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第百七十七話「埋め合わせ」

 ティタに続いて階段を下り、地下迷宮の中へと足を踏み入れる。


「へぇ……地下迷宮って割には綺麗だな。明るいし」


 壁や地面は白いレンガのような石材で出来ており、天井付近にはランプも配置されている。

 全体的に清潔感があり整っている印象で、以前に入った『渇望の地下迷宮』とは大違いだ。


「状態保持の魔法が掛けられてるって、ジル・ニトラ様が言ってた」

「魔法? 魔術じゃないのか?」

「初代皇帝が不思議な力で作ったから魔法」

「あー……なるほど」


 ティタの言葉でここはルカが初代スヴァローグの力を使って作った地下迷宮であることを思い出した。


「不思議な力か……」

「何かおかしい?」

「いや、魔術が使えない俺にとってみれば、魔法と魔術はどっちも不思議な力だな、と思ってな」


 だいたい、この世界ではファイアーボールみたいな初歩の魔術でも精霊が無詠唱で使ったり、属性持ちが無詠唱で使ったりするだけで魔法って呼ぶからな。

 そのくせ魔術にも無詠唱はあるっていうから頭がこんがらがる。


「厳密には世界の(ことわり)を理解して、媒体を用いながら魔術式を演算して使うのが魔術。理を理解せずとも自分が『それ』を持ってて、意識するだけで手足のように使えるのが魔法、みたいな感じの定義があるらしいんだけどな」


 ……と、王国大学の魔術講義で習ったことを話しながら地下迷宮を歩いていると、ティタが急にこちらを振り返って驚いたように言った。


「メトラ……すごい、物知り」

「いや、まあ人に聞いた話だけどな」

「すごい……メトラは強いのに、かしこい。やっぱりチキのメトラはすごい」


 ティタが耳をピンと立て、キラキラした目でこちらを見上げてくる。

 頬もほんのりと赤く染まっており、何やらテンションが上っている様子だ。


「聞いた話をそのまま言っただけだから、何もすごくはないぞ?」

「そんな難しい話を覚えていられることがすごい」

「そ、そうか……」


 そもそも大して難しい話でもないんだが……まあ、人それぞれ苦手分野があるだろうからな。

 ティタにとっては魔法とか魔術あたりの話が難しく感じるのだろう。


「チキは魔法も、魔術もぜんぜんダメ……」

「ティタはその分、毒とか隠密行動とか、色々できるだろ?」

「毒と隠密行動じゃこれ以上、強くなれない」

「……それ以上、強くなってどうするんだ?」


 もう普通に生活する分には現時点で十分すぎるほど強いと思うんだが。

 闘技大会で優勝とか目指してるならともかく、これ以上はオーバースペックだろ。


「…………まさかメトラ、忘れてる?」


 ティタは目を丸くして言った。

 それ見て俺は思った。


 ……やばい、俺、なんか言われてたっけ。

 まったく覚えてないぞ。何も思い出せない。


「あー……ティタ、その、な……」

「忘れてる?」

「…………すまん」

「……………………」


 ティタは呆然とした様子でしばらく立ち尽くしたあと、突然こちらに背を向けた。


「……ティタ?」

「もういい。……メトラは買った魚に餌をやらない男だって、よくわかった」

「なんかそう言われるとすごく人聞きが悪いな」


 聞いたことのない言い回しだが、前世で似たような言葉を知ってるのでなんとなく意味はわかる。


「メトラは悪党で薄情だから仕方がない」

「おいティタ……」


 先を歩くティタに手を伸ばす。

 するとティタの尻尾が俺の手を振り払うようにペシリと叩いた。

 ……手の質量が大きすぎてビクともしていないためまったく振り払えてないが、ティタが怒っているということは十分わかった。


「悪かったよ。埋め合わせはするから勘弁してくれ」

「…………」


 ティタは無言で歩みを止め、こちらを振り返ってから俺の目を見つめた。

 それから顔を真赤にして口を開き……何も言わず閉じて、やっぱり開いてから、意を決したように言った。


「それなら……この仕事が終わったら、ち、チキの……」

「おう」

「……………………チキに、魔法を教えてほしい」

「……ん?」


 なんで急に接続詞が変わったんだ?

 …………いや、そこに触れるのはやめておくか。

 なんとなくだが、藪蛇な気がする。

 気がつかなかった振りをして話を進めよう。


「魔法か……」

 

 うーん……魔法って、教えようと思って教えられるもんじゃないんだが……。

 本来は魔術以上に先天的な才能が必要なものであり、俺はベニタマ……もとい、スヴァローグの力でチートしているようなものだから、完全に例外だ。


「……ダメ?」

「いや、ダメじゃないぞ。魔法だな? よし、任せろ」


 上目遣いで聞いてくるティタを見てつい反射的に答えてしまう。


 おいおい、なに言ってんだ俺は。

 ダメじゃないのは本当だが、ちゃんと説明しなければ。


「だが魔法ってのは本来、魔族や精霊以外は使えなくてな。たまに人間とかでも『属性持ち』ってのが居て、そういうヤツなら使えるんだが、だいたいは先天的な才能でな……?」

「知ってる。ダメ元だから、教わって使えなくても気にしない」

「ああ、そうか」


 なんだ、そこらへんの事情は知ってるのか。


「それなら問題はないな。じゃあこの仕事が終わったら……ハッ!?」

「メトラ?」

「……今すぐだ。今すぐ教える」

「今すぐ? なんで?」


 ティタは目をパチクリさせながら首を傾げた。


「いや、なんかな……『この仕事が終わったら』とか、そういう約束をすると変なフラグが……じゃなくて、不穏なことが起こりそうな気がしてな」

「……よくわからないけど、ジル・ニトラ様の依頼は?」

「歩きながら教えるから大丈夫だ」


 それにジル・ニトラも期間的にそこまで急じゃないと言っていたから、多少の時間ロスは問題ないだろう。

 あとは魔法を教えることに気を取られてスライムとやらに不覚を取らないようにすれば良い。


「それじゃ、まずは火魔法からやるか」

「わかった。チキは何をしたら良い?」

「先に手本を見せるから、まずはイメージしてくれ。そうだな……最初だし地下だから、大きさはロウソクの火ぐらいしとくか」


 俺は周囲の警戒と魔法の話を同時にしつつ、ティタと一緒に地下迷宮の通路を進んでいった。







 帝国の地下迷宮は、まさに迷宮と言うに相応しいほど複雑に入り組んだ迷路のようになっていた。

 ティタが居なかったら間違いなく迷っていただろう、というのが俺の感想だ。


 スライムに関しては事前に聞いていた通り、戦わないのであれば何も問題はなかった。

 魔法の話をしながらでも部屋の手前から余裕で存在を察知できるし、動きも遅く簡単に逃げられる。

 飛ばしてくる酸は確かに早いが、俺とティタなら避けるのに苦労はしない。 

 一本道の通路で遭遇した時はどうしようかと思ったが、それは俺がティタを抱えて風魔法で素早く天井スレスレを飛び、戦闘を避けることで解決した。

 

 ティタに教える魔法は予想通りと言うべきか、残念ながらと言うべきか、まったく成果が出なかった。

 俺のベニタマが持つ力は元来、初代スヴァローグが持っていた万能に等しいエネルギーらしいから、やり方とかイメージ次第ではティタに魔法の力を分け与えたりとかできるかもと色々試してみたのだが、何も起きず。


 そしてティタ自身にもともと秘められていた魔法の才能があった、なんて展開もなく、ただ単に俺がひと通り魔法を使って見せ、ティタはそれを見ながら試行錯誤するだけ、という結果になった。

 もちろん今後もやり方を変えたり、時間を掛けたりして色々と試すことはできるだろうが……おそらくは無駄になるだろう、というのが俺の見解だ。


 そんなこんなでひと通りの属性魔法を試したが取っ掛かりもさえも掴めず、やや落ち込んでいるティタを慰めながら地下迷宮を進んでいき、しばらく経った頃。


 俺とティタは今回の目的である宝玉が安置されている、地下迷宮の中心部にたどり着いた。




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