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REPORT 7


「ふええっ!?!?」

 猫屋敷さんは悲鳴を上げる。

 当然だろう。僕の右手が猫屋敷さんの胸部を鷲掴んでいるんだから。

 しかしこれでは足りない。

 一段と強く揉んでみる。

「い、いや、ちょっとっ!?!?」

「何をしている!!」

 猫屋敷さんの悲鳴に重なり、襲撃者の男が一人やってきた。車両は計6つの個室に区切られていて、廊下に面する壁はガラス張りで、ここを通りすがった人がいればきっと黒髪の男が女性の胸を揉んでいるのが丸分かりになるだろう。

 もちろん猫屋敷さんのそんな姿を見せてやるつもりもないので、男が視界に入る寸前で手を離す。部屋のドアが乱暴に開けられた瞬間、それはほんのわずかな隙間だったがその隙間に手を入れ、銃身を押さえる。そのまま手をこちらがわに引き、相手が足に力を入れて踏ん張ろうとしたところで思い切り足蹴りを食らわせる。

 場所が場所だけに男は一撃で沈んだらしい。

 とにかく、一安心だろう。

 男が大した音をあげなかったので増援がいたとしても気付かないだろうし。猫屋敷さんは複雑な顔をして座ったまま僕を見上げている。

「とりあえず急所は潰しておきました」

 報告は大事だ。



_どこかの駅


 とりあえず僕らは最寄りの駅で降りた。

 あのまま車両にいても尋問はしづらかったし、事件の解決を教えた後乗客たちがどう動くかわからなかったからだ。諸々の不都合を考えてのことである。

「さて、と」

 やはり僕たち以外に人の姿のない駅のホームの待合室で、僕が常備していた助手道具の1つ『ロープ』で拘束された男に話しかける。ちなみにこの男、悶絶したと思ったら気絶していた。

 尋問官は猫屋敷さんだ。

 場合によっては僕からの痛みを伴った多少の促しが入ることになる。

「率直に聞こう、目的はなんだった?」

 猫屋敷さんが帝国の言葉で話しかける。

 男は黙秘したままだ。

 再三の問いに応じなかったので、トラウマを抉るようにまた股間に向けて足を伸ばしてやると、ようやく話してくれた。

 目的は、僕たちと同じく「レポート」だったらしい。

 そして僕たちを襲撃したので間違いはないらしいが……

「尋問終わっちゃったねえ。

 どうしようか」

「解放か始末かその辺は後にして、どうして帝国がレポートのことを知っているんでしょうか」

「簡単なことだよ。君の言った通り、隠密部隊ってやつは諜報の役割も持っている。君の故郷に限らず、どこの国も他国にスパイを持ってるってもんさ」

「なるほど……」

 そのスパイが、猫屋敷さんたちに回された依頼を知ってこっちを潰しにきたんだろう。多分そうだ。

「確か帝国としては、今回の協定には反対しているようですし、そのレポートをネタにして何かするつもりだったんでしょうか?」

 僕がそんなことを言った時だった。

 拘束していた男が喋り出した。

「おい! 貴様、帝国の人間だろう!! 何をしているのだ!! 我が帝国の臣民として、敵国の言葉を口にし、祖国の人間を拘束などして恥ずかしくはないのか! 帝国の誇りを持たぬ人間など理性のない猿同然ではないか!

 恥を知れ! 帝国臣民にこうべを垂れよ!

 今更許しを乞うても遅いぞ! 

 恥を知れ!!」

 

 僕は何も答えなかった。

 交わす言葉を持ってはいけない。

 男の言っている言葉、そしてその底にある思想は僕が嫌悪する帝国主義だった。

 僕は帝国の人間じゃない。

 恩人と同じ言葉を話し、恩人を害する人間を捕縛して何を恥じればいいのか。

 

 それ以上何も言わせないために後ろに回り込み、後頭部を男の銃床で打つ。

 ぐたっと倒れ込んでやがて沈黙した。

「そのうち目を覚ますでしょう。

 殺したくはないので、どこかに捨ててきましょう。

 多分そのうち誰かに拾ってもらえるでしょうし」

「多分ね。そういえば、君の国の言葉にこんなのがあったね。『拾う価値あるものは捨てられない』。意味はよく知らないけれどさ」

 確かにそういうことわざがある。

 拾う価値のあるものなどそうそうないということだ。

 なぜなら、価値あるものなら捨てられないから。

 なんにしても、この男に価値が認められればきっと生き伸びられるし、そうでないならそのまま幕引きってだけだ。

 男は駅のホームの目に付きにくい場所に放置してきた。

 


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