「それって本当?」
3月の入試休み、理沙とのデートの日となった。この日は学校で高校入試をやっているため部活も休みだった。学校へ行くときと反対側のホームへ乗り、あの街へ向かった。
1つ前の駅から乗っていた理沙はすでに電車の中にいて行儀よく横に2人並べて座れるだけの席に俺の分を空けていた。俺はその横に座り、彼女に「おはよ」と口にした。そっくりそのまま彼女もそう言って俺らの間に沈黙という客が座ってきた。
「ねえ、雄太郎」
「ん?」
「最近2人きりになれてなかったよね?」
「まあ、確かにな。部活で忙しくてな」
「それって本当?いつもその言い訳だけど」
「本当さ。確かに俺らは強くないよ。でも俺は部長だから1番最初に来て準備をして、片付けてから1番最後に帰るんだ。だから生徒会と帰りの時間帯が合わないだけだよ」
「……そうなんだ。でも部長1人にたくさんの仕事を押し付けられるのはおかしくない?」
「そうか?これが普通じゃないのか?」
「そう……なんだ」
理沙は不服そうな顔をした。何か言いたげな顔をしていたが構っているのが面倒で無視をした。
今日はみぞれだ。この地域では3月も雪が降ったり気温が氷点下を下回ったりなどなかなか春とは言い難い天気が4月のはじめまで続いていた。本日の最高気温は8度、降水確率は80%。と、ニュースキャスターは昨日のお天気コーナーで言っていた。とても暖かい日だ。そんな錯覚に陥るほどこの地域の住民は温度感覚の狂いが生じていた。
しばらくすると隣に座っていた理沙の体重が俺の左肩に乗ってきた。彼女は目をつぶっていた。それを「愛おしい」とか「幸せ」と表現するのだろう。手の痺れが理沙の体重によって激しくなった。同時に右側の頭が何かにぶたれたような痛みが走った。
俺はこれを「愛おしい」とも「幸せ」とも思わなかった。むしろ「消えてくれ」とまで思ってしまった。
あの街へ電車が着いて南口じゃない方へ向かった。そしてバスセンターの上にある靴屋で彼女にバレンタインのお返しを買うことにした。
彼女からはチョコレートとハンカチを貰った。それを母親に見せると「ハンカチって別れるときに渡すものなんだよ。それも分からず渡すなんて彼女ちゃん天然だね」と、笑いながら話していた。その話を聞いて彼女が自分から離れていってるんじゃないかと心配になった。そのことを思うと胸がキュッと引き締められて何かが刺さった感覚がした。
「ねえ、どこへ行くの?」
彼女が話しかけてきて現実に引き戻された。
「ああ、ええと、靴屋に行きたい」
「分かった!」
普段は大人しい彼女も今日は少しだけテンションが高かった。これが俺にとっては「愛おしい」という感情なのか?
「今日はさ、理沙にバレンタインのお返しにと思って靴を買おうかなって」
「え!?ほんとに?嬉しい!」
彼女の嬉しそうな顔。その顔をいつまでも隣で見て、守ってあげたかった。
「そりゃそうさ。ちゃんとお返しはしますよ」
俺らは靴屋へ入り、左へ曲ってすぐの所にたくさんのスニーカーの片足だけ飾られていた。その中の普段は気にも留めないレディースのスニーカーが置いてある場所まで歩いた。
「足は何センチだっけ?」
「23.5」
「ちっさいな」
「これでも平均なんだよ!てか、雄太郎がでかいんじゃない?足何センチ?」
「27.0くらいかな」
「でっか」
「これでも平均より少し大きいくらいだから」
「うっそ、みんな足だけ巨人じゃん」
巨人の基準が分からなかったが、彼女はとても楽しそうに俺の隣で笑っていた。よく見たら化粧もいつもより濃くしており、今日への気合いの入り方が体調の悪い俺と違っている。デートの醍醐味は彼女と一緒に居られることと普段と違って綺麗な彼女を見ることができるからではないだろうか。
俺の頭ひとつ分背の小さい彼女が見上げながら今度履くことになるスニーカーを物色していた。




