観覧車の声
廃園になった遊園地「裏野ドリームランド」のウワサの事知ってる?
知らないなら教えてあげるよ。
それはね、色々あるんだ。
だけどその中でちょっと不気味な物語を聞いてくれるかな。
裏野ドリームランドはね、元々は大きな遊園地でね、目玉は観覧車だったんだ。
その大きな観覧車は園内を一望できるほど高く大きなものだった。
眺めもいいんだよ。
青空も綺麗に見えた。
それがちょうど一年前の事。
観覧車内で事故があったんだ。
元々換気が悪かったんだ。
それに真夏ということもあって熱中症になった子がいてね、暑い暑いと言っていたらしい。隣のカゴに乗っていた子がそう聞こえたそう。
そのカゴに乗ってたのはその子と母親のみ。
一周回っている間に体調が急変して亡くなってしまったんだ。
2人とも。
他にも数人軽い脱水症状に見舞われたようで、新聞やニュースに載ったよ。
それで一旦は観覧車を中止したんだけど、改装してまた使う事になったんだ。
でもね、死んだカゴに乗るのを気味悪がって乗る人が減ってしまった。実際はカゴを取り外して変えてはいたんだけどね。当然遊園地の目玉なので来る人が減ってしまう。
で、いつの間にか閉園に。
それ以降は色々な噂がたち、怖い場所というイメージがついてしまっていた。でもね、実際に体験した人の話を聞くと…出るらしい。
なんでも声が聞こえてくるって。
「出して…。」
小さな声なので聞こえにくい。
子供の声なのかもわからないそうだ。
もしかしたら亡くなった人の声なのかも…。
いつからかそんな風に言われるようになった。
そんな話を聞かされたんじゃ、僕らが行くしかないよね。
僕らって?
夏休みの宿題にちょうどいいや。
『閉園で起きる恐怖。』
タイトル的にはバッチリだ。
仲間も必要だよね。
嘘書いちゃダメだし。
で、友達5人を引き連れた6人でここ裏野ドリームランドにやって来た。
交通の便がいいのがありがたい。
子供の僕らじゃ行けるところは限られてるからな。
みんな怖いもの知らずというか、信じてない奴らばかりだからこんなにも集まったんだよね。
証拠のビデオカメラも忘れていない。
テープレコーダーも持ってきてる。
忘れ物はないな。
じゃあ、行こうか。
昼間の時間にここへきたのには訳がある。みんなまだ中学生。外泊許可なんかでないし、塾行ってるやつや部活を休んでいる奴もいるからだ。ササッと証拠を撮って帰るつもりでいた。
そんな僕らがこれから起こる恐怖を体験するなんてまったく持って考えてなかったなんて笑えるよね。
「さっ、問題の観覧車に行きますか。」
仲間の1人がそういうと、ゾロゾロと他の奴らもついて行く。蟻の行列かと突っ込みたくなる。
昼間だから怖さも半減しているようだ。そりゃそうだ。昼間だもの。明るいからね。
でも都合がついたのはこの時間だけ。
タイムリミットもある。
急いで観覧車の場所に向かった。
遠くからでも大きく見えたのに近づくにつれてその大きさに圧倒される。
僕らが小さいからでしょうか?
地面についてる観覧車の台がある。ドアも開いたままだ。誰かが来て乗ったのだろうか?
まぁ、そんなことは良しとして僕らは手にしたビデオカメラを回し始めた。
「さぁ、問題の観覧車の前にやって来ました。何が出るやら楽しみです。」「楽しみって…本当に出たらどうするんだよ。」「何?お前信じてるの?そんなの気のせい気のせい。ありっこないって。そもそもまだ昼間だよ?出る訳がない。」そう言っている奴の両腕は鳥肌が立っていた。単なる強がりか。
台の中に入っては見たが、生暖かい風が吹いているだけだ。
「なんかさ〜、気持ち悪くね?」「そう?僕は別に…」「いや、僕はなんかさ…鳥肌立っちゃって。」「お前はさっきから出てたよ。」「そっかぁ?」「そうそう。出てた。」「じゃあ、僕は霊感あるのかも。」
「なんでだって?ほら、そこにいるじゃん。はっきりとは見えないけど、男の子?」
そう言った瞬間にビュッと風が吹いて喋っていた男の子の服が一部破れた。
突然の事で反応が遅れた友達は腕に薄っすらと血の線を描いた。
「えっ?」
痛みは感じなかった。
それほど綺麗な切り口だったのだ。
出血も思ったほどはない。
絆創膏でもあれば済む程度だ。
「なぁ〜、なんかさ〜、気持ち悪くね?」「何処が?」「あのさ〜、体が重いんだけど…。気のせいか?」「気のせい気のせい。それよかさっさと撮ろうぜ。」「でもよ〜、見ないじゃん。本当にいるのか?」「そういう噂だからな。いないかもしれない。」「はぁ?お前が出るっていうからついてきたんだぞ!嘘か?」「そんなのしるか。噂は上級生から聞いた話だぞ。それが嘘ってことか?」「いや、そうとは言ってないけど…。」
その時ガタッと音がした。
観覧車の音か?
まさか…今はもう動かないはず。だから音なんか聞こえないはず。
そうは言っても確かに聞こえた。
再度観覧車の方にビデオカメラをを向けた。
「出して…。」
確かに何か聞こえた。
でもそれがなんなのかははっきりとは聞き取れなかった。
そこでビデオカメラを一旦止め、巻き戻して再生をかけた。
すると聞こえた。
確かに小さな声が。
「ま、マジだ〜〜!」「だから言ったじゃん。いるって。」「で、でもよ〜、まだ昼間だぞ!おかしくね?」「霊が出るのなんて夜だけじゃないよ。昼間だって出るんだよ。」「なぁ、さっきの消してないよな。じゃあ、さっさとこんなところから出ようぜ。」
その時バタンとドアが閉まる音がした。そして観覧車のギーッという錆びついた音とともに動き出した気がした。
みんなパニックになっていた。
慌ててカメラやらなんやらをカバンにしまってその場を後にした。仲間みんなとともに。
そして遊園地から逃げ出すと近くのコンビニに飛び込んだ。
何故?コンビニに?
わからない。ただもう怖くて人がいるところに居たかったのが正直な所。
でもね、ビデオカメラを録画し直すとそこにも音が入り込んでいた。
「出して!」バタン。
「勘弁しろよ。」
でもね、このコンビニ、人が誰もいなかったんだ。
店員は何処?
「出して…。」
「ヒッ!?」
振り向くとそこにはうっすらと透ける男の子が。片手を上げてこちらに近づこうとしている。
「わかった。わかったからたすけて。」
僕らは元来た道を戻り遊園地の観覧車前まで来た。
そしてしまっていたドアを開け、両手を合わせた。
するとどうだろう…。
さっきまで肩が重いと言っていた子の肩が軽くなったように感じると言い、見えると言っていた子が見えなくなったと言う。
成仏できたのだろうか?
僕らは持っていたペットボトルをその場に置いて立ち去ることにした。これでもう怖い思いをする人はいなくなるはず。
僕らは足取りも軽く帰って行った。
置いて来たはずのペットボトルが風もないのに突然倒れた。ゆっくりとキャップが動き蓋が緩む。そして残った液体がこぼれだす。
ある程度でたら止まった。
風がビュービュー吹いている。
その後のことは聞かないようにしていたのでわからないが、噂では出なくなったらしい。
きっとうまく成仏できたのだろう。
怖い話はこれでおしまい。
どうだった?
怖かった?