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強欲のイグナート  作者: 霧島樹


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第九十六話「マリィ」

 敷地内に侵入したあと。

 超人的な聴力により事前に寝室と当たりを付けていた部屋の窓まで飛び、風魔法を使って中からカギを開ける。

 しかし、俺も随分と器用に風魔法を使えるようになったもんだ。

 これもコツコツと地道に訓練していたおかげだな。


 そんな感慨を覚えながらゆっくりと窓を開けて、部屋の中に入っていく。

 そして剣をベットで眠るベックマンに向けながら、風魔法で部屋のドア付近にあるスイッチを押した。

 やや時間をおいて天井の明かりが点く。


「うむぅ……なんだ……?」

「強盗です」

「んあ……?」


 目を擦りながらベットから降りるベックマンが今更ながら事態に気がついたのか、驚愕の顔でこちらを見る。

 隣で寝ている様子のマリィはまだ起きる気配はない。


 っていうかベックマン素っ裸じゃねぇか。

 汚えもん見せんじゃねぇよ……。


「ご、ごごご強盗!?」

「ええ、そうです。金目の物を……」

「か、金かぁ!? 金ならいくらでもある! だ、だから命だけは助けてくれぇ!!」

「…………」


 なんともまあ……典型的な……。


「だ、だがここに金は無いんだ! 地下室にある!」

「そうですか。なら早く取ってきてください」

「な……え? 一緒についてくるんじゃないのか?」

「私はここに残りそこで寝ている子を人質にします。その子の命を助けたかったらあなたがひとりでお金を取ってきてください」

「…………わ、わかった」


 ベックマンは頷き、汚い尻をこちらに向けてベットの上に乗った。

 おい汚え尻を見せるんじゃねぇよ。

 いや、っていうかなぜベットの上に乗る必要が……なに!?


「うおおおお!!」


 ベックマンは壁に掛けてあった飾りの剣を手に取り、俺に向かって襲い掛かってきた。

 普段から戦闘をしていない商人だということを考えるとかなり機敏な動きではあるが、残念ながらこの世界で十年以上脳筋ファイターをやってる俺からしてみればあくびが出るほどに遅い。

 いきなりだからちょっとビックリはしたが余裕で迎え撃ち、ベックマンが持ってる剣を中ほどからへし折る。


「うっ……うおおお!? 剣が!?」

「私の実力はこれでわかったでしょう。無駄な抵抗はやめた方が身のためです」

「ぐっ……ぐぅぅ……」


 俺が剣を喉元に突きつけると、ベックマンは観念したようで剣を捨てて両手を上げた。


「ただ少しビックリしました。ペナルティとして、お金と一緒にそこの娘をもらっていきます」

「なぁっ!? マリィは関係ないだろう!?」

「強盗ですよ、私は。そんなの知りません。あなたは早く地下室から金を取ってきてください」

「わ、ワシがこのまま逃げたらどうする!? 金は手に入らんぞ!」

「部屋の外で私の仲間が待ってます。金は仲間に渡してください」

「ぐっ……」

「さぁ、早く。死にたいのですか」


 グイッ、と剣の先をベックマンの喉元に食い込ませる。


「がっ……はっ……ダメ……だ……」

「……今、なんと言いました?」

「マリィを連れてくなら……ワシは、銅貨一枚として払わん!」

「…………あまり調子に乗らない方がいいですよ」

「あがっ……!?」


 剣先をベックマンの口の中に入れる。


「私はこれでも周囲から優しい人だと評判なんですけど……でもね、変態ロリコンのクソジジイに対して容赦はしませんよ」

「あがが……」

「さぁ、そこを退きなさい。邪魔です」

「あ……が……が」


 ベックマンは小さく首を振って、その場から動こうとしなかった。


「……そうですか」


 俺はベックマンの口に入れた剣を右へと振り切り、ヤツの左頬を斬り裂いた。

 直後、大量の血がベックマンの頬から溢れ出す。


「あがあぁあああぁあぁあああぁああぁ!?」

「邪魔です」


 その場にしゃがみ込んだベックマンの腹を蹴り飛ばし、部屋の端っこまでふっ飛ばす。

 もちろん全力ではないが少しだけ力を入れたので、内臓が破裂ぐらいはしてるかもしれない。

 これで当分は動けないだろう。


「さて……そこの娘、寝たフリをしていますね?」

「っ!」


 こちらに背を向けて寝ていたマリィの体がビクリと震える。


「起きなさい」

「…………」


 怯えた顔でゆっくりと起き上がるマリィ。

 ベックマンの指示なのだろう、マリィはピンク色でスケスケの扇情的なキャミソールを身に着けていた。

 見た目は年齢以上に幼く見えるだけに、その装いには激しい違和感がある。


「こちらに来なさい。悪いようにはしません」

「あっ……うっ……」

「……マリィに、触るなぁあぁああぁあ!!」

「なっ!?」


 マリィに手を差し伸べようとしたその瞬間、動けないはずのベックマンが俺に向かって突進してきた。

 頬から大量の血を流し、汚いものをブラブラさせながら猛烈な勢いで突進してくる素っ裸の中年オヤジという絵面が強烈すぎて、一瞬反応が遅れる。


「うおぉおぉぉおおぉ!」


 放心状態の俺を突き飛ばしたベックマンはそのまま素早くマウントポジションを取り、俺に顔面パンチを食らわせた。


 が、しかし。


「ぐぁああぁああぁあ!?」


 拳を押さえて転げまわるベックマン。

 そりゃ、硬化のアニマを纏ってる俺を殴ったらそうなるわな。

 刃物だって通用しない硬さなんだから。


「やってくれましたね。次のペナルティはあなた自身に与えます」


 俺は起き上がり、ベックマンの右足首を浅く斬り裂いた。


「ぎゃあああぁ!?」

「足首の動脈を斬りました。頬とは違って、手でしっかり押さえておかないとすぐに出血死しますよ」


 俺はそう言ってから再びマリィに手を差し伸べようと歩き出した。

 それと同時に、背後から衝撃を受ける。


「……なんのつもりですか、これは」

「マリィには……指一本触れさせん……!」


 背後からタックルしてきたベックマンが俺の胴体に両腕でしがみつく。


「さっきの言葉が聞こえなかったのですか? こんなことしてたらすぐに出血死しますよ」

「マリィを連れて行かれるなら……死んだ方がマシだ!」

「そうですか」

「ぐっ!?」


 俺はベックマンを力づくで振り払い、大きく剣を振りかぶった。


「なら、今すぐ死んでください」

「やめてぇ!!」

「なっ……!?」

「マリィ!? 離れなさい! 殺されるぞ!!」


 満身創痍で床に転がるベックマンをその背に庇うように、マリィが俺の前に飛び出した。


「いいよ、ホルちゃんが殺されたら、あたしも死ぬから……」

「ま、マリィ……」

「あたしの為なら死ねるって、本当だったんだね、ホルちゃん……」

「ああ、本当だとも……だが、ワシと一緒に死ぬことはない。逃げるんだマリィ……」

「バカ……最後まで一緒だよ……ホルちゃん……」

「マリィ……」

「……………………」


 なんだこれ。


「ちょっとぉ! いつまで待てばいいのわたしは……って、クソジジイ! アンタなにマリィとイチャイチャしてんのよぉぉぉ!?」

「待ってくださいスフィ。聞いた話と違います。事情聴取が必要です」

「クソジジイ殺す!」

「待てっつってんだろ」


 俺はスフィの顔面を掴んで壁に叩きつけた。










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