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俊一は寝室に行き、ベッドのシーツや布団を畳み始めた。
「ん?シーツ変えるの?」
「汚れたからね。今から洗濯しても乾かないから客人用を出して、俺はソファで寝るよ。今時期は寒くもないし」
「やさしいね~」
「悪いか。お前らも泊まる?その代り寝る場所は床になるけど」
「ん~明日は休みだし、そうしようかなぁ~。色々と聞いてみたいから」
「了解」
俊一は汚れたシーツと布団をクローゼットに押し込み、代わりにシーツを数枚と布団を一つ出し、ベッドに敷いてから残ったシーツをソファに置き、フランの隣に座った。
「んで、結果は?」
「やっぱりタクトの高科学研究所だな。結構有名な研究所で、主にやっているのが、微生物や生物の遺伝子工学に細菌・伝染病などの解析とかもしている」
「他には?」
「え~と、政府認定研究所としても有名だな。政府からの依頼とかあるみたい」
「そんな所の名刺をあの子は持っているんだ?」
「これ名刺だと思う?」
「違うのか?」
フランは名刺の上部分を撫でるとホログラムが映し出された。
「超薄型のホログラフィー機か」
「しかも音声認識の暗証設定もされている。これは何あるな」
ホログラムには、Passwordの文字が浮かび上がっていた。
「フラン。予想を言ってみて」
「予想としては、タクトで何かがあったか……だな。他は……考えたくない」
「そうか」
俊一は、もう一度名刺を撫でて、ホログラムを消した。
「もう少し調べてみるか?」
「深く?」
「アンダーグランドに何かしらの情報が落ちている可能性はあるからな」
「……あの子の話を聞いてからにしょう」
「そうだな」
二人が話していると、バスルームの方からヤンが歩いてきた。
「俊ちゃん。羽織るものある?夏とはいえ夜はタクトよりアルトは寒いからね」
「あ~ちょっとまってよ……」
アルトは太陽から離れているので、本当は昼と夜の温度差はとてもあるのだが、宇宙には数十基の天候調節ステーションが配備されているため、タクトと同等の気温で過ごせている。
それでも夜は灯華にとって少し肌寒かった。
「パーカーしかないけど、大きくないか?」
「大丈夫でしょ。私のTシャツも少し大きいから」
「そうか……これでいい?」
「うん。ありがとう」
寝室に置いていた黒パーカーを渡すと、ヤンはもう一度バスルームに戻った。
フランは、パソコンを閉じると台所に向かった。
「俊も料理を運んで~」
「ん」
二人は台所からご飯とお味噌汁に厚焼き卵とサラダを持って、リビングのテーブルに運んだ。
「おっ!いい匂い!お腹減ったね~灯ちゃん」
「そうですね。ヤンさん」
バスルームから出てきた二人は、早歩きでリビングに来た。
灯華は入院服からヤンが持ってきたスウェットのズボンと上には俊一が貸した黒パーカーを羽織り、大きいためか袖から手は出てなく、ファスナーも半分くらいしか閉めてないため、中のTシャツが見えていた。
ヤンは着た時の服装のままだった。
俊一は、テーブルにご飯を置いて二人に向き直した。
「おぉ、上がったのか。湯加減はどうだった?」
「暖まったよ~」
「お風呂ありがとうございました」
「いいよ。え~と……」
「私の事は灯華と呼んでください。俊さん」
「えっ?俊さんって……」
いきなりの名前を呼ばれ慌てていると、灯華も慌てて言った。
「え~と、お風呂でヤンさんがそう呼ぶと喜ぶよって言うもので……」
「ヤン?」
「さ~て、ご飯食べよ~と」
俊一の睨みにヤンは口笛を吹きながらソファとは反対側に座り、フランはその隣に座ったが笑いを堪えていた。
「お前ら……」
「あ・あの私なにか変なことでも……」
「あ~気にしないで。その名前で呼ばれるのが慣れてないだけだから。ほら、ご飯食べよう」
そう言いながら俊一は灯華の背中に手を当ててソファの方へと押した。
「すみません……」
灯華は頭を下げながらソファ側に座って、その隣に俊一が座った。
「さぁ~て、ご飯食べますか。フランの料理は美味しいんだよ」
「そうなんですか?じゃぁ、いただきます!」
「はい、いただきます」
四人は手を合わせて言うと、ご飯を食べ始めた。
「美味しい!この料理とても美味しいです」
「ねぇ~。美味しいよね~」
「そりゃ毎日作っていれば料理上手くなるよ。誰かさんは作らないしね」
「時々は作るでしょう!!ねぇ俊ちゃん!」
「俺が風邪を拗らせた時に作ったお粥。何入れた?」
「……お酒を少し……」
ヤンは少しモゴモゴしながら話し、俊一はお味噌汁を一口飲むと言った。
「へぇ~俺の家にあった酒一ビンの半分近く入れて、少しねぇ~」
「え!お酒を半分も入れたんですか?」
「そうなんだよ。灯華ちゃん。自信満々に作って、それを食べた俊はさらに寝込んで大変だったんだよなぁ~」
「ちょっ!フーちゃんがお酒入れてみたら?って、言うから入れたのに!」
「誰が酒半分入れるんだよ!小さじ二杯ぐらいって伝えたろ」
フランとヤンは口ケンカし始めた。灯華はアタフタしていたが、俊一は関心が無く、食べ続けた。
