REPORT 2
「列車もなんか飽きてきましたね」
僕は隣の猫屋敷さんに話しかける。
依頼の話を聞いて出発をした日から今日で一週間で、その内6日を列車の中で過ごしているのだ。
「仕方ないよ。
東部はただでさえ大陸面積が広い上に、鉄道ができたのさえ最近なんだから」
「まあそれはわかるんですけどね。
流石に暇じゃないですか? 僕なんてずっと子供用の本ばっかり読んでますし、しかももう二周目ですよ。
猫屋敷さんって暇つぶしとかしてるようには見えないんですが」
「私だって暇つぶしはしてる。
この部屋の外を歩いていく人の数を数えたり、窓の外の木の数を数えたり……」
なんか面白くなさそうだ。
というか絶対に面白くない。
「あとは、そうね、少年が私をチラチラ見てくる回数を数えてみたり」
「知ってたんですか!? って、あ……」
「流石に見過ぎじゃないかな?
この一週間で77回だよ。
流石の私も異性にそんなに見られたのは初めての経験だった」
「気付いてたならいってくださいよ、恥ずかしい……」
77回は流石に多いなとは僕も思う。
「まあでも、あれですね、猫屋敷さんが綺麗だったんで、どうしても目が惹かれるんですよ」
「それをもっと自然な言葉で表現できたらいいんだけどね」
「うぐ……」
格好をつけては見ても言語力が邪魔をする。
こういう時はもどかしいし、大陸中で言語が統一されていればとよく思う。
「それで、猫屋敷さん。今はどこに向かっているんですか?
もうかなりサンロマンからは離れましたけど。そろそろ東部大陸の真ん中あたりですよ」
「ああ、今向かっているのは例の所長のところ。
まだ住んでいるかどうかはわからないけどね、手がかりとしてはまず当たるべきところだよ」
「ちなみになんていう国なんですか?」
「国名は東部東部連合中央地方」
「え?」
「東部東部連合だよ。
東部大陸のさらに東部にある国の連合。
その中央部にあたるから中央地方」
「なんか変な名前ですね」
「それを言ったら、大陸名が東部とか南部とかの方がよっぽど変だよ。
ひとえにこれはある事情のためさ。わかりやすいようにっていう配慮」
「ふうん……。
僕たちは突っ込んじゃいけないんですね」
「そう、それがお約束なんだ。
……、さて少年君、そろそろ着く頃だよ。
準備をして早く降りようか」
ようやくこの退屈さから解放されるのか、と思うとともに少しだけ残念にも思う。
本当のところ、僕はちっとも退屈ではなかった。
あの地獄、生き地獄から僕を救ってくれた猫屋敷さんとの旅なのだ。
彼女と一緒に居られるのなら僕にはもう何も必要はないだろうと、それはあれから一年経っても変わっていない。
きっとこれからも変わらない。
この気持ちはありふれた恋でもなければ、俗にいう感謝でもなく、残念なことに僕はそれにつける適切な、彼女の国の言葉を知らないのだった。
横に座っていられる理由がなくなってしまう、と考えるとちょっとした手持ち無沙汰などどうでもいい。
そんなこんなをぐだぐだと思い連ねながら。
僕は猫屋敷さんの荷支度を手伝う。