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新世界の破壊針  作者: 魔桜
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00:01.地獄の死者

 この世界は生き地獄だ。

 蛇のように劫火が這っていて、倒壊する建物の悲鳴が耳にこびりつく。炎上する地面をあてもなく歩く少年には、もう足の感覚などない。最初は熱かったけれど、今はもう熱くなどない。

 むしろ冷え切ってしまっている。少年にとっての日常の残骸。それを踏み越えていくたびに、確実に心が冷たくなっていった。どれだけの死を瞳に写しても、なんとも思わなくなってしまった。

 そんなやつは人間などではない。既に死んでしまっている。肉体が朽ちる前に、精神が破綻してしまっている。歪んだ心を持つ歩く死人が行きつく先は、きっとこんな地獄でしかない。


 ビキッ、と壊れる音がする。


 また心が破壊された音だと思ったけれど、違っていて。かつてはこの街でもっとも天国に近い高さを誇っていた時計台の、地獄に屈服する音だった。少年に向かって、時計台が倒れてくる。

「あ、ああ」

 ようやくこの地獄から解放される。だから口から漏れるのは歓喜の声。そして、一歩も動かずに、ただ審判の時を待つ。生きるための努力を放棄して、全てを受け入れるようにして目を瞑って、


 横から突き飛ばされる。


 土煙を上げながら転がって、眼を開ける。そこには見たこともない女の人がいた。こんな殺伐とした世界でも、灰にならずに咲いている一輪の花のように綺麗な人で。見た目からして少年よりも年上だった。それなのに子どものように――泣いていた。

「……よかった。ほんとうに……間に合ってよかった」

 ポタポタとしたたり落ちる涙が、少年の頬の横を流れていく。少年はもう死んでしまっていて、地獄の住人だから涙なんてもう流すことができない。だけど代わりに泣いてくれている彼女の顔を見ていると、何か温かいものが胸中に渦巻く。

「私のせいでこんなことに……ごめんね、ほんとうにごめん。誰も助けられなかった」

 そんなことない、誰のせいでもないと否定したかった。だけど、喉が砂漠のように干上がってしまっていて、何も言うことができない。お礼すら言えなくて、意識さえかすんできた。

「さようなら」

 悲しい顔をしながら立ち上がろうとする彼女に、必死になって手を伸ばす。だけど、届かなくて。その手が触れたものは、彼女が首に着けていたネックレス。引き千切ったチェーンには指輪が通っていて、彼女は気づかずに離れて行ってしまっていく。

 彼女は漆黒の制服をはためかせながら、闇の中へと進んで行って。そして、忽然と姿を消してしまった。瞬き一つしなかったのに、まるで泡がはじけるみたいに見えなくなってしまった。

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