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REPORT 3

 


 駅のホームはとても静かだった。

 真昼間だというのに人の姿がない。

 

「それはそうだよ。

 ここは何もない平原が続く土地なんだ。

 あるのは寂れた街だらけ。

 だけれどその街の一つから国家技術を任されるような科学者が出てきたんだから侮ったりはできないね」

「科学者さんってここの出身だったんですね」

「家はここいらではごく普通の農家で一人っ子。

 結婚してからはここに家を持っていたけれど、大戦期に中央に連れて行かれてそれっきり帰ってきていないみたいだよ」

「そんなことまでもう調べたんですか?」

 調査事務所所長だけはあってなかなか手が早く、そしてその正確さは確かなものだ。

「これぐらいは前調べだよ。

 さあ問題はこれからどうやって移動するかだけど」

「そうですね」

 僕らの前に広がるのはだだっ広い草原だった。


「車が走ったりはするみたいですね。探してみたら道路のようなものがありました」

「そっか、じゃあしばらく待ってみたら誰か来るかもね」

とそんなことを話す僕たちに、

「あの、よければ私の迎えの車が来ますので一緒に行きますか?」

という声がかけられた。

 まさかこの駅に降りる人がいるとは。

 親切にも声をかけてくれたのは、いかにもジェントルマンという格好をした60代くらいの男性だった。

「私も先ほど、あなたがたといっしょにこの駅に降りたんですよ。

 ここには私の親戚の家がありまして。

 身内の迎えでもなければここを通る人もありませんし、おせっかいかもしれませんがよければどうでしょう?」

「本当ですか? それは助かります。

 ご厚意に感謝します」

と僕はそんな感じで答えた。

 表現は確かこれであってたと思うけど。

 続いて猫屋敷さんも僕と同じことを言ったので、間違ってはいなかったようだ。

 少し失礼、家に電話をしてきますと男性がホームに備えられた公衆電話に向かったので、僕は猫屋敷さんと話していた。

「良かったね。彼の目的地が私たちと一緒とはラッキーだ」

「そうなんですけどね、ただ僕の癖というかなんというかで、ああいう人は信用できないんですよ。僕を軍隊に引き込んだのがああいう、物腰丁寧な老人でしたから」

 実際はガチガチの軍人で、帝国至上主義の危険人物だった。あの老人によって僕は兵士にならざるを得なくなったのだ。

「知ってるよ、私だって警戒はしてる。

 ラッキーなんてあるもんか。ただ、私は警戒しすぎて仕事の効率が下がりやすいもんでね。その辺りは君に任せるよ」


 私が助手として欲しかったのは人を平気で疑える人間だ、とこれを聞いたのは、僕が初めて彼女に会った時だと思う。なにせ重傷で意識が朦朧としていたものだからあの辺りの記憶は今もまだ曖昧で、時折夢に出てきてその詳細を思い出したりすることがある。

 

「もう家を出たようですので、迎えはすぐに到着すると思いますよ」

 電話を終えた男性はそう言った。

 その言葉通りまもなくしてついた車にお邪魔して、何とかその日の夜には中央の街という例の科学者が生まれ育った町で宿を取れたのだった。



_中央の街


 宿をとった僕らは普段の通りに部屋はダブルだった。

 言っておくと、最初の頃からあまり緊張はしなかった。

 相手が猫屋敷さんで、彼女は僕の命の恩人であり、つまるところ恋愛対象ではないからだ。むしろ異性として接してしまうのは礼儀として必要ではあっても、それ以上の気持ちを抱くことは僕にはできなくて。

 それは失礼にあたるような気がしたからだ。

 

「用意してもらって心苦しい限りですが、ベッドは使えませんので、僕は床で眠らせてもらいます」

「うん、おやすみ」


 ここまではいつも通りだった。

 用意された夜食を食べ、歯を磨いて寝間着に着替えた。

 仕事の段取りの打ち合わせをして、眠る前に軽く運動をした。

 僕が宿のベッドを使わなかったのも、猫屋敷さんの寝間着が猫柄なのも。

 空は今日も青かったし、夜になれば暗くなった。

 ここまでは確かに普通だった。

 普通の依頼だった。



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