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第二話「仕事」

 あれからというもの。早朝に院長の部屋に行って本を借りて、暇さえあれば言葉を教えてもらい、その過程で情報収集をする、というのが日課になっていた。


 ただ暇さえあればとは言っても、幼年クラスの子どもたちが起きたらまず布オムツを取り替えて川に洗濯へ行かなくてはならない。

 洗濯が終わったら水汲み、それが終わったら朝食兼昼食の準備と、実は毎日夕方までやることは山積みのため、どっちにしろ時間はそんなに割けない。

 院長もなんだかんだで色々と多忙だし。


 ……なぜ、俺が子どもたちの世話、つまりイルミナさんの手伝いをしているのか。

 それは、『働かざる者食うべからず』というような方針がこの孤児院では徹底されているからだ。


 自分のことを自分でやるのは当たり前、さらに言えば食わせてもらってるんだから仕事をするのは当たり前。

 当然と言えば当然の理屈である。


 だから俺やイルミナさんが世話をするのも、ほとんどは生後まもなくから二歳前後までの子だけで、それ以上の子は身の回りのことはすべて自分でやらせるようになっている。


 たまに甘えて自分でやろうとしない子もいるが、そういうのは完全に放置だ。

 まぁ大体は周りの大きい子が手伝ってくれるけど、限度を過ぎると泣き叫ぼうが何しようが誰も手を貸さない。


 っていうか、そうでもしないと日々の生活が回らない。

 この孤児院は運営する大人も含めて総勢百人近くいるという大所帯だが、みんな生活のために例外なくそれぞれの役割、仕事を持っているのだ。

 とても余裕なんかない。


 生活の糧は自分たちで畑を管理して作物を取ったり、近くの森から狩りなどで獲物を取り自給自足だし、自分たちで賄えない物や、必要な物もあるため森林を伐採して木材を売るなどの金策もしているらしい。


 建物が前世で言うところの教会のような形をしているので、この孤児院は宗教団体か何かが寄付金で運営しているのかと思っていたのだが、どうやら違うようなのだ。


 地道な情報収集の結果わかったことだが、建物自体は確かに元教会だった。

 ただこの孤児院自体は教会と直接の関係はなく、運営元はなんと院長個人らしい。

 一度院長にその辺りを詳しく聞こうとしたのだか、あまり昔の事は話したくないのか途中ではぐらかされてしまった。


 ただ情報収集は大切だ。

 というわけで、院長から聞くのはあきらめてイルミナさんから聞いたところ、ここは元王国軍のお偉いさんだった院長が退役後に始めた孤児院で、教会の建物を使っているのもその頃のツテだそうだ。


 この孤児院がどういった理由で設立されたかも聞いてみたが、その辺りはイルミナさんにもはぐらかされてしまった。

 もしかしたら院長が軍を退役した事と関係があるのかもしれない。




 ○




 俺がイルミナさんの仕事を手伝い始めてから一年半ほど経ったある日。


「ねぇ、なんでイグナートはここにいるの?」


 川の水汲みから幼年クラスに戻ってきた後、唐突にクラスの幼女から言われた。


「え……なんでって……どういうこと?」


 俺は自分の前に腕を組んで立ち塞がる幼女に聞いた。

 彼女はアリスといって、赤毛の髪と顔のそばかすが印象的な女の子だ。


「だって、イグナートは大きいでしょ! 大きい子は少年クラスに行かなきゃいけないんだよ!」

「あー……まぁ、そうだけど……」

 

 俺に向かって鼻息荒くにじり寄るアリス。

 確かに周りの子と比べて俺は大きい。

 現在俺は約二歳だが、体格はもう既に小学校高学年並みになっている。

 元の世界だったら、『おい、信じられるか……? コイツ、これで二歳なんだぜ……?』とか言われてもおかしくないレベルだ。

 でも二歳であることは間違いないので、それは言っておくとする。


「俺、アリスと同じで一応まだ二歳だからさ……?」

「ウソ。絶対ウソでしょ。二歳でそんなに大きい子、どこにもいないんだから!」


 うん。俺もそう思う。

 でもビックリなことに、これウソじゃないんだよな……。


「大きい子は大きい子の仕事をしなきゃいけないんだから! サボらないでちゃんと働いてよ!」

 

 サボらないでときたか。

 子どもの世話って、メチャクチャ大変なんだけどな……。

 でも、アリスの言いたい事というか、意図もわかる。


 アリスはこの歳にしてはかなりのしっかり者で、頭も非常に良い。

 っていうか前の世界基準で言えば、普通の二歳児は一言二言しか喋れなくても全然おかしくないので、比較すると完全に超天才児だ。


 そして彼女は自分のことを幼年クラスのリーダーだと思っているのだろう、いつも率先してイルミナさんの手伝いや周りの子の世話をして、同い年ぐらいの子には指示を出したりしている。

 いわゆる、責任感の強い仕切りたがりタイプだ。


 そんな彼女と俺はある意味、役割と言うか、立場が被っている。

 実際最近ではアリスが上手く周りの子たちを指揮しているため俺の仕事も大分減ってきていた。

 人を動かすという点では俺なんかよりよっぽど優秀である。


 だからここは自分に任せて、俺はここを卒業しろと、そういうことだろう。

 確かに俺はもうここ以外の仕事を出来る体格と頭を持っている。

 イルミナさんも、どうしても忙しかったら少年クラスから人手を呼べばいいだけの話だしな。


 今の自分が出来ることを全力でやる。

 それはこの孤児院での不文律である。

 ……まぁ、ただ単にアリスにとって俺が目障りなだけという可能性もあるが。

 

 その旨をイルミナさんに伝えたら、あっさりと少年クラスへの移動が許可された。

 かなりの戦力になっていた自負があったので拍子抜けではあるが、先ほど前述したようにここ最近はアリスのおかげで仕事も大分減ってきたからな。

 そんなものか。


 そんなわけで、明日から少年クラスに移動だ。

 今からとても楽しみである。

 それはなぜか?


 ――少年クラスでは、戦闘訓練があるからだ。




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