう。そんな彼を羨ましく思っている自分もいた。
彼にさっき撮った写真を送ると『うわ、リア充だ』『幸せでいいな』と返ってきた。「じゃあこの身体と引き換えにリア充なってみるか?」と、送りたい気持ちを抑えて『だろ?』『早くお前もリア充になれよ(煽り)』と返信した。
理沙と第三者から見れば、生徒会とテニス部部長のお似合いカップルなんだろう。俺からすれば……。
そう思いながらスマホをいじり続け、Twitterを適当に徘徊していた。
「ねえ、スマホいじんないでよ」
パンケーキを頬張りながら理沙はそう言った。
俺はスマホを右ポケットにしまい、パンケーキをひと口食べて温かいココアをひとすすりして「トイレに行ってくる」と理沙に言って、乱暴な足取りでトイレへ向かった。
その後のデートは何をどうしたのか覚えていない。多分電車に乗って帰った。彼女と何の会話をしたのか、どんな行動を取ったのか、まるで覚えていない。おそらく冷めきった態度を彼女にしていたことだろう。それには申し訳ないと思っている。
いつものように魔剤を部屋で飲みながらYouTubeで動画を見ていた。時計の針は12で交わり、長い針が短い針を越していた。不意にもこの時間が理沙といた時間よりも楽で好きな時間なのかもしれない。誰も干渉しない「深夜」という時間を自分の中でゆっくりと噛み締めていた。
明日から始まる地獄を遠い目で見ながら俺は歯を磨くために洗面所へと向かった。
「十六夜」やら『現代版かぐや姫』と出てきましたが、これは書常時雨の処女作である「今夜、十六夜の見える丘の上で」のことなんです!
雄太郎は批判してましたし拙い作品ではありますが、読んでいただけると幸いです。
つまり、書常時雨作品は何かしら繋がっているということなんです!




