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第百八十五話「復讐者」

「なっ……!?」


 あまりにもショッキングな光景に思わず後ずさる。


「ん……ふぅ……これだけの密度がある宝玉を食うのは、随分と久し振りだ。フフ……質量だけで言えば過去最高かもしれん。さすがの私も体が重いよ」


 人間じゃまずありえないほどに大きく口を開き宝玉を飲み込んだジル・ニトラは、まるで妊婦のように膨らんだ自分の腹を愛しそうに撫でながら言った。


「さて……もうしばらくはアニマの消化に時間が掛かる。その間は退屈だ。もっと抗ってくれ。私はキミが足掻く姿を見るのが大好きなのでね」

「悪い趣味だな」

「キミに期待しているのだよ。今も……まだ何か、隠しているのだろう?」


 ジル・ニトラは艶めかしい仕草で舌舐めずりをしながら、ニヤリと笑った。


「目の奥に希望が見えるぞ。ククク……全部出し尽くしてくれたまえよ? 人間は希望をことごとく折って、絶望に染まってからが本番なのだから」

「そんな本番はまっぴらごめんだな」


 俺は魔法障壁から離れると、ジル・ニトラを睨みつけながら言った。


「それに……絶望に染まるのはおまえのほうだぜ、ジル・ニトラ」

「ククッ、随分と自信があるようだね。良いとも、早くしたまえ。今だけがチャンスだぞ? ここを逃せばキミに勝ち目は万が一もない」


 絶対的強者であるがゆえの傲りなのか。

 ジル・ニトラは余裕の態度を崩さず、俺を煽ってみせる。


「そうか。なら遠慮なく。――ヴィネラ!」

『…………あら、もう呼び出すの? 早いわね』


 時間差で俺の体から半透明のヴィネラが顔を出すと、ジル・ニトラは目を大きく見開いて笑い声を上げた。


「クハッ……クハハハハハハハハハハハ! そうかそうか、キミの切り札はヴィネラか! 道理で自信満々だと思ったよ!」

『ふうん? 随分とご機嫌ね、ジル・ニトラ』


 ヴィネラは俺の体から出てゆっくりと空中へ浮かび上がって言った。


『何か良いことでもあったのかしら?』

「ククク、当然だとも! 良いことしかないさ!」

『あらそう? なら神の力を使う算段はついたのね』

「ああ。しかもキミがイグナートを育ててくれたおかげで、万全の状態で事に挑めそうだ。これなら、わざわざ迂遠な方法を取る必要もないかもしれんぞ?」


 ジル・ニトラがニヤリと笑いながらそう言うと、どこか親しげだったヴィネラの態度が一転して冷たくなった。


『それは……どういう意味なのかしら?』

「無論、キミが想像する通りだよ。労力を掛けて使わずとも、私が神を核ごと喰らえば良い」

『協定違反よ?』

「クックック……だとすれば、どうする? 力ずくで止めてみるか?」


 ジル・ニトラの挑発を受けて、ヴィネラはため息をつきながら片手を前に突き出した。


『どうやらアナタは少し、反省が必要なようね』

「ああ、それはぜひともさせてもらいたいものだ。――できるものならな!」


 ジル・ニトラが指を鳴らすと、瞬時にしてヴィネラが赤い正方形の魔法障壁に囲まれた。

 そして間髪入れずに魔法障壁が赤い閃光を放つと、次の瞬間、中に居たはずのヴィネラは跡形もなく消えていた。


「クハハ! やはり霊体には効果覿面だな!」

「……マジか」


 ヴィネラ……メチャクチャあっさりやられちゃったよ。

 いや、あいつは分体がどうとかで不死身らしいから、別に大したことはないんだろうけど。

 それにしてもあっさりすぎる。


「フフ、私がヴィネラを攻撃できないとでも思ったか? 彼女は人間の姿をしてはいるが、その魂は異質な別物だ。私の制約には引っ掛からないのだよ。そして――」


 ジル・ニトラがそう言いながら片手を上げると、城の床全体に赤い光を放つ幾何学模様が浮かび上がった。


「――これで、ヴィネラはこの城に近づくことはできない。ククク……私が、私をおびやかす可能性のあるヴィネラに対し、なんの対策もしていないとでも思ったか?」

「それは……」


 俺は正直に答えた。


「……特に考えてなかったな」

「甘い、甘いぞイグナート。まさかこれで終わりじゃないだろうな? だとしたらガッカリだよ。キミならもう少し私を楽しませてくれると思ったのだが……この程度なのか?」


 玉座に座り直して足を組んだジル・ニトラは、肩をすくめて嘲るように笑った。

 俺は手に持つハルバードに再びアニマを込めながら答える。


「おまえを楽しませるとかはどうでも良いが、まだ終わってないぞ」

「ふむ? 何か新しい技でも見せてくれるのかな?」

「いや、そんなもんはないし、必要もない」


 両足にもありったけのアニマを込めて、()()()()()を計る。


「予言するぜ、ジル・ニトラ。おまえは俺を閉じ込めておけなくなる」

「ほう? それはなぜかな?」

「簡単な話だ。余裕がなくなるんだよ」


 俺がそう言うと、ジル・ニトラは口元の笑みをそのままに目を細めて話を続けた。


「なるほど……本気で言っているようだな。しかし不可解な話だ。キミは何かを待っているようだが、ヴィネラはもう来ないぞ? ヤツの性格上、この城を丸ごと壊すなどといった手段も取るまい。万が一そうしたとしても私は対処できるがね」

「俺は最初からヴィネラ自体を当てにしてたわけじゃない」


 直後、ジル・ニトラはこちらに向かって超高速で接近してくる気配を感じ取ったのか、ハッと空を見上げた。

 あと少し……あと少しだ。


「ヴィネラにはただ、運び屋をやってもらっただけだからな。あいつがこの城に近づけなくても問題はないんだよ」

「まさか……ハハッ! イグナート! 『彼』を動かすとは……いったいどんな手を使ったんだ!?」

「どんな手も何も」


 ハルバードを大きく振りかぶり、魔法障壁に叩きつける。

 それと同時に空から超高速で落ちてきた青黒い肌の男が、ジル・ニトラ目掛けて手に持った剣を振り下ろした。


「ただ信用できるヤツに話をしに行ってもらっただけだ。――『あんたの殺したい相手が世界規模で悪巧みしてるから、止めてくれ』ってな!」


 魔法障壁が割れた瞬間に縮地を使い、玉座方面へと跳ぶ。

 ジル・ニトラは玉座から飛び降り、突如として現れた刺客からの攻撃を防いでいるようだった。


 案の定、ジル・ニトラは俺をさらなる魔法障壁に閉じ込める余裕などまったくないらしい。

 ヤツは俺がすぐそばまで接近してからやっとこっちを振り向いた。


「クハッ……クハハハハハハ! 良い! 良いぞイグナート! まさかここでゼタルが来るとは! やってくれるじゃないか! 見直したよ!」

「そりゃありがとよ!!」


 ジル・ニトラは魔王ゼタルの攻撃を幾重にも重ねた魔法障壁で防ぎながら、俺が振り下ろしたハルバードも同様に防いでみせた。

 ヤツには俺と魔王ゼタルを同時に閉じ込めるほどの余裕はないようだ。

 しかし、その攻撃を同時に防ぐ程度の余力はあるらしい。


「下がっていろ大男」


 ダークシルバーの長髪に青黒い肌をした黒衣の男、魔王ゼタルは目にも留まらぬ速さで剣撃を繰り出しながら言った。


「邪魔だ」

「そうは言ってもおまえ、ひとりでコイツ倒せるのかよ!?」

「問題ない」


 魔王ゼタルがより一層踏み込んで神速の突きを放つ。

 それをジル・ニトラが幾重にも重ねた魔法障壁を使い、自らの眉間に刺さるギリギリのところで止めた。


「フハッ……ハハハ! 危ない危ない! あと少しで……ぐっ!?」


 ジル・ニトラが、()()()()()()()()()()を見て驚愕する。


「ひとりではないからな」


 魔王ゼタルはそう言うと、動きの止まったジル・ニトラの両腕を瞬時にして斬り飛ばした。




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