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強欲のイグナート  作者: 霧島樹


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第五十二話「守護の制約」

 

 

 石像から出てきたジル・ニトラにメンバー全員がそれぞれ簡単に挨拶をしたあと。


「おい」

「なんだね?」

「前にアンタ言ったよな。『私は人間の領域を離れることはできない』って」

「言ったな」

「離れてんじゃねぇか」


 俺はジル・ニトラに対して突っ込んだ。


「離れてないぞ。この体は私の分体だからな。本体は未だ帝国にいる」

「そういう理屈かよ」


 理屈っていうか、屁理屈に聞こえるが。


「なんか腑に落ちねぇが……まあそれはじゃあいいとしてだ。アンタ、俺たちの手助けはできないんじゃねぇのかよ」

「できないな」

「んじゃなんで来たんだよ」

「聞きたいか?」

「そりゃあな」

「なるほど。では耳を貸せ」

「ああ? なんだよ……」


 俺は言われた通りに耳を近づける。


「実はだな……」


 ジル・ニトラはたっぷり間を置いて、俺の耳に小さく囁いた。


「秘密、だ」

「……………………」


 コイツ……。


「なに、キミたちはキミたちで計画通り魔王を倒してくれればいいさ。私は私でやることがある。ただし、私自身がキミたちを助けることはできない。それは旅立つ前にも言っただろう?」

「まあ、そうだけどよ」

「ではいいじゃないか。細かい男は嫌われるぞ」

「アンタにそれを言われるのはなんか(しゃくなんだよな……」


 不思議なことに。


「なんだ、私に惚れてるのか? 残念だな、キミは中々いい男だと思うのだが、私の予定は当分先まで埋まっていてね。百年後辺りに誘ってくれればデートぐらいは付き合うのだが」

「ちょっとなに言ってんだかよくわかんねぇな」


 そもそもさっきの会話からなぜそういう発想が出てくるのか。


「ちょいとイグナート、それぐらいにしておきな。迷惑だよジル・ニトラ様に」

「へいへい、わーったよ」


 そういや人類の守護神様は忙しいんだったな。


「ああ、でも最後にひとつだけ聞かせてくれ」

「なんだね?」

「さっきの魔法陣はアンタを召喚するものだったわけだよな? なんでそれをスラシュ以外には秘密にしてたんだ?」


 別になんら秘密にするような要素はないと思うんだが。


「そんなの決まってるだろう。サプライズだよ、サプライズ。キミたちのビックリする顔が見たくてね」

「…………聞くんじゃなかったぜ」


 なんつーか……しょうもねぇ。


「さて、準備が整ったようだ」


 ジル・ニトラは目をつぶりながらそう言うと、魔法陣から退いて指を鳴らした。


「準備ってなん……うおあ!?」


 魔法陣から再び強烈な閃光が迸る。


「近くで見過ぎると目が潰れるから、離れた方がいいぞ?」

「それやる前に言ってくれねぇか!?」


 ひとり近付き過ぎていた俺はズキズキと痛む目に治癒魔法を掛けながらその場を離れた。


「ったくよぉ……今度はなんだよ」

「人を召喚してるみたいですよ」


 フィルが顔の前に手をかざして眩しそうに目を細めながら言う。


「人だぁ?」


 俺も顔の前に手をかざしながら再び後方に視線を向けると、フィルの言う通り強烈な閃光と共に次々と魔法陣から人が現れていた。

 黒紫のローブを着てフードを目深に被った、怪しげな連中だ。


「なんだ、ありゃ」

「もしかしたら……」

「知ってるのか、フィル」

「ええ、実際に見たことはないのですが、ジル・ニトラ様が現れるところへ影のように付き従い、その補佐をしているという魔術師集団の噂を聞いたことがあります。帝国で公式に発表されていないため、おそらくはジル・ニトラ様の私兵のようなものだと言われていますが……実在したんですね」

「へぇ……」


 メッチャクチャ怪しいな。

 ジル・ニトラの私兵ってところがまた更に怪しい。

 そんな風に怪しんでいると、その魔術師集団を率いてなにやら作業を始めさせていたジル・ニトラがこちらに向かって歩いてきた。


「ううむ、困ったな、これは非常に困った」

「わざとらしいなおい。どうした」

「各地へのパスが繋がっているあの魔法陣を中心に作りたいものがあるのだが、どうやらここは地脈の流れが非常に悪くてね」


 ジル・ニトラの言葉にスラシュがサッと顔を背けた。


「ここではあの魔法陣さえアニマが足りなかったはずだ。どうやって発動させたのかな? スラシュ」

「うっ……ごめんなさい! イグナートに足りない分のアニマを補ってもらいました!」

「ふむ? イグナートに?」


 訝しげな表情で俺を見るジル・ニトラ。


「その割には殆どアニマを消費していないように見えるが……イグナート。キミ、残りアニマ量はどのくらいかな?」

「いや……わっかんねぇな」

「わからない?」

「ジル・ニトラ様。イグナートのヤツは無尽蔵かってぐらいにアニマが多いんです。だから多分どれくらい減ってるとかわからないんだと思います」

「おい」


 スラシュ、余計なこと言ってんじゃねぇよ。

 その通りだけど。


「ふむ……いくら祝福を受けているとはいえ、あの魔法陣を発動してなお知覚できないほどアニマ総量が多いとは考えにくいのだがね」

「祝福? ……ってなんだ?」

「神の祝福だよ。キミやディナス、フィル、スラシュのような、明らかに人間離れした資質を持つ者たちは大抵、生まれながらに神の祝福を与えられている。ディナスは戦神ルギエヴィート、フィルは雷神ヴァルプリス、スラシュは風神ストリボークといったようにね」


 そうなのか。

 俺の場合、色々と人間離れしてるのはベニタマのせいだと思ってたんだが、もしかしたら神の祝福とかもあったのか?


