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強欲のイグナート  作者: 霧島樹


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第四十八話「黒騎士」

 


「木が相当、薙ぎ倒されてるねぇ」

「そうですね。なにか大型の魔物が移動した跡のように見えます」

「む、まだアニマの残滓があるな。そう時間は経ってなさそうだ」


 それぞれ推測を口にする三人の話を聞きながら、俺は凄まじく嫌な予感がしていた。


「おい……おい、フィル」

「はい?」

「大型の魔物に遭遇したら面倒だから、こっちの方から進まねぇか?」


 俺が指差したのは不自然に開けた空間がある右斜め前方の反対、左斜め前方だ。


「そちらからだと、かなり遠回りになりますが……」

「いいじゃねぇか、たまには。距離的にはもうそろそろ魔王城が見えてきてもおかしくない距離なんだろ? それに今までの経験上、面倒事に遭遇した時の方が圧倒的に時間の消耗が激しい。体力的にも時間的にも、遠回りした方が結果的によりいい状態でより早く魔王城に辿り着けるはずだぜ」


 一気に畳み掛ける。

 俺としては今すぐ来た道を引き返して危機をやり過ごしたいところだが、ただでさえ旅の進捗が遅れている今それは不可能だ。

 だとすればあくまで効率という点を前面に出してリーダーであるフィルを説得するしかない。


「なんだい、やけに必死だねぇ、イグナート」

「そりゃあな。今までさんざんな目に遭ってきたからな」


 っつーかこんなモロバレの危険フラグ、誰だって回避しようとするだろ。


「……わかりました。確かにイグナートさんの言う通り、遠回りした方が結果的に時間を有効に使えるように思います。進行方向を変えましょう」


 フィルは少し考えたあとにそう言った。

 さすがフィル。

 戦いの際に手段を選ばない効率重視のフィルなら、そう言ってくれると信じてた。


「む、これは……剣戟けんげきの音か……?」


 そこでディナスが空気の読めない発言をした。

 おい。

 おいおいおい。


「剣戟の音? アタシには聞こえないけどね」

「ボクにも聞こえません」

「俺にも……」


 ……あ、意識を集中したら聞こえてきた。

 くっ、自分の超人的な耳が恨めしい。

 つーかなんでディナスは俺が聞こえなかったのに聞こえるんだよ。

 俺の聴力を超えるとか尋常じゃねーぞ。


「……気配がする」

「お、おいディナス……?」

「強者の、気配がする……!」


 そう呟いた瞬間、ディナスは凄まじい速さで森の中を疾走して行った。


「おいいいいいぃぃ! ディナスぅぅぅぅ!!」


 この戦闘狂バトルマニアがぁぁぁ!


「どこ行くんだいディナス!?」

「とにかく追いましょう!」


 スラシュとフィルに続いて俺も馬車を猛スピードで引きながらディナスを追いかける。

 進行方向にある木は高速移動する俺の体当たりで粉砕していく。

 一応その際、回復魔法を掛けて通り過ぎるので木は元通りになるが、なんだか気分は凄まじい環境破壊をしている気分だ。

 馬車なんかもう宙に浮いてるし、本当にこれバケモノだな俺。


 どれだけの距離を移動しただろうか。

 移動速度が速すぎる為よくわからないが相当な距離を進んだ後、おそらく常人でもハッキリとわかるぐらいに剣戟の音が聞こえてきた。


「……っとと」


 慌てて減速する。

 このまま行ったら高速で突進することになるし、途中でフィルとスラシュを置き去りにしてしまったからな。

 そんなわけで俺が周囲の気配を探りつつゆっくりと馬車を引いていると、ディナスが木々の間に突っ立って大人しくしているのを見つけた。

 しかもディナスにしては珍しく気配を殺している。


「美しい……」


 呟くディナス。

 その視線の先には高さ十メートル、横幅十五メートルは超えているだろう巨大な漆黒のグバルビル。

 そしてそれが出す無数の触手を相手に剣戟を繰り広げる、馬に乗った黒騎士の姿があった。


「おい、ディナス」


 俺がそう声を掛けた次の瞬間。

 唐突にこちらへ視線を向けた黒騎士と目が合った。

 その身は全身鎧に覆われておりフルフェイスの兜を付けている為か表情は伺えないが、感覚的に敵だとわかる、そんな視線だった。


『――――』


 声なき声、とでも言うのだろうか。

 黒騎士はなにも言葉を発してはいなかったが、その意思は不思議と伝わってきた。


 ――邪魔が入った。決着いずれつける。


 そして黒騎士は馬を駆り、踵を返して巨大グバルビルの前から去って行った。


「っ! 待て!!」


 それをまた更に追うディナス。


「おいおいおいおい! いい加減に……ってうおぁ!?」


 俺がディナスを追おうと足を踏み出したその時、漆黒の触手がこちらに向かって飛んできた。


「ぬしは……いつかの傭兵か」


 声は頭上から聞こえてきた。

 見上げると巨大グバルビルの背には以前、虫型魔物の巣で見た黒いローブの男が立っていた。

 相変わらずフードを目深に被っており顔は見えないが、声からして間違いない。


斯様かような地になんの用がある」

「なんの用って」


 これは正直に答えた方がいい場面なのか?


「イグナートさん! 大丈夫ですか!?」

「なんだいこのバケモノは!? っていうかディナスはどこ行ったのさ!」


 俺が言い淀んでいると、後ろからフィルとスラシュが追い付いて来た。

 それを見たローブの男が納得したように頷く。


「ほう、そういうことか。ぬしも人身御供の一員か。難儀なことよ」

「人身御供?」


 ちょっと聞き捨てならない単語だな。

 どういうことだ?


「ふむ……奴にとっては羽虫のようなものだろうが、中途半端に横槍を入れられても興ざめだな。ここで退場してもらうとしようか」

「いやなんかメッチャ勝手なこと言ってるけど、俺たちに戦う意思はねぇぜ? 別にアンタ、魔王側の勢力ってわけじゃねぇんだろ?」


 どっちかっていうと、魔王とは敵対する勢力に見えるんだが。


「そうか。ならば、ぬしらはここで来た道を引き返すがいい。どちらにせよぬしらでは奴に通用せん」

「それは試してみないとわからなくねぇか?」

「試さんでもわかる」


 断言かよ。

 なんかどいつもこいつも魔王が最強みたいな言い振りするよな。

 俺的にはウチの勇者メンバーも相当なもんだと思うんだが。

 特に無敵で不死身な戦闘狂バトルマニアのディナスさんとか。


「あー……わかった。そういうことなら、俺たちは引き返……」

「それはできません」


 俺の言葉に被せるようフィルが言い切った。


「い、いやフィル。あのな、ここは……」

「ボクたちは全人類の未来を背負っているんです。ここで引き下がることができません」

「いやまあそうなんだけどな……」


 とりあえず余計な戦闘を回避したい俺の気持ちもわかって欲しい。

 フィルのこういう、ここぞというところでの空気の読まなさは本当に困ったもんだ。

 戦闘で手段を選ばないくせに変なところで真面目だからなぁフィルは。


「ならば戦うしかあるまい」


 ローブの男がそう言うと、巨大グバルビルから無数の触手が俺たちに向かって襲い掛かってきた。








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