「俊さん!止めないのですか!」
「ん?あぁいつもの事だし」
「彼氏彼女ですよね?いいんですか?」
「いいの。まぁ食事時だし……止めるか」
俊一は箸を置くと手を一度大きく叩いた。
叩いた音はとても大きく、二人は口ケンカを止めた。
「はい、そこまで。料理冷める。食べちゃうぞ」
「む……そうだな」
「お腹減っていたんだ……」
「そ・そうですよ。食べましょうよ」
「ほら、灯華も言っているぞ」
二人は頷きながらまたご飯を食べ始めた。
数分程の沈黙があったが、すぐにいつも通りに話始めた。
「うぅ~邪魔だな……」
「ん?どうしたの?」
「髪が邪魔で……」
灯華は赤色の長い髪を後ろにかき分けていた。
「あ~ちょっと待ってよ」
そう言うとテーブルから立ち上がり寝室に入ると、一つの黒いヘアゴムと青色の髪留めを持ってきた。
「後ろ失礼するよ。髪止めよう」
「えっ!?自分でやりますよ!」
「いいから、動かないで」
「は・はい……」
俊一は座っている灯華の後ろに立って髪をまとめてヘアゴムで縛った。
「あっ俊ちゃん。それまだ持っていたんだ」
「ん?あぁ、捨てるのもあれだったし」
長い髪を後ろでまとめ、横髪を髪留めで止めた。
「これで大丈夫だろ」
「ありがとうございます。これって俊さんのですか?」
「ん?そうだよ。去年は髪長かったから使っていた物だよ」
「その頃の写真ないんですか?」
「ないない。伸ばしたのも理由あったし……」
俊一は溜め息をつきながら横に座り直すと、ヤンは足元に置いてあった携帯を手に取り、カコカコと操作するとフランに見せながらニヤニヤと笑った。
「あるんだなぁ~。その頃の画像」
「あっ!見たいです!」
携帯を灯華に見せた。画面にはフランと俊一が一緒に写っている写真で、俊一は少し怒った顔をしていた。
写真の俊一は、肩ぐらいまで伸びた髪に灯華が付けているヘアゴムと髪留めだった。
「なんで残している!」
「え~、だって可愛いじゃん。それに俊ちゃん写させてくれないし」
「当たり前だ!絶対的に残したくない物だ!」
今度は二人が言い合っていると、灯華はヤンの携帯をマジマジと見ていると、フランがコソッと話してきた。
「……これ、ヤンと俊が一年生の後期にある期末テストで勝負してね。二点差で俊が負けて罰ゲームしたのさ。肩ぐらいまで髪を伸ばすってね」
「それでこれですか……」
「その写真は、嫌がる俊を俺が無理矢理捕まえて、ヤンが携帯で撮ったのさぁ。その髪留めはその時に買ったんだろうなぁ」
「へぇ~……でも可愛いですよね」
「俊に言ってみな。また赤面するから」
「怒られないかなぁ……」
灯華は携帯を閉じてヤンに返した。ヤンと俊一も言い合いを止めてご飯を食べ始めていた。
それから四人は話しながらご飯を食べた。
「さて……ご飯も食べたし片付けるか」
「あっ、私も手伝います!」
食器をまとめて片付けようとした俊一に灯華も一緒に片付けながら食器を台所にある流し台へと運んだ。
それを見ていたヤンとフランは小声で話した。
「ねぇ、ちょっと二人きりにしない?」
「ん?彼女と俊を?」
「そ。結局助けて灯ちゃんのお願いされたまま、家に連れてきたでしょ?話ちゃんとしてないし」
「確かに……(気になる事もあるし)やってみるか。お~い!俊!」
フランに呼ばれて俊一は台所から戻ってきた。
「どうした?」
「俺らお菓子とか買ってくるよ。灯華ちゃんの物もいるだろ?」
「あ~……それなら灯華も一緒に連れて行けば?」
「大丈夫!私いるから!」
ヤンは立ちあがるとブイッと指ですると、俊一は頭を掻きながら言った。
「任せた。何が必要なのか灯華に聞いて。お金は……割り勘で」
「OK!んじゃ、聞いてくる」
そういうとヤンは、台所へと小走りで向かった。
フランも立ち上がると俊一の耳元で話した。
「今、外に出ていったら面倒なことになるぞ。それにあの入院服も普通の病院ではないぞ」
「どこ?なんで判る?」
「さっき調べていったら辿り着いた。どうも政府管轄の研究所病棟服だわ。ただそこから先は俊、お前から聞きな。灯華ちゃんも話してくれるかもよ?ただし!無理には……」
「大丈夫だ。無理には聞かないよ」
「ん。そしたら二時間ぐらいで帰ってくるよ」
俊一の肩を軽く叩き、台所で話しに盛り上がっているヤンを連れて買い物に出て行った。
台所から出てきた灯華は、俊一に聞いてきた。
「一応、食器は水に浸しておきましたけど……洗いますか?」
「いや、いいよ。ソファにでも座って休んでいな」
「じゃぁ、お言葉に甘えて……」
灯華は小走りでソファに座ると俊一もその隣に座り、なにげなしにTVを付けた。
「アルトではどんな番組やっているんですか?」
「ん~タクトとそれ程変わらないかなぁ~。まだ二十時だからバライティー番組やっているはずだよ」
そう言いながらチャンネルをバライティー番組に変えた。番組は始まったばかりであった。
「うぁ~、アルトではこんな番組やっているんだ~」
「確かアルトで人気のある番組かな」
「面白そう~」
番組を夢中に見ている灯華に俊一は黙っていると、テレビ画面の上に白文字でニュースが流れた。