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 二時間後、既に夜となった時間帯に家のチャイムが鳴った。


「開いているよ~!!」


 俊一は玄関の方を向いて叫ぶとドアが開いた。


「鍵ぐらいかけとけよ」

「おじゃま~」


 着替えたのかフランは、セーターにジーパンとラフな格好に、ヤンはミニスカートと白ワイシャツにクリーム色のVネックベストを着ており、黒ネクタイをベストの外側に出していた。フランとヤンは靴を脱いで家の中に入った。


「鍵かけておいて」


 俊一の声にフランは鍵をかけ、二人はリビングへと向かうと俊一はソファに座っていた。

 電話後に着替えていたのか、黒のジャージに紺色のパーカーを着ていた。


「脱力しているなぁ。頼まれた物持ってきたぞ」

「ありがとう」


 フランは荷物をソファの前にあるテーブル上に置き、フランとヤンはソファとは反対側の床に座った。


「着替えは私の物でいいなら持って来たけど……どうしたの?まさか、俊ちゃんが着るとか言わないよね?」


 ヤンは両手で口を押さえながら言い、俊一はそれを否定した。


「それはないわ~」

「何に使うんだよ、女性物の服なんて……しかも体調悪そうでもないし」

「いや……ヤン」


 持ってきた荷物の中身を確認していたヤンは顔を上げて聞いた。


「なに?どうしたの?」

「寝室の襖、開けてみて」

「……なんで?あ~何か仕掛けているんでしょう~?」

「それはないから」


 俊一は真顔でヤンを見た。フランはそれを見て、


「ヤン、冗談とか遊びとかでないみたいだぞ」

「そうみた。寝室を開ければいいんだよね?」

「お願いします」


 頭を下げる俊一を見て、ヤンは深く息を吐いて立ち上がると、寝室の前まで歩き、襖に手を掛けゆっくり開けた。

 少し開けてそこから寝室を覗き、一瞬驚いた顔をしながら振り返った。


「俊ちゃん……誘拐?」

「なんで誘拐になる!」

「えぇ~違うの??」

「違うわ!」


 俊一はヤンの言葉にソファから立ち上がって叫んだ。


「なんだよ。何があるんだよ」

「フーちゃんも見たい?」

「見たい。ってか、何があるんだよ?」

「開けていいんだよね?」

「いいよ。その代わり秘密は守ってよ」


 俊一はドカッとソファに座りなおし、ヤンは一気に襖を全部開けた。


「どれ……」


 寝室を見たフランは言葉を失いながらヤンに聞いた。


「俊に彼女いた?」

「いないよ。聞いた事もないし」

「だよな……やっぱり誘拐?」


 そう言うと二人は俊一を見た。


「だから誘拐でないわ!よ~く顔を見てみなよ。つい数時間前に見てない?特に俺とフランは大学でも見たはずだぞ?」

「ん?なに」


 二人はベッドで寝ている少女の顔を見た。


「……あ~!!この子、ニュースに出ていた!」

「おぉ~!!えっ。俊!パソコンは!」

「もう起動したよ」


 俊一はUSB型のノートパソコンをテーブルの上で広げていた。


「共有ファイルは?」

「あぁ、起動と共に開いているから、後はパスを入れるだけ」


 フランはテーブルに駆け寄ると、急いで共有ファイルにパスを入力して一つのフォルダを開いた。それは大学から共有ファイルだった。


「何探しているの?」


 ヤンはフランの後ろに座り、肩越しから覗き込みながらノートパソコンを覗きこんだ。


「大学で俊に見せていた動画があるんだが……」


 共有ファイルから動画を見つけると選択して再生した。

 そこには大学やニュースでやっていた動画が流れた。


「おいおい、どうなっているんだよ」

「ソックリさん……の訳はないよね……やっぱり」

「俺だって驚いていんだから……大学の帰る途中、造林から飛び出てきて、当たりそうになって慌てたんだぞ。なんともなかったけど、入院服みたいなの着ているし病院に連れて行こうとしたら、目を覚まして『病院は嫌だ』って取り乱すし……落ち着いたら眠るし、取りあえず家に連れて来て寝せている」


 俊一の説明に、二人は黙って聞き、ヤンが最初に口を開いた。


「それで私達を呼んだのね」

「最初に思いついたのが二人だったから……悪い」


 二人に頭を下げると、フランは笑いながら言った。


「なんで謝る。頼られているんだし、力になるよ。俊一人だと無理だろ」

「そうだね。私達でよければ力になるよ」

「……ありがとう」


 俊一はもう一度頭を下げると、寝室から呻き声が聞こえてきた。


 三人は寝室を見ると少女はベッドの中でモゾモゾと動いていた。


「ん……うっ……」

「気が付いたのかな?」


 ヤンはそう言いながら立ち上がり寝室に入るとベッドに寝ている少女の身体を軽く揺さぶりながら声をかけた。


「大丈夫?起きられる?」

「こ……ここは何処?」

「目が覚めた?あなたが、道路に飛び出てきて倒れたのを助けてくれた人の家だよ。覚えている?」


 少女は首をフルフルと横に振ると、ヤンはベッドの横に座り頭を撫でながら言った。


「そっか。私はヤン・ミーフェイ。よろしくね」

「私を助けてくれたのはあなた?」

「ううん。今呼ぶけどいい?」

「うん」

「俊ちゃん、フーちゃん」


 後ろを振り向き二人を呼んだ。

 二人は怖がらせないようにベッドの横に立ち膝で座ると話しかけた。


「やぁ、俺は南部 俊一。君を助けて家に連れてきたのが俺だよ」

「その友達のフラン・ヤンバック。よろしく」


 二人は笑顔で自己紹介すると少女は上半身を起こした。


「急に起きて大丈夫?」


 ヤンは起き上がる少女の身体を支えた。


「ありがとうございます……大丈夫です。私の名前は水島 灯華といいます」


 水島みずしま 灯華とうかと名乗ったが、声はまだ弱々しかった。


「うん、水島 灯華ちゃんって言うのね」

「はい……タクトから来て……それから……」


 言葉の途中から灯華は急に涙を流し始め、俊一はスッと灯華の頭を撫でた。


「それ以上はいいよ。落ち着いてからでいいから」

「ありがとう……ございます……」


 涙を拭いながら灯華は言うと、ヤンは立ちあがり言った。


「よし!何か食べよう!材料も買ってきたし……フーちゃんは持ってきた材料で何か作ってくれる?」

「作れる。米とか味噌ぐらいはあるだろ?」

「何を言っている。米も味噌も調味料もあります。少しぐらいなら材料だって冷蔵庫にある」

「判った。台所借りるぞ」

「あいよ」


 フランは立ち上がると寝室を出ていき、ヤンは灯華に向き直して言った。


「水島さんは……お風呂かな?」

「えっ?」


 自分の汚れた服や腕を見た灯華は慌ててベッドから出ようとした。


「ご・ごめんなさい!汚れているのに布団の中に入って……」

「あ~大丈夫!気にしないで。取りあえず風呂入って、汚れ落としな」


 俊一はそう言うとヤンを見て言った。


「ヤン、バスルームの場所は判るだろ?」

「知っているよ~」

「バスタオルとかは、予備を置いてあるからそれを使って。服は洗濯機に入れていいから」

「了解。持って来た服と持って行くよ。水島さん立てる?」

「はい」


 灯華はゆっくりとベッドから立ち上がろうとするとフラつた。


「あっ……」

「おっと、大丈夫?」

「す・すみません。ちょっとフラついただけです」

「俊ちゃん、水島さんを連れてきてくれる?」

「ほいほい」


 俊一はそう言うと灯華の肩に手を回して足の方にも手をかけて持ち上げた。


「えっ!そんな歩けますよ!」

「おぉ、お姫様抱っこときましたかぁ」


 ヤンの言葉に灯華は顔を赤くした。


「気にしない。背負うよりこっちの方が今は運び易いし」

「そ・そんな運び易いとかじゃなくて……」

「照れているね~」

「照れていません!」


 ヤンと灯華のやり取りを聞きながら俊一は、寝室から出ると台所で料理していたフランはお姫様抱っこをされている灯華を見て笑った。


 台所を通り過ぎると、両側には二つのドアがあった。

 一つは扉でもう一つは引き戸となっていた。


「ヤン。開けてくれる」

「ん」


 ヤンは引き戸の方を開けるとそこはバスルームとなっていた。そこには洗濯機と洗面台にお風呂のドアがあった。


「降ろすから壁に寄り掛かってね」

「はい……すみません」


 灯華を壁際に降ろすと背中を壁に付けて寄りかかりながら立った。


「後は頼むわ」

「……覗いたら殺すからね」


 指をコキコキと鳴らしながら言うと俊一は慌てた。


「誰が覗くか!」


 そう言いながら引き戸のドアを閉めて、台所へと向かった。


「ふぅ……フランは何作っているの?」

「ん?豆腐のお味噌汁と厚焼き卵、冷蔵庫にあった物で有り合わせ。あの子を見たらお粥とかより普通のご飯でも大丈夫だろ」

「ほぅ、いいね。俺らの分は?」

「ある」


 俊一はそれを聞いて頷くとリビングに戻ろうとすると、バスルームの引き戸が半分程開きそこからヤンが顔を出して言った。


 中からはシャワーの音が聞こえていた。


「俊ちゃん。お風呂のお湯溜めてもいい?」

「いいよ~。すぐに溜まるようになっているから」

「りょ~か~い。あっ、これフーちゃんに調べて貰って」


 開いた所から腕を出しある物を投げ、俊一はそれを受けとった。


「名刺?」

「あの子が持っていたやつ。裏見たら判るよ。よろしく」


 ヤンはそれだけ言うとバスルームに引っ込み、引き戸を閉めた。


 名刺の裏を見るとそこには名前が書かれていた。


「生物遺伝子センター?」

「それって、確かタクトにある高科学研究所の一つだな」

「聞いていた?」

「あぁ、聞いていた。ご飯も出来たし、俺はネットで調べてみるから」

「判った。深くまでは調べるなよ」

「一般人レベルまでしか調べない」


 そういうと、フランに名刺を渡した。


 フランはリビングに戻り、起動しているノートパソコンで調べ始めた。

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