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ロック  作者: 新岡唯
3/3

衝動

「おい!ぼさっとしてんじゃねぇ!このゴミクズが!」


いつにも増して、キツい親方の怒鳴り声。それもそのはず、ただでさえ俺たち労働者を見下している親方なのに、今日の俺は1日中、上の空だった。あのギター男の言葉が頭から離れない。俺はこんな所で何をしているだろう?という疑問が拭えない。何のために働くのだろうと。

仕事が一段落し、休憩の時、同僚に聞いてみた。


「お前は一体何のために働いてる?」


すると笑いながら


「そんなの、明日を生きるためだよ。決まってんだろ?」


「いや、そうじゃなくて、それ以外にしたい事とかって事さ。」


「うーん、そんなもんねぇよ。俺たち労働者は明日明後日生きるためにただ働くだけだ。そこに何かの意味なんてない。ただ生きるためだけだ。」


今まで俺なら違いねぇと頷き、せっせと仕事に戻るだろう。

でも今は違う。あの男みたいな煌びやかでなくても、楽しそうに生きたい。そうするためにはどうすればいいか誰も答えてくれない。と言うよりも、誰も知らないと言った方が正解なのだろう。皆、自分が何をすればいいのかわからない。だから、とりあえず生きている。

でも、それではきっとダメになるって気がして、やっぱり仕事が手につかず、上の空で親方に叱られるのだった。


それからしばらくして、またあのバーへと足を運び、いつもの席で、いつもの酒を頼む。一ついつもと違うのは、あのギター男がいないということだった。


「マスター、今日はあのギター男いないのかい?」


「そうなんだ。しばらくは戻ってこられないと言っていたよ。あの人はあちこちにファンがいるんだ。だから、ツアーみたいなものなんだろうね。」


まるでテレビやラジオで華々しく、活躍するロックスターの話を聞いたような気がした。あの男は何となく凄いのでは無く、確かに凄いという事を実感させられた。

そして、目的がなくなったので、勘定をしているとき、マスターに一つ提案をされた。


「君、あの人に憧れてるだろう?」


「うーん、あの男みたいな生き方がしたい。でもどうすればいいかわからないんだ。」


「簡単なことだよ。君のしたいようにすればいいんだ。」


「それがわかれば苦労しないよ。」


「本当にそうかい?僕でも君のしたがっている事は分かるよ?」


俺のしたい事。あの男みたいな生き方。帰り道で悶々とした時、ショーウィンドウにギターが飾られている店を見つけた。

その時、何か電流が流れたような衝動で、勝手に店に入り、気がつけばギターを買っていた。自分でも訳が分からなかったが、本能がそうさせたような感覚だった。そして、不思議と高揚感が増していき、気がつけば、家路に向かって走り、一緒に買ったギターの本を読みながら、練習を始めた。


これが俺の人生を変える瞬間だった。


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