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強欲のイグナート  作者: 霧島樹


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第八十九話「渇望の地下迷宮」

 

 

 初の戦闘系依頼を達成してから、二ヶ月ほどの月日が流れた。

 あれから俺は相変わらずハイペースで割に合わない系の依頼を次々と達成していき、生活資金を稼いでいた。

 おかげで今や冒険者ランクもBにまで上がり、受けられない依頼も大分減ってきている。


「さーてと、今日はどれにしようかな」


 そんなとある日の朝方、俺はいつものように冒険者ギルドの掲示板を見上げながら依頼を選んでいた。

 とはいっても、俺が選べる依頼なんて割に合わない系だったり、ハイリスク・ハイリターン系だったりするからそう数はないのだが。


「よし」


 俺は一枚の依頼書を掲示板から剥がして、モヒカン男のいるカウンターへと向かった。

 ……が、どうやら先客がいるようだ。


「スフィ……悪いことは言わん、やめておけ」

「なんで? 条件は満たしてるでしょ?」

「ギリギリな。それより、依頼達成のペースが早すぎだ。最近自分の顔、鏡で見てるか? ひどい顔してるぞ」

「そういうのいいから、早く手続きしてよ」

「スフィ……」

「早く!」


 長身の女がカウンターを叩く。

 背中まで届く長い水色髪と、女にしては高い身長が特徴的なBランク冒険者、スフィ・トゥルク・リングロードだ。


「……わかったよ」


 モヒカン男はそう言ってスフィのギルドカードを受け取ってからカウンターの奥へと下がり、一分も経たないうちにすぐ戻ってきた。


「ほらよ。ただな、スフィ。くれぐれも……」

「わかってる!」


 依頼情報登録が終わったのであろうギルドカードをふんだくるようにして受け取り、スフィは冒険者ギルドを出て行った。


 ……うーん、足取りからして荒々しい。

 なにかあったのだろうか。


「お……おう、お嬢ちゃんか。おはようさん」

「おはようございます。スフィさん、なにかあったのですか?」

「多分な。オレにも事情はわからん。アイツはアイツで強情だからな……」

「そうですか」


 大きくため息をつくモヒカン男を見て、少しだけ同情する。

 この人、なんだかんだで世話焼いてくれるからな。

 心配でしょうがないのだろう。

 ……胃に穴でも空いたら、こっそり回復魔法でも掛けてあげるか。

 俺も多分相当彼にストレス掛けてるだろうし。


「それでは、今日はこの依頼をお願いします」

「おう。……おー、『渇望の地下迷宮(アルカスダンジョン)』での魔石、及び魔結晶の採取依頼か。こりゃまた随分ギリギリな依頼持ってきたな」

「ランクと指数、もうそろそろ足りてると思いまして」

「足りてる足りてる。ほら、情報登録してくるからギルドカード」

「はい」


 ……あれ、地下迷宮ダンジョン系の依頼は俺初めてだけど、随分とすんなり登録してくれるな。


「ほい、情報登録終わったぜ」

「ありがとうございます」

「『渇望の地下迷宮(アルカスダンジョン)』での採取はAランク依頼の中でも難易度が高い方だからな、気をつけろよ」

「はい。……今回は特に引き止めないんですね」

「ああ、どうせ引き止めたって受けるんだろうし、お嬢ちゃんの場合は心配したところで無駄だってわかったからな。またケロッとした顔で帰ってくるんだろ?」

「まあ、そうですけど」


 そうか。とうとう俺はモヒカン男にまったく心配してもらえないレベルまで到達したか。

 感慨深いが、それはそれで寂しいもんだな。




 ◯




 減ってきた各種調味料を商店街で買いまわり補充してから、俺は王都を出て適当なところで空を飛び、今回の目的地である『渇望の地下迷宮(アルカスダンジョン)』に向かった。


「おー……雰囲気出てるなぁ……」


 目的地に着いた俺は古びた神殿のような建物から地下に入り、サクサクと歩を進めていく。


 この『渇望の地下迷宮(アルカスダンジョン)』は遥か昔からある古代遺跡のうちのひとつである。


 この大陸にはこういった古代遺跡がいくつも存在しており、それらの地下には往々にして地下迷宮(ダンジョン)が広がっていたりする。


 こういった地下迷宮(ダンジョン)を探索して、珍しい古代魔導器や神器など、さまざまな遺物(アーティファクト)を発掘するのも冒険者の仕事なのだ。


 ……が、しかし。


 この『渇望の地下迷宮(アルカスダンジョン)』は場所が王国に近いせいか大昔から攻略対象になっており、すでに『枯れた』地下迷宮(ダンジョン)だともっぱらの噂である。

 ギルドによる古代魔導器や神器の発掘調査も打ち切られて久しいらしい。


 だがそれでもアニマ濃度が高い地下迷宮(ダンジョン)には魔石や魔結晶が定期的に生み出される為、稼ぎたい冒険者がたまにこうしてやってくるというわけだ。

 天然物の魔石や魔結晶は高い値段がつくからな。


 ただ得られるリターンは大きいが、他の依頼と比べるとリスクの方が大きい為、冒険者としてはどちらかというと敬遠されるたぐいの仕事らしい。


 そりゃ同じリスクを負うのなら、枯れてない同じぐらいの規模の地下迷宮(ダンジョン)を探索する方がロマンがあるし、リターンも大きいからな。


「それにしても……」


 随分と魔物が少ない。


 結構なスピードで地下迷宮(ダンジョン)内を進んでいるが、魔物といったらたまに『邪悪な目玉(イビルアイ)』と呼ばれる巨大な目玉に触手が生えたような謎生物が出てくるぐらいである。


 普通、枯れた地下迷宮(ダンジョン)というのは冒険者があまり入らないので魔物が多くなりやすいと聞いていたのだが……。


「おっと」


 途中の曲がり角で急停止した。

 ここから先で異様な風の動きを感じる。


 魔物がひとつの部屋に集まっている『魔物部屋(モンスターハウス)』だろうか?

 だとしたら先手を打って攻撃したい。


 多数を相手にしてもまず間違いなく苦戦はしないだろうが、なにせ初の地下迷宮(ダンジョン)攻略だからな。

 有利を取るに越したことはない。


 俺は異様な風の原因を探るべく、曲がり角から慎重に顔を出して曲がり角の先を覗き込んだ。










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