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強欲のイグナート  作者: 霧島樹


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第八十話「冒険者」

 


 モヒカン男が戦闘開始の合図をした瞬間、スフィは一気に間合いを詰めてきた。

 そのスピードは中々のものだ。

 多分、新人相手には相当大人げないレベルなのだろう。


 だがしかし、ディナスとか魔王に比べたら止まって見える。

 どうするか。

 一撃を入れることはできるが、下手に目立つと厄介事が舞い込んできそうだからな。

 一生懸命防御するフリをしてこの場はしのぐことにするか。


 そんなことを考えながら間合いを詰めたスフィの一撃を木刀で受ける。


「っ!?」


 初撃を受け止められたスフィは一瞬驚いたように目を見開いたあと、即座に後ろに下がり間合いを取った。


「…………」


 スフィは打ちつけた自分の木刀を数秒見つめた後、俺の方に視線を向けて微かに口角を上げた。

 ――そこからは、スフィによる一方的な猛攻が始まった。


 まるで流れる水のように変幻自在な剣技が、次々と繰り出されていく。


 それは俺が今まで相対したどんなタイプとも違った剣技だった。

 迫り来る木刀を受け止め、さばきながら感嘆する。


 美しい。


 このスフィという少女が繰り出す剣技は俺の心を強く打った。

 もちろんディナスやいつかの黒騎士などの超人と比べたらその技量には天と地の差があるのだろうが、俺にとっては逆にそれがちょうどいい。

 高次元過ぎてわけわからん超人の技より、頑張ればいつか俺でも届くかもと思わせる達人の技。

 そういうことなのだろう。

 彼女の剣技が俺の心を打った理由は。


「ハァ……ハァ……ハァ……」


 いつのまにか呼吸の荒くなったスフィが再び距離を取り、額の汗を腕で拭う。


 ……あれ、もしかして今の結構全力だった系か?

 マズいな、普通に受け切っちまった。

 さすがに新人としては十分過ぎるぐらいに持った方だろう。

 もうそろそろワザと攻撃を受けて終わりにした方が無難か?


 再度こちらに向かって距離を詰めてきたスフィの木刀を受け止めながらそんなことを思ったが、結果としてそんな心配は無用だった。


「ぐぅ!?」


 腹部に衝撃を受けて部屋の端まで吹っ飛んでいく。

 なんだ、今なにされたんだ?

 俺は咄嗟にその場で立ち上がったが、


「パワフルだなぁ……」

「…………」


 そんな俺をモヒカン男とスフィが驚愕の顔でこちらを見ていた為、俺はそのまま腹を押さえて床にゆっくりと膝をついた。




 俺が膝をついた時点で対人テストは終了となった。


「お嬢ちゃん、本当に治癒魔術師を呼ばなくても大丈夫なのか?」

「はい、大丈夫です」

「お嬢ちゃんはパワフルな上にタフなんだな……」


 感嘆の声を上げながら手元のボードに何かを書き込んでいるモヒカン男。

 そんなモヒカン男を横目にスフィはさっさと部屋から退室してしまった。


「あっ……」

「ん? スフィか? アイツはいつもあんな感じだから気にしないでいいぞ」

「そうなんですか。……あの」

「なんだ?」


 俺はなぜかビショビショになっている自分の腹辺りを指さして言った。


「これって……」

「ああ、それな。水魔法ぶつけられたんだよ。スフィは水の属性持ちだからな」

「そうだったんですか」


 最後に俺がふっ飛ばされたのは水魔法だったか。

 どうりで腹辺りが濡れているわけだ。

 ……あ、水属性コピーさせてもらえばよかった。

 この水でもコピーできるか?


 濡れている腹辺りの服に手を当て、意識を集中する。

 するとまだ残存する水属性アニマが、俺の体内に取り込まれていく。


「……よし」


 どうやら無事、水属性のコピーに成功したようだ。


「どうした? やっぱ腹痛いのか?」

「いえ、大丈夫です。水魔法って便利だなって思っただけで」

「ハハ、そうだな。あのスフィが新人相手に使うとは思わなかったけどな」

「凄い人なんですか?」

「もちろん。なにせ十五って若さでBランク上位、もう少しでAランクにまで手が届くかもって逸材だ。言ってみれば天才ってヤツだな」

「そうなんですか」


 そういや、冒険者でも傭兵でも一生掛けてBランクにまで上がれない人間が大多数って聞いたことがあるな。

 大多数が到達できない人間の限界を超えた一流のあかし

 それがBランクだという。

 そう考えると凄いんだな、あのスフィって子は。


「そうなんですか、って……お嬢ちゃんはそんな天才に奥の手を使わせたんだぜ?」

「えっと……まぐれですよ、まぐれ」

「まぐれか……ハハ、面白いお嬢ちゃんだ」


 モヒカン男はそう言いながら俺を部屋の外へと誘導した。


「戦闘能力指数の測定はこれで終了だ。もうこれから依頼を受けられるぜ。どうする? さっそく受けてくか?」


 部屋から出たモヒカン男がそのままカウンターの中に入り、窓口のひとつに座る。

 ……って依頼もアンタが受付できるのかい。


「はい」

「じゃあ掲示板を見てきてくれ。新人は無条件でGランクからのスタートだが、モノによっては上位ランク依頼でも受付できる。とはいえその場合、大体は戦闘能力指数が引っかかって受けられないんだが……まあ、お嬢ちゃんなら殆ど大丈夫だろ。ただし、いきなりAランク依頼とか持ってくるんじゃないぞ。そんなの条件クリアしてても突っ返すからな」

「わかりました」


 素直に返事をして依頼の紙が貼ってある掲示板を見に行く。

 とりあえず今日のところは今晩宿に泊まれる程度の金額を稼げれば良しとしよう。

 冒険者としてはまだまだ新人だし、焦ることはない。


「あー……こういう感じかー……」


 採取系、特にGランクやFランク依頼は基本的に報酬が銅貨数枚だった。

 これじゃあ子どもの小遣い程度だ。

 とても宿には泊まれない。

 報酬面だけで言ったら同じ最低ランクの傭兵の方がよっぽどいいぜこれ。


「なるほどね……」


 冒険者は依頼の比率が戦闘以外も多いだけあって、報酬もピンキリなんだな。

 伝説の秘宝探しだとか、ダンジョン探索だとか、ロマンのある依頼も多いみたいだけど。


「ん? これは……」


 相当、割がいいんじゃないか?


 俺は掲示板に貼ってある依頼表の中から一枚を選び取り、モヒカン男の元へと向かって歩き出した。










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