第三話「体格」
青年クラスの建物前には大きな畑があり、その畑の向こう側には深い森がある。
森からは定期的に魔物が出てくるため、この孤児院の子ども達は少年クラスに上がると魔物対策としてそれぞれ専門の戦闘術科を選び鍛錬をするようになる。
青年クラスになったら自分たちで畑や孤児院を魔物から守らないといけないからだ。
諸事情により国は守ってくれないらしい。
戦闘術は剣術科、槍術科、弓術科がメインの三科目で、ここに非戦闘員である治癒魔術科、生活科が加わり科目は全部で五科目。攻撃魔術は教えられる人間が居ないので無しだ。
本当だったら幼年クラスから少年クラスに上がってきたばかりの子どもはまだ身体が出来ていないため、十歳頃までは生活科がメインでサブに戦闘術科を選ぶのだが、俺は院長とイルミナさんに頼み込んで戦闘術科をメインで生活科をサブにしてもらった。
身体はもう十歳ぐらいだからな。
そういうわけで俺は少年クラスに入り、戦闘術科から剣術を選んでさっそく十歳相当の戦闘訓練を受けたのだが……。
ビックリするぐらいに周囲の子ども達と差があった。
俺が弱いという意味で。
早い子どもは三歳から訓練しているとはいえ、まさか十歳前後の子ども達とここまで差があるとは……。
なぜか根拠もなく、『才能に溢れる俺と、その強さに驚愕する少年たち』という構図を思い浮かべてワクワクしていた俺は、厳しい現実に打ちのめされた。
その後も色々な出来事があったが、結論から言うと、俺にはどうやら剣の才能が無いらしい。
教官に面と向かってそう言われた。
じゃあ他のはどうなんだ、ということで槍術、弓術も試したのだが、そっちは剣術以上にダメだった。
治癒魔術の適性は貴重であるため剣術の前に試していたから結果は既に出ている。
もちろん適性無しだ。
…………これ、人生詰んでる?
そう思いひとり愕然としていたが、たまたま近くに居た少年に「最初はみんなそう言われるもんだよ」と肩を叩かれ慰められた。
……あぁ、あれか!
これ、最初はボロクソにして根性叩き直してやるみたいな軍隊的なノリなのか!
危ねえ……俺、早くも心折れかけてた……。
教官の言葉は話半分に聞いて真に受けないようにしよう……。
○
少年クラスに入って本格的に剣術を学んでから一年後。
俺は三歳になり、最初に肩を叩いて声を掛けてくれた少年の言葉が優しいウソだということを知った。
つまり、剣術が全然上達しない。
いや、俺からしたら間違いなく上達している感覚があるのだが、周りからすると大して変わってないらしい。
ひどい。
「しっかし、イグナートはホント体格だけだよな」
「うん、体格はマジですげぇけど、それだけだね」
訓練の休憩中。
同じ剣術科の少年二人が俺を見上げながら言う。
「うるせぇ。俺はまだ剣術歴一年で、しかも三歳だからな? 俺がおまえらぐらいの歳になったらなぁ、今の十倍は強いんだからな、覚悟しとけよ」
「……今のイグナートが十倍強くなったところで、大して変わらねーよな」
「変わらんね。オレらだったら余裕だね」
「……うるせぇ」
少年二人にこき下ろされる俺。哀れである。
しかし、この二人は少年クラスで一番目、二番目に強く、さらに言えば『剣術科が誇る二人の天才』と他の世代でも知られている神童コンビなのだ。
そんな二人と俺がこうしてツルんでいるのは単純に実力が拮抗しているからなので、これは誇って良いことである。
……というのは悲しいウソで、本当のところは他の人間だと手応えがない、という理由で相手をしてもらっているだけなのであった。
ここで疑問に思う人もいるかもしれない。
剣術が一年前からさほど上達してない俺が、なぜ他の年季入った少年剣士たちを抑えて誉れある天才二人組の相手をしているのか、ということを。
「しっかし、それにしてもな……」
「あぁ……ね、マジでね」
俺を見上げながら改めて呟く二人。
……まぁ、大体もう予想がついたと思う。
「ホントに……体格だけはすげぇよな」
「うん……デカ過ぎだよね」
イグナート、男、三歳。
今年に入って身長が――約三メートルになりました。