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第百八十話「王座の間」

「ここは……?」


 広く高い天井に巨大なシャンデリア。

 きらびやかな内装と赤い絨毯の先にある低い階段。

 そしてその階段上にある豪華なイスに、ジル・ニトラは足を組んで座っていた。


 俺はここがどこなのかは知らない。

 だが見た目と状況からして予想はできる。


「帝国城の……玉座の間か?」

「フフ、ご明察」


 離れた場所からでもよく通る声でジル・ニトラが言う。


「とはいえ他に該当するような場所もないから、当然の推察ではあるだろうがね」

「……そこに座っていたはずの皇帝はどうした?」

「皇帝ならキミの後ろにいるよ」


 ジル・ニトラの言葉で後ろを振り向くと、少し離れた場所で干からびた死体が山積みになっているのが見えた。


「皇帝は確か……あれの一番上に積んである死体かな? フフ、事を運ぶのに障害となるから、一足先に退場してもらったよ。城の兵士たちと一緒にね」

「人間に手出しはできないんじゃなかったのか」

「無論、手出しはできないさ。しかし、手を出したのは私ではない。ゆえに問題はないのだよ」

「……そういうことかよ」


 つまりいくらでも抜け道はあるということだ。

 とうとう本性を出してきたってところか。


「言いたいことや聞きたいことは山ほどあるが、それはひとまず置いておく。先にティタを治してくれ」

「ああ、彼女か。フフ、運が良かったね。まさか生き残るとは」

「っ……」


 ジル・ニトラへの怒りを歯を食いしばって耐える。

 待て、まだだ、まだその時じゃない。

 そう自分に言い聞かせながら両手でティタを差し出すように持ち上げる。


「……早くしてくれ」

「ふむ、キミを労うために彼女の状態を確認したいのは山々なんだが、そうも離れられていると難しいな。もっと近くに寄ってくれれば……」

「ダメだ。おまえならそこからでもティタの状態を確認できるはずだ」


 俺はジル・ニトラのセリフを食い気味に言い切った。

 するとヤツは目を丸くしたあと、何が面白いのかくつくつと笑いだした。


「おやおや、随分と警戒されてしまっているようだね。それとも私の実力を買っているのかな?」

「両方だな。で、どうなんだ? 俺はおまえならそこからでもティタの状態がわかると思ってるんだが」

「クックック……本当に離れていては難しいんだがね。しかしそこまで言われては、期待に応えるしかないな」


 ジル・ニトラはひとしきり笑ったあと、頬杖をつきながらティタに視線を向けた。

 それから目を細め、銀色の瞳を怪しく光らせたかと思うとすぐに目を閉じた。


「ふむ……」

「おい、なんで目を閉じてんだ。もうわかったのか?」

「落ち着きたまえ。物理界ではなく、幽星界を通して診ている」

「……そうかよ」


 詳しいことはよくわからないが、言いたいことはなんとなく伝わった。

 ふざけているわけじゃないのであれば、こちらからは何も言うことはない。


 そして王座の間に静寂が流れ、数十秒後。

 ジル・ニトラはゆっくりと目を開け、微笑みながら呟いた。


「フフ……これは難しいな」

「難しいって……どういうことだ?」

「魂を半分以上、失っている。おそらく魔法陣で急激にアニマを吸収された結果、魂も一緒に吸われてしまったのだろう」


 ジル・ニトラは話している内容の悲惨さとは裏腹に、ニッコリと笑いながら言った。


「だが安心したまえ。非常に難しい処置となるが、私ならば彼女を治せる」

「……それは本当だろうな?」

「フフ、疑り深いね。以前、キミが似たようなことになった時もちゃんと治してみせただろう?」

「俺の時と今回じゃ状況が違うからな」


 そう口では言いながらも、俺はティタが治せると聞いて安堵していた。

 そんな内心を気取られないよう、あえて軽い調子で話す。


「まあでも、それなら良かったぜ。んじゃさっさと治してくれ」

「任せたまえ。彼女がこうなった事自体、元はといえば私が原因だからね。では……渡してもらおうか」

「渡す?」

「キミが取ってきた宝玉のことだよ。いくら私といえど、彼女を治すにはそれなりの準備が必要になる」


 ジル・ニトラは美しい白銀の髪を指で弄りながら目を細める。

 それからゾッとするような、妖艶かつ不気味な笑みを浮かべて言った。


「そして、そのためには宝玉……正確には宝玉に溜まった大量のアニマが必要なのだ。何しろ魂の再生という大魔術だからね」

「…………そうか」


 話の筋は通っているように聞こえるが……どこか怪しく思える。

 根拠は何もない。

 だがこの宝玉をヤツに渡したら、何か取り返しのつかないことになりそうな気がする。


「おまえの言いたいことはわかったが、俺としてはもう少し確認したいことがある」

「ほう? 何を確認したいのかな?」

「ルカは今どこにいる?」

「アルカディウスか。彼なら私の屋敷にいるが?」

「ここに連れて来れるか?」


 ジル・ニトラは信用できない。

 その点、ルカはジル・ニトラと比べたら雲泥の差で信用できる。


 もちろん『比べたら』という前提においてであり、付き合い自体は浅いから無条件でルカの言葉を鵜呑みにするわけにはいかないが……何の判断材料もないままでジル・ニトラの話を受け入れるよりかはよっぽどマシだ。


「ふむ……良いだろう。いずれにせよアルカディウスは儀式に呼ぶつもりであったからな」


 ジル・ニトラがそう言いながら指を鳴らすと、俺のすぐそばに光り輝く魔法陣が現れた。

 そして例のごとく眩い閃光が放たれる。


「わっ……っとと、いきなりだなぁもう。儀式の準備はできたの? ジル……あれ?」

「おう、数時間ぶりだなルカ」

「ああ、イグナートもこっちに着いたんだ。ってことは宝玉は無事、手に入ったんだね?」


 俺を見たルカはにこやかに笑いながら聞いてきた。

 ……こうして反応を見る限り、ルカはジル・ニトラが仕掛けた地下迷宮の『罠』を知らなかったように見える。


「それに関してはちょっとした事件があったから、俺の記憶を読んでくれ」

「え? 事件? ………………うわぁ」


 俺の記憶を読んだのか、ルカは顔をしかめて呟いた。


「なんてことを……ちゃんと話してアニマ供給してもらえば良いのに……ジルはもう、ホントに……」

「事情はわかったか?」

「ああ、うん、わかったよ。それでボクは彼女の状態を確認すれば良いんだね?」

「そういうことだ。頼む」


 さすがに記憶が読めるヤツは話が早い。

 俺はその場に跪き、ルカの背に合わせてティタを差し出した。

 ……もちろん、ルカに対する警戒も怠らない。


「大丈夫だよ。キミがボクの目的を妨げない限り、ボクはキミに害するような行動をするつもりはないから。もちろん、この子相手にもね」

「まあ俺もなんとなくそんな気はするんだが、今まで散々な目に遭ってきてるんでな」

「心配性だね。でも気持ちはわかるよ」


 ルカはそう言って苦笑すると、ティタに両手をかざして静かに目を閉じた。


「じゃあ診るよ。……幽星界に没入、『魂分析』『損傷度合』」


 ルカの両手が白く輝き、淡い光がティタの全身を包み込んでいく。

 するとティタがふっと軽くなって……すぐ元に戻った。

 それから淡い光も徐々に小さくなり、完全に消えたところでルカは口を開いた。




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