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REPORT 5



それは突然だった。

 僕たちの乗っていた車両に銃声が響く。

「おめえら、全員大人しくしろ!

 動いたらブチ抜くぞ!」

 そう怒鳴った男は小さな個室で区切られている車両の中を動き回る。

 男は一人、傍に猟銃のように大きな武器を持っている。おそらく他の車両にも似たような奴らがいるんじゃないだろうか。

 目的はわからない。

 そりゃそうだ。

 航空機やら船舶やらならよくある、いや、よくあってはいけない話だ。

 そもそも、鉄道ジャックによるメリットなんて思いつかない。

「どうしますか?」

と小さく猫屋敷さんに声をかける。

「鉄道ジャックっていうのはさ、メリットがないんだ。

 航空機や船と違い、レールがある。

 脱線して逃亡もできないし、線路の両脇から挟まれてしまえば一網打尽だから割にも合わないリスクリターンなんだ、本来はね。

 それでもやろうっていうんだから、何か良い逃亡手段を持っているか、捕まっても問題がないか」

「……あるいはジャック自体に意味があるか、ですかね」

「考え始めるとキリがないけどね」

「まあ、彼らのことはどうでもいいですよ。

 大人しくしてればブチ抜かないらしいですし。ただ、僕らの目的の妨げになっているようなら、このまま大人しくしているわけにも行きませんが」

 僕は実はまだ目的地を知らない。

 猫屋敷さんは適当にはぐらかしてくる。

「私たちの目的の妨げにはなっていないよ。むしろこれでよくわかった。あの銃を見た?

 君ならよく知ってるはずだよ」

 そう言われて、少し前に僕たちの部屋の前を通り過ぎていった男を思い出そうとするが、しかしそんな思考も無駄に終わる。

「どんな銃でしたっけ?」

「君、元兵士の割には案外抜けてるよね……」

「すみません、なんか気が抜けてるのか、少しボーっとしてたみたいで」

 元兵士といっても、急ごしらえのそれだ。最低限の知識だけを詰め込まれてすぐに戦地に追いやられたのであって、実家は茶道の家元である僕には向いていないスキルで、職種なのだ。

「あ、ほら。また来たみたいだよ。

 ひっきりなしに、往復してるのは一両につき一人で見回ってるからだね。目が届かないってことはないのかな。なんか杜撰だね」

 猫屋敷さんはそういったが、しかし男の持つ銃を見た時に僕にはその理由がわかった。銃だけじゃない。その容姿で気付いても良かったはずなのに。猫屋敷さんがそれを言わなかったのはどうしてだろうか。気付かなかったなんてことはないだろうけど……。


「猫屋敷さん、あれは杜撰というわけではないんですよ。

 一人でいいんです」

 そう、制圧には大人数を必要とするものだが、しかしこの場合目的が違う。

「彼らの目的は猫屋敷さんですよ、あとお付きの僕も。

 狙われているのはこの鉄道ではなく人間二人なんです」

 男が持っているのは東亜列島、そのうちの大共栄帝国産の猟銃モデル。つまるところ軍用の武器だ。僕が使っていたそれである。

 猫屋敷さんが言っていたのはこういうことだったらしい。

 鉄道ジャックをはたらく彼らの出身は僕の故郷だった。


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