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晴霙  作者: 三ツ目くりっく
一章 歪に集う、最初の要
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4 雪だ霙だは嵐で吹き飛ばしてしまえば良いじゃないか。

 一章前半、おーわり。



 「…皆様は、欲しい物が出来たとき、頑としてでも手に入れようと為ますでしょうか。少なくとも妥協点を見つけて、それで良しとするのが人なのだと思います。そうでもしなければ、毎日戦争紛争で、どうしようもないでしょうから。そんなの世界がいくらあっても足りない。ですので、生き物には我慢というものが備わっているのだと思います」


 にっこりわらった男の顔は、美少年然とした表情をよく引き立て、よく映える笑顔をしていた。ただどことなく凄味のある、圧迫感ある表情をしていた。

 臆病に過ぎたと男は言う。何とも凝り固まったものだと嘆息を垂れながら、これはいけないと。指をとん、とんと突いて、肘をつく。


 「道理ですから。行き詰まったが運の尽き。満足いきませんよ」


 手に置かれた小首と、いくつか舞った紙吹雪。

 男は言うのだとか。



 「さて、(ワル)に戻りましょうか」


 



◆◆◆◆◆



 黄は凄く、いたたまれない気持ちになっていた。

 呆れ返った半目の色も、脱力しきった組まれた腕の態も、総じていたたまれない。

 ハァと何度目かの溜息。吐かれる度に、親に叱られたような惨めさを味わう。凄く、マズい。マズ過ぎる。

 言い訳はそれでかと、冷えきった眼で見られる度に、言うべき事はと焦りがこみ上げてくる。


 空は見事な快晴で、渇いた笑みが零される。何だってこんな時ばかり照りつけるんだと、久々に恨めしく思えてしまった。

 取り返し何ざつく筈もなく、後悔一つ無いながら後ろめたさはあって、なくて。開き直った気で人生何ぞを預かれるほど、大した男であるのだろうか。

 責任が、在るんじゃなかろうか。

 「ここまでするぅ?ほんっと物好きだよねぇアンタ、職無しの意味わかってる?」

 「……職を持つまでレベルが上がっていない、専門職を持たない者の通称」

 「かつ、蔑称。上がる前に別の仕事振られてた僕はその職無しだっつったよね?不適切なのだから向かない理由(わけ)に答えてやったのにこの体たらくだよ、全くもう」


 あと、言っとくけどもと男は言う。


 「僕はデリケートなの、戦闘能力無いの!生まれてこの方街を出たことも無ければ動物を殺した事もない、対人なんてボロックソ、塵程にも役に立たないってのになぁに考えてるの?僕はね!人に負ぶさってプライドが保てるほどイイ子でも甘ったれでもメンタル鋼鉄でもないの。て言うかメンタルはガッタガタなの、わかる!?」


 「気候に左右される体調で外がどうだとかも知らない無知で、いらん事して人でも死んでみなよ自決するよ!?アンタのあの宿屋潰した上で全員引継ぎさせて至れり尽くせりな手腕は、無駄なくらい迅速だろうけどさァ!?ここまで!?する!?」


 ギッ!と睨む眼光は決して穏やかじゃないもんだった。男──垂が言うように、黄がやったことといえば言葉通りのぶっとんだもので、アフターケアも万全に仕事と家を追われた垂は、どうしてくれると激怒したのだ。垂には実際どんな面倒やどんな難易度だったか、何て解らない、解らないがさっぱりだと思うなりに、察する事はあるのだから。林檎一個買うようにはいかない代物だと。


 ほんっと何してくれちゃってんの!?何やってんの!?


 正直正しい垂の追求に、潮らしく黄は答え出す。

 「……労働法なんて曖昧で在って無いようなもんだとしてもさ、シズリはあれ、働き過ぎだったよ奴隷とどう違ってた?窮屈も退屈も敵だよ。職無し?戦闘能力?体質?いいよそんなの僕は必要なもの、それ持ってる人をスカウトしてるの!君がそれだよそう言ってるんだよ!」

 「ハァ?」

 「僕らにご飯作って怪我したら治してくれる人になって下さい!」

 「ハイー!?」

 「僕メシマ~ズ!僕血ダーメ!アンダスタァ~ン!?」

 「ふっっっざけんなよこのバカ野郎!!」


 そんな理由でしっちゃかめっちゃかにされて堪るか!ふ~んだ!何時まで経っても文句マンなシズリが悪いんだもんね~!ざまあみろ!上等だこの女顔アヒル口。それは言っちゃいけないね~半分寝太郎。誰が半目だ保存されたいのああ”ん?そぉ~んな事言って無いのに自覚あるんだぁははは~カリッカリに炙ってやんよ。上等だ女顔。黙らせるぞ半目が。




 大嵐で全部吹っ飛ばしてしまった。人生と呼べるほど大層なもんじゃない昔話をもって、初の酷い大嵐だった。嵐にしとけって?あんなバカには大嵐で十分ってもんなのだ。そうに決まっている。大嵐に見舞われなければ面白みはなくとも、外面的には平穏らしきものでもって満足出来ていたのだから。欲なんて知らない方が幸せってもんで、穏やかさを装おって年を重ねられたのだ。


 雪よ降れと、いつも思っていた。


 吹雪の中、死にかけた井戸でだか外でだかで、言われたのだ。


 〈雪〉に、言われたのだ。


 君ほど雪を想ってくれたのは他に無いのだと。だから半分を還してあげるから、半分を自分にくれてはくれまいかと。想ってくれたに不相応で、重いらしい自分の加護を、どうか貰ってはくれまいかと。

 しんしんと、ひらひらと。雪の粒が思い出されたように、生き生きと瞼の裏に浮かんだ。雪を、寒さを、垂は視たのだ。

 半分呪われたようなものだ。呪ってばかりいたから呪いを呼んだのだ。相応な人間を辞めたのだから、相応な何かを遂げられる訳がないのだ。

 垂は物事を、幾分か悲観的に見ている。有り体に言えばネガティブ。そう、後ろ向き。

 だから役に立たない筈だ。自明の理でるはずだった。そう思ったのだ。

 飯一つマトモに作れないなんざ、思いがけもしなかったのだ。

 バカだ。バカで、残念で、暴風のような奴。

 ああ、だから、


 呪って霙程度なのに、暴風の大嵐にどうしろって話なのだと、垂は思っている。

 



◆◆◆◆◆




 「多比(タビ)=ミズガネ。見て分かる通り侍で、二刀流。肉の角煮が好き」

 「僕は(コウ)=パイクラッパー!中距離の剣士で、魔法も指揮も任せといて~!好きな食べ物は紅茶のスコーン!」

 「(シズリ)=コガラシ、一応狩人。でもカスだから。…マシュマロ食べたい、だから何」

 「…あー、ちょっとここに納品外の鹿肉がだな……」

 「忠実食欲」

 「今度チーズケーキも一緒にどうです?ねぇどうです?」

 「甘党ボンボン」

 作らないとは、言ってない。


 黄と垂は港を通らず、砂漠を突っ切るルートを行った。敢えて厳しい環境を行ったのは、だからこそという意味合いがある。

 近辺にある砂漠ほど過酷な場所はなく、気温変化もさることながら飢餓(ハングリー)な魔物がうようよ闊歩しているし、何より“砂”、アレがより相乗作用あるように思われた。体中に張り付く砂煙は非常食すら浸食し、不快な食感を催す。水は直ぐ貴重なものになる。汗をかく内はまだ良い方で、寒気がすればそれはもう危ない。

 現に垂は三回寒気にやられ、吐き気に苦しんだ。黄は耳鳴りに頭痛と悩まされ、持ち前の地力と精神面で乗り切り、かなり疲労を溜め込んだ。

 もう、酷いもんである。

 弓を持ち距離感を調整し、狩れる狩れないを肌で憶え、それなりに身に落とし込んでやっとレベルを手に入れた。

 血を吐きそうな顔色で文句も悪態も言いながら、やりきった垂らは隣国の首都、サブギルドがまとめ上げている街で宿をとった。正直体を流した後二人揃ってベッドに倒れ込んだような記憶しか持っていない。

 先に起きたのは黄で、のそのそと、手先はパッパッと荷物をまとめ始めた。寿命を迎えたサバイバルナイフは今度新調するとして、剣の手入れは……、もっかい寝た後でと二度寝を決め込んだ。

 暫くして垂も一度起きだし、半目どころか八割閉じた眼で物を整理していった。迷うことなく切り捨てていくので物が少ない。そして垂も、また二度寝へと旅立っていった。

 二日程寝て過ごし、全身凝り固まった身で宿を出た二人は、サブギルド『オフガル』の門を叩いた。

 肉食系統の獣人の街は、力さえあれば種族問わずという信条の元、実態は獣人至上主義を孕ませた国家体制の国。認められたくば勝ってみろ、単純明快にそう跳ばしてくる、実質難題極まりないふっかけをしてくる。より顕著だったのがサブギルド『オフガル』の連中だった、らしい。それも過去のこと。

 

 彼のお仲間ですか!?それはどうも~いや彼ね、ウチのエースぶった斬ってくれてね~………素晴らしい!ええ!!

 ……え、会いたくない。

 シズリシズリ、失礼。

 

 こんなもんだったのだから、世の中わからない。

 

 「……」

 「……」

 「おひさ~!多比~!」


 不躾に見やってくる──眼は隠れている──多比に冷たいでは済まされない冷視線をぶつける垂。そんな微妙な空気間を知らぬとばかりに再会を喜ぶ黄。ちぐはぐだった。

 そして一応、情報のすり合わせ開始として、冒頭に戻る。

 「斬れればまあ、何でも」

 「仕事追われたんで、ホント巫山戯んじゃねーよって」

 「…の割に元気?」

 「気にしてもしょうがないものは見ない事にしたの分かりますか?」

 「アッハイ」

 黄はニッコニッコと、笑っていた。

 

 心許ない実力を補うには、工夫が要るだろうと話し合った。特攻厨決定打不足初心者パーティー。マズい、マズ過ぎる。何がマズいって色々マズい。枷が多過ぎる。

 頭の使い時だろうと方針を決めた。持っておきたいものと最低限を明るみにした。あれもこれもは体が足りない。マイナスを抱える時点で論外なのだが、誰もがゼロから始まる訳じゃない。だから。

 正攻法を選ぼうと決めた。裏道は使おうが、反感は買わない。

 彼らは考え、話し合ったのだ。

 組むということ、指示を出すこと、支援すること。

 呼吸を合わせ、場を繋ぎ、穴を無くすはまず如何するか。


 本気で。


 「……よし、まずは………まっ、おっちゃんのトコだね!」

 「あ?」

 「おっちゃん……?」


 次の目的地は、黄の知人の居る処へ。










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