「とはいえキミの場合はちょっとよくわからないんだがね。私も大体の神はわかるのだが、この世界は神の数が多すぎるのだよ。さすがの私も把握し切れない。なにかしらの祝福を受けているのは間違いないと思うのだが」

「そうか」


 この世界は前世の日本ほどじゃないが、本当に神が多いからな。

 大地の神とか俺が知ってるだけでもモロシィ、ゼムリャー、ポダカって三神はいるし。

 役割が被ってるじゃんとか思うが、それぞれ性格が違ったり治める地域が違ったりするらしい。


「まあそれはそれとして、それだけまだ余裕があるならぜひアニマ供給に協力してもらいたい」

「アンタが供給すればいいだろ。守護神ってぐらいだから俺より余裕なんじゃねぇの」

「私が直接アニマを供給すると『守護』の制約に触れてしまうのでね。つまりは反則というわけだ。それに私は『人類の守護竜』であって、『守護神』ではないぞ。元は神竜と呼ばれた身ではあるが、今はそこまで大した力はない」

「へぇ、そうかい」


 その気になれば世界を滅ぼせる力を持ってるって以前聞いた覚えがあるんだが、それでもパワーダウンしてる状態なのか。

 ……元はどれだけ凄かったんだよ。


「というわけで、やってくれるかな?」

「んー……アンタが直接アニマを供給すると守護の制約に触れるってことは、その作ろうとしてる物が直接、もしくは間接的に魔王を倒すのに役立つって意味だよな?」


 確かジル・ニトラは魔王を直接、倒すことはできない。

 魔王を攻撃するものを直接、守ることもできない。

 そういったことが守護の制約とやらに触れるからなのだろう。

 そしてジル・ニトラが『直接』アニマを供給すると、守護の制約に触れるということは……それはつまり、『そういうこと』なのだ。


「その通りだ。理解が早くて助かるよ」

「なるほどね、わかった。そういうことなら協力するが……その、アニマ供給が必要な『何か』を作ること自体は守護の制約とやらに触れないのか?」

「それはもちろん大丈夫だとも。なにせ私は指一本触れていないし、主導もしていないからね。すべては世界を憂いた彼らが自主的に動き、行うことだ。……まあ、たまに私のひとりごとを聞きにくることはあるが、決して私自身が指示をしているわけではないからな、問題ない」

「そうか」


 いや、まあ、本人が大丈夫だというのなら大丈夫なんだろう。

 俺は特に突っ込まない。突っ込まないぞ。


「では作業が完了したら呼ぶから、できる限りアニマを温存しながら待機しておいてくれたまえ。一応、供給が足りなかった場合は周囲の地脈からアニマを引っ張ってくる術式を組むこともできるが……それにはいかんせん時間が掛かりすぎるからな。キミの協力が重要になる。頼んだぞ」

「おう」

「それともうひとつ、頼みたいことがある」

「なんだ?」

「フィル、ディナス、スラシュ、イグナート……キミら全員で、作業中の彼らを守ってほしい。私が守ることはできないからね」


 ジル・ニトラは森の近くで作業する黒紫の集団を見ながらそう言った。


「そりゃ構わないが、全員で守る必要あるのか? ここらへんは危険な魔獣とかも少なそうだし、二人ぐらい近くで見張ってりゃ十分事足りると思うが」

「まあ平常時だったらそうなんだがね。どうやらこれからお客さんが大勢来るようだから、念の為というわけさ」

「お客さん? ……まさか」


 嫌な予感がした。

 耳を澄ませ意識を集中すると、地中で何かが動いているような音が聞こえてきた。

 しかも大量に。


「なに、急いで取り掛かれば三十分程度でこちらの作業は終わるだろう。その間だけ守ってくれればいい。キミたちなら容易なことさ」

「アンタにそう言われると大変なことが起きる前フリにしか聞こえないんだが」


 そんなことを言ってる間に地鳴りのような音は段々と大きくなっていった。

 すでに全員がその音をハッキリと聞こえているようで、勇者メンバー全員が武器を構えて戦闘態勢に入る。


「ほう、なるほど。そういう捉え方をするか。相変わらず面白いことを言うなキミは」

「相変わらず何が面白いのかサッパリわからんが、まったく戦えないならとっとと下がっててくれねぇか? 正直邪魔だぜ」

「はは、すまんな。キミのような人間は珍しいからね。つい話していたくなる。だが確かにこの場で私は邪魔だな。下がるとするよ」


 言葉通りにジル・ニトラはそのまま後方へと歩いて行った。


「イグナート、アンタ……怖いもん知らずだねぇ。守護神様を相手にあんなこと言うなんてさ」

「そうか? 別に大して怖い相手じゃないぞ。そんなかしこまる必要ないだろ。それにジル・ニトラは今『守護神』じゃなくて『守護竜』だってよ」

「それでも元神様であることには変わりないだろ? お怒りに触れたらどうすんのさ」

「んなの知るかよ。そんときゃそん時だろ」

「貴様ら、いつまでお喋りしてるつもりだ。――来るぞ」


 ディナスがそう言った次の瞬間、大地の揺れと共にひときわ大きい地鳴りが辺りに響いた。










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