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強欲のイグナート  作者: 霧島樹


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第三十八話「生命の森」



 生命の森には荒野を出てから約半日ほどで辿り着いた。

 見た目は巨大な大樹が立ち並ぶ深緑の森だな。


 そんな森の中をしばらく進み、すっかり日が暮れた頃。


「フィル、今日はこの辺りで野宿にしないかい?」


 スラシュが先頭を進むフィルに声を掛けた。


「少し早くありませんか?」

「この近くに綺麗な湖があるからね。水魔石のマギー・アーツがあるとはいえアレはアニマをかなり使うし、温存できる時は温存したいからさ」

「そうですね……では、そうしましょう」


 スラシュの提案にフィルが頷く。

 スラシュは狩人として生命の森と帝国を行き来していた時期があるらしく、この辺りの地理は熟知しているらしい。

 馬車を止めるのに最適なスポットをサクッと探し出し、三頭の馬にそれぞれエサを与え、湖へ水を飲ませに行った。


 その間フィルは焚き火に使う薪を集め、ディナスはそれを無駄にカッコイイ剣さばきでちょうどいいサイズにして、俺はその薪に火魔石のロッド型マギー・アーツで火をつけた。

 それを見たディナスが訝しげな顔で俺に話しかけてきた。


「む? イグナート、貴様なぜマギー・アーツを使っている? 確か貴様は火の属性持ちだろう?」

「……俺は、火の属性持ちじゃねぇ」

「なにを言っている。大会ではマギ・アーツを使ってはいなかっただろうに。今更しらばっくれても遅い」

「知らん。見間違いだろ。誰がなんと言おうが、俺は火の属性持ちじゃねぇ。事実無根だ。んなデタラメ、言い触らすんじゃねぇ」

「なにを言ってるのかよくわからんが……貴様がそういうつもりならば、そういうことにしておこう。その代わり後で」

「戦わねぇぞ、おまえとは」

「くっ、私はまだなにも言ってないぞ!」

「おまえが言うことなんざわかってんだよ、戦闘狂が」

「ぐぬぬ……!」

「……アンタら、なにやってんのさ」


 馬を引き連れて湖から戻ってきたスラシュが俺とディナスを見てため息をつく。


「ま、いいさね。湖で水浴びしたい人いるかい? 今日はこの辺りに誰も居なさそうだから貸し切り状態だよ」

「あ、ボク浴びたいです」

「それじゃ先に行ってきな。アタシはその間に獲物を狩るよ。生命の森にいるうちはなるべく食料も温存したいからね」

「では私は調理に回ろう。水が豊富に使えるから今日はシチューでいいか?」

「いいんじゃないかい? フィルとイグナートは?」

「いいと思います」

「あ、あぁ……いいぜ」


 そんな風に段取りが決まり、フィルは水浴びへ、スラシュは獲物を狩りに、ディナスは調理をすることになった。

 今回フィルは大した仕事をしていないように見えるが、ディナスに聞くところによるといつもこの三人はローテーションというか、それぞれの役割を交代交代でやったりするため特に不公平ということはないらしい。


 そんな中、俺は今回食べられる野草やキノコの採取を任せられた。

 なんでも生命の森に生えている植物はその殆どが食べられるらしく、特に採取の知識は必要ないとのことだった。


「なんつーか、至れり尽くせりな森だなぁここは」


 俺はそう言いながら採取用のカゴに取りまくった、山のような野草やキノコをディナスに渡した。


「そうか?」

「そうだろ。人を襲う魔物どころか、獣も草食動物しかいなくて、植物は毒性があるものは皆無。湖は綺麗で飲めるし、気温は寒くもなく暑くもなく……」

「そう言えばそうか。確かに、そう聞くと楽園のようだな」

「だろ? 食うに困るヤツとか全員ここに住めばいいじゃねぇか」


 生命の森の木は生だと鋼よりも硬いらしいから、家を建てるのは難しいかもしれないが、食い詰めた人間にとっちゃ些細な問題だろう。


「そうだな、実際、そのように考えてこの森に逃げ込む人間は多いらしい。だがこの森のことが知れ渡って以来、ここに定住しているという人間は未だかつていないという」

「んん? おかしな話だな。なんでだ?」

「なぜかな、定住しようとして生命の森に来ると、森に『まれる』らしい」

「……は?」

「一説によると、この理想的な環境に引き寄せられて住み込んだ人間の命を吸って成長するから『生命の森』、なんてことも言われているな。もっと直接的に別名で『死の森』なんて言われたりもするが」

「…………」


 デッカい食虫植物かよ……。


「それ……大丈夫なのか? 今回の旅のうち半分くらいはこの森を移動するんだろ?」

「定住しなければ問題はないらしい」


 そう言いながら手際よくシチューの仕込みをしていくディナス。


「なるほどね……」


 この森は人の命を吸って成長する、か。

 なんだかそう聞くと、自分が取ってきた野草やキノコの食材的魅力が急に薄れてきたな……。

 ぶっちゃけ食べたくねぇ。


「それにしても、アレだな、ディナスって……」

「なんだ?」

「料理、できるんだな」

「できるぞ。美味うまい料理は心身を整えるのに重要だからな。 心技体揃わねば至高の戦いは望めない。ゆえに、戦神ルギエヴィート様を奉じる我らが一族に調理技術は必須だ」

「そこは料理人でも雇えばいいんじゃねぇのか?」

「我らが一族は古来より敵が非常に多くてな。しかも真正面からりあっては勝ち目がないと、毒殺を試みる者が後を絶たぬ。となれば自分たちでやる他ないだろう」

「そうなのか……」


 料理が上手い戦闘民族とか、なんだか違和感が激しいのは俺だけだろうか。


「なんだ、なにか言いたそうだな」

「いや、ディナスは戦い以外なにもできないと思ってたからな。ビックリしてただけだ」

「……貴様は私をなんだと思っているんだ」

「戦闘狂」

「私は戦いを至上としているだけであり、戦闘狂ではない!」

「俺にとっちゃどっちも変わらんよ。ただ迷惑なだけで」

「ぐぬぬ……!」

「……アンタら、ホントに仲良いねぇ」


 いつの間にか戻っていたスラシュが俺とディナスを見ながらため息をついた。

 あ、デジャヴ……じゃねぇな。

 これ今さっきも同じようなことやってたわ。


「ほらディナス。皮は剥いだから。あとは任せた」

「うむ、任された」


 スラシュは血の滴る大きな肉の塊、その足部分を持ってディナスに手渡した。

 形から見るに、元は巨大な鳥……だろうか。


「む、イグナート、火が弱まってきた。薪の追加を頼む」

「へいへい」


 その後しばらくしてからフィルが水浴びから戻り、皆でディナスが作ったシチューを食べた。

 シチューは味付けが絶妙でメチャクチャ美味かった。

 っていうか前世から現在に至るまでの中で食べたどんなシチューよりも美味い。

 何杯でも食えるぞこれ。


「イグナート、どうだ? 味は?」

「うめぇ」

「フッ……そうだろう、そうだろう。おかわりはいるか?」

「くれ」


 空になった木の器をディナスに手渡すと、山盛りでシチューをよそってくれた。


「まだシチューは沢山ある。いっぱい食べるといい」


 ドヤ顔で言うディナスは戦っている時とは違い、妙に幼く見えた。


「そういや、ディナスって年はいくつなんだ?」

「私か? 今年で十六になるな」

「マジか!?」


 普通に二十歳は越えてると思ってたんだが、予想以上に若かった。


「はー、なるほどねぇ……」

「………………アタシには聞かないのかい?」


 再びシチューを食べ始めようとしたところ、スラシュがジト目で聞いてきた。


「え……聞くって、なにを?」

「年だよ、年」

「ん、ああ……いや、ほら、なんだ……女に年を聞くのは失礼だろ?」

「ディナスだって女だよ」

「こいつは若いから……あ」


 やべ、口が滑った。


「アンタねぇ……」


 ゴゴゴゴゴゴゴゴ、と空気が震える音がした。

 ちなみに比喩表現ではない。

 スラシュが風の属性持ちだからか、マジで空気が震えている。


「いったい、アンタの目にはアタシがいくつに見えるんだい……」

「あー…………さん、いや、二十代後半……か?」

「アタシはまだ二十四だよ!!」

「なにぃ!?」


 こっちも予想以上に若かった!


「あ、いや、老けて見えるとかじゃなくてだな、その、随分と大人っぽいというか、妖艶な魅力がというか……」

「風よ!!」

「ぐあばぁ!?」


 腹を突き抜けるような衝撃を食らい、俺はそのまま数十メートルの距離を吹っ飛んだ。


「帝都で言ったよなぁアタシは! 次にオバサンって言ったら脳天ブチ抜くって!」

「オバサンとまでは言ってねぇだろぉ!?」

「言ったも同然だよ!!」


 その後、大樹を背に空気の砲弾でメッタ打ちにされた俺は例の如く、風の属性をコピーさせてもらった。

 フィルの電撃と違って硬化のアニマを通り抜けることはなかったからダメージはほぼ無かったが……いやはや、理不尽なことだ。


 俺は今後スラシュの前で年齢の話をするのは止めよう、と心の中で固く決意した。










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― 新着の感想 ―
[気になる点] ディナスが16歳って、第二十四話「調停の魔術師」でアルカディウス杯は7年に一度と書かれており、第二十六話「限界突破」にて前回と前々回はディナスが優勝していると書いてあったので、当時2歳…